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結人と夜月の過去 ~小学校二年生③~




お盆 結人の家


―ピンポーン。
昼過ぎ。 昼食を食べ終えまったりとくつろぎながら過ごしていると、家の中にチャイムの音が響き渡った。 それを聞くなり、結人は急いで玄関まで駆け寄る。
―ガチャ。

「真宮!」

ドアを勢いよく開けると、そこには1年ぶりに見る友達の姿と、友達の母の姿があった。
「色折!」
真宮も結人の姿を見ると、笑顔で名を呼ぶ。 そんな二人の光景を見ていた真宮の母は、優しく微笑んだ。
「久しぶりね、結人くん」
「お久しぶりです! 真宮のお母さん」
“真宮のお母さん”というのも変だが、二人の間では苗字で呼び合っているため仕方がない。
「お久しぶりね。 無事に家まで辿り着いてよかったわ。 結人、浩二くんと一緒に外へ行って遊んできたら?」
3人の中に結人の母も加わると、続けてそう言われ大きく頷いた。
「うん! そうする!」
「あまり遠くへは行かないでね」
「はーい。 行こう真宮! 行ってきます!」

結人はこの日を心から楽しみにしていた。 もし真宮がこのお盆に誘ってくれなかったら、結人は今頃理玖たちと一緒にキャンプへ行っていたのだろう。
理玖と一緒にいることには苦痛を感じていないが、どうしても夜月がいると気まずい自分がいる。 その思いを、キャンプの間ずっと抱き続けなければならない。
それらから解放された今、結人はこの自由を思う存分に味わった。 隣にいる真宮を見ると、より苦しい思いを忘れられる気がした。
「ねぇ真宮、元気だった?」
「うん、元気だよ」
「よかった、安心したよ」
適当に道を歩きながら、二人の時間を楽しむ。
「でも僕は、色折がいた方が楽しいかな」
「それは僕もだよ」
「そっか。 でも色折も、相変わらずみたいでよかったよ」
「あぁ・・・。 うん」
真宮はその一言をさり気なく言ったつもりだったが、彼の表情からは何故か少し不安そうな気持ちが現れていた。 
結人が視線をそらしそう答えた後、真宮は空気を明るくしようと一人の少女の名を口にする。

「あ、相変わらずと言えば、藍梨さんも相変わらずだな」

「え?」

突然口に出された彼女の名に、すぐさま反応を示した。
「憶えてる? 藍梨さん」
結人の顔を覗き込み、少し笑いながらそう言葉を発してくる彼に、慌ててそっぽを向いて小さな声で返事をする。
「そ、そりゃあ」
「まだ好きなの?」
「・・・」
「今の学校で、好きな人でもできた?」
「できてない!」
「なら、まだ藍梨さんのことが好きなのか?」
「・・・まぁ」
最後は諦め、小さな声で呟いた。 そんな結人を見て、真宮は視線を前へ戻しながら言葉を返していく。
「そっか。 色折が転校する前に、僕に告白してきたもんね。 『藍梨さんのことが好きになっちゃったから、様子を見ておいてほしい』って」
「ちょッ、真宮!」
「いやいや、怒るなよ。 藍梨さんは横浜にいないんだから」
「・・・」
「まぁ藍梨さんは、本当に相変わらずだよ。 大人しくていい子にしていて、変わりがない。 大丈夫だ」
「・・・そっか」
一言だけ返すと、彼は何か思い出したのか突然声を張り上げてきた。
「あ! そう言えば、写真とかあったな。 集合写真で撮ったヤツ、前に配られたんだよ。 それを持ってこればよかったなー・・・。 
 まぁ、また次会う時にでも持ってこればいいか」
「次?」

