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もう一人の秀長8

 瞬く間に戦争機運が高まり次々と朝鮮に渡っていった。秀長の腰元である鼠が閨に案内した。鼠は口を動かすだけで話す。
「朝鮮征伐に正式に反対したのは秀長殿だけでした。家康殿は黙ったままで、それで秀吉殿が押し切られました」
 狗にはその風景が思い浮かんだ。
「だが伝えられるところでは家康殿は渡海させていません。殿下にどういう思惑があるのか分かりません。でも私は秀長殿を急病と称して引きこもりさせました」
「秀長殿はもう長くないな?だが天海は今の秀長殿が影武者ではないか疑っている」
「こちらにも服部が忍んできています」
「寧々殿には伝えてくれたか?」
「はい。お待ちするとのことです」
「今下忍は?」
「秀長殿の警備に3人、くノ一が2人、年寄りが1人です。後はお山に引き上げさせました」
 報告を聞いて約束の刻限に寧々の元に訪れた。秀長から紹介はされている。天井裏から声をかける。
「狗です」
「秀長殿は?」
「もう長くはありません」
「殿下はもう昔の殿下ではありません。もう茶々殿に任せて出家しようと考えています」
「家康殿とは?」
「家康殿は色々と面倒を見ていただいています。若い子達も家康殿を後ろ盾と考えているようです。三成達は完全に心が離れました」
 もう決定的な時を迎えようとしている。
 狗は下がると下忍を走らせた。お捨を抱えた茶々が今や天下殿になったようだ。茶々の横には胡蝶が控えている。今回朝鮮征伐に反対を唱えたことで秀長の評判は芳しくない。とくに三成が悪い噂を振り舞いていったようだ。

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