「うん。 ・・・毎年のお盆に、色折に会いにきたら駄目か?」

その発言を聞いて、結人は一気に嬉しそうな表情になる。
「全然いいよ! 凄く嬉しい!」
素直な反応を見て、彼も安心したのか少し表情が和らいだ。
「よかった。 じゃあ来年も、また会おうな」
「うん!」
ここで一度話が途切れると、真宮は周囲を軽く見渡す。 そして静岡と比べ物にならない風景に、少し驚いた表情を見せた。
「それにしても、横浜は都会だなぁ。 人は多いし、建物も高いし!」
「そうだね。 でも人が多いのは、駅前とかでしょ? ここは学校とかが多いから、子供がほとんどだよ」
「そうみたいだな。 でも子供が多い方が安全だろ。 ほら、犯罪とかも少ないだろうし」
「それもそうだね」
「ここら辺で、どこか遊べるところはないのか?」
そう尋ねられ、結人はしばし考える。 駅まで行けば遊べるところはたくさんあるが、そこは歩いてすぐに行ける場所ではない。
「んー・・・。 車や電車で行ったら遊べるところはいっぱいあるけど、ここら辺で歩いていけるとしたら・・・公園くらいかなぁ・・・」
「公園か! そこへ行こう!」
「うん、いいよ」
そして公園へ向かおうとした途端、真宮は再び何かを思い出したかのように突然こう口にする。
「あ、その前に、色折の通っている小学校が見たいな。 ねぇ、案内してよ?」





学校前


真宮にそう言われ、学校まで案内した。 結人は今の夜月たちとの関係のせいで、あまり学校が好きではない。 
だからできるだけ避けようと思っていたのだが、彼に心配をかけないため複雑な思いを無理に押し殺し、ここまで誘導した。
学校ではプールが開かれており、そこには何人かの生徒がそこへ入って遊んでいる。 グラウンドで遊んでいる生徒もいる。 教室の中は、外から見る限り誰もいなかった。
「ここが色折の通っている学校かぁ! 広くて綺麗だなぁ」
「・・・」
学校の敷地には入らず、外からフェンスにしがみ付きながら真宮は楽しそうに口にする。 

だがそこから互いに何も話さず――――数分後。
「・・・行こう?」
結人はこの空気に耐えられず、そして学校を眺めているのにも苦痛に思えてきたため、真宮を連れてここから離れようとする。 だが――――
「いや、もう少し待って」
彼はそう言って、ゆっくりと目を閉じた。 そしてそのまま、小さな声でゆっくりと言葉を紡いでいく。
「うん・・・。 色折が楽しそうに、登校している姿が目に浮かんでくるよ」
「・・・」
「たくさんの友達に、囲まれているのかな」
「・・・」
「・・・よし。 公園へ行こうか」
それらの発言に何も返事ができずにいると、真宮はそんな結人を察してくれたのか、やっとの思いで学校から離れてくれた。





公園


「この公園も広いなぁ! ここにはいつも来るのか?」
「うん。 放課後とかにね」
今結人たちがいるここは、よく理玖たちと遊んでいる場所だ。 この公園は近所では一番大きく、遊具もたくさんある。 真宮は大きな遊び場を見て、一人はしゃいでいた。
「そっか! こんなに遊具があったら、飽きないもんな」
そう言ってしばらく遊具で楽しんだ後、二人はブランコへ行って腰を下ろす。 そして軽く漕ぎながら、真宮は隣にいる結人に向かって一つの質問をした。
「ねぇ、色折は友達とかできた?」
それを聞いて一瞬言葉を詰まらせるも、無理に笑顔を作って返していく。
「うん! いつも、5人で行動しているんだ」
「5人? ・・・あぁ、2人ペアは後から転校してきたから既に作れないのか」
「?」
「いや」
そして――――真宮は一度ブランコを漕ぐのを止め、結人に向かって楽しそうな口調で言葉を投げかけた。

「色折と仲がいい友達、4人いるっていうことだろ? その4人のこと、一人ずつどんな子なのか教えてよ」

その言葉に戸惑いながらも――――結人もブランコを漕ぐのを止め、彼に向かってこう返した。
「うん、もちろんだよ」


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