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温泉に絡んであれこれと その3

 テトテ集落で温泉を満喫し終えた僕に、集落の長であるネンドロさんが近寄って来ました。
「タクラ店長さん、まさかこんなことまでしていただけるニャんて……ホントにどれだけお礼を言えばいいニャ」
 そう言いながら何度も何度も頭を下げてこられます。
「いえいえ、気になさらないでください。この蛇口にしてもウチの奥さんがチャチャッと作ってくれたものですし、そうお金もかかっていませんから」
 僕はそう言って笑いました。

 そう、僕の台詞に嘘はまったく含まれていません。

 今回、テトテ集落にやって来る際にですね
「そう言えば、あの集落ってお年寄りが多いし、温泉があったら喜ぶだろうなぁ……確か共同浴場はあったはずだし」
 僕がそう言うと、スアは
「……じゃあ、温泉出るようにしよう、か?」
 そう言うが早いか、右手をくるっと回しました。
 で、次の瞬間、スアの手にはあの蛇口が2つ出現していたわけです。

 ちなみに、自称スアの一番弟子であるブリリアンによりますと
「タクラ店長、この魔法はですね、スア師匠だからこそこうして一見簡単そうにしておられますが、上級魔法使いでも出来るかどうかという程のレベルの魔法なんですからね」
 そう言いながら、ドヤ顔をして胸を張っていました。
「……いや、それはわかったけどさ、なんでお前は偉そうにしているんだ?」
「だって一番弟子ですもの」
 僕の質問にそう答えたブリリアンですが、その向こうでスアが大きく腕を回してバッテンポーズを作っていたのを、僕は見逃しませんでした。
「……弟子、違う、し」
 
 そんなわけで、まぁお金も手間もかかっていないわけですので、そんなに恐縮してもらわなくても……そう思っていたのですが、そんな僕にネンドロさんが腕組みしながら話を続けてきました。
「タクラ店長さん、実は村の皆とも相談していたのですニャけど……もしよかったら村で取れる野菜を、コンビニおもてなしで買い取ってはもらえないですかニャあ? いつものお礼に安くでいいですニャで」
「え? 買い取りですか?」
「はい。タクラ店長さんが、娘さんや奥さんを連れて定期的に集落にやってきてくれるようになったおかげで、集落の皆もはりきっておりましてニャあ。ちょっと前までは自分達が食べる分だけを細々と作っていたのが、皆元気いっぱいにニャって、どんどん畑もでかくなっているニャあ……で、さすがに村でも消費しきれニャいし、ならいっそコンビニおもてなしさんで買い取ってくださればと思いましてニャあ」
 そう言って、ニッコリ笑ってくれました。

 なるほどなぁ。
 僕は、ネンドロさんの話を聞きながら大きく頷きました。

 確かに、僕達が来ることで元気になってもらえて、それで生産量も上がるのならいいことだし、それをコンビニおもてなしで買い取って、村の皆さんの収益が上がるのなら、それもまたよしかなと思うわけです。
「そういうことでしたら、この集落の中にコンビニおもてなしグループの仕入部門を担っているおもてなし商会の出張所を作成しましょうか?」
 僕はそう言うと、ネンドロさんはびっくりしたような顔をしました。
「い、いやいや店長さん、そんなことはしていただかニャくてもですね、ワシらがガタコンベまで荷馬車で持って行きますニャし……」
 そう言うネンドロさんですけど
「いえいえ、ここに出張所を作っておいて、そこで買い取りをさせていただき、品物は魔法袋へ入れて保管しておけば場所もとりませんしね。で、僕達が来た時に品物を回収して帰ればいいだけですから」
 僕がそう言うと、ネンドロさんは嬉しそうに微笑みました。
「なんとまぁ……ワシらの村にコンビニおもてなしさんが出来るのですかニャあ……あ、でもそれニャと、店長さんが、パラナミオちゃん達と一緒にやってくるのもこれで最後……」
 そう言うと、今度は一転してその顔を曇らせるネンドロさん。
 その周囲にいつのまにか集まっていた集落の皆さんも、なんかこの世の終わりか、ムンクの叫びかって表情をその顔に浮かべていました。
 で、そんな皆さんに僕はニッコリ笑いかけました。
「いえいえご心配なく。あくまで買い取りメインの店を置くだけですので。少しくらいは品物も置いておこうかとは思いますけど、今まで通り子供達も連れて遊びに来ますからご心配なく」
 僕がそう言うと、
「タクラ店長ありがと~」
「いやぁ、あんたならそう言ってくれると信じてたよ」
「これからもパラナミオちゃんやリョータくん、スアさんにあえるんじゃねぇ」
 みんな大歓声と共に、いろんな声をあげていきました。
 そんな声を聞いていると、僕もすっごく嬉しくなってきます。

 ただ、となると、このテトテ集落に設置するおもてなし商会テトテ集落店で勤務する人を探さないといけないなぁ……そう思っていたのですが、そんな僕の側にですね
「あンの、店長さん。私、昔この集落で雑貨屋をやっていためぇ。計算なら得意だけど、どうかしらめぇ?」
 リンボアさんがニッコリ笑いながら歩み寄って来て、そう言ってくれました。
 で、リンボアさんの自宅の脇には、その雑貨屋スペースが当時のまま残っていまして、広さといい、店構えといい、ちょうど良さげな感じでした。
「じゃあリンボアさん、お願いしてもいいですかね? 帳簿の付け方とかは、おもてなし商会を仕切っているファラさんって人に一回来てもらって説明してもらうようにしますので」
「はいぃ、わかりましためぇ」
 そう言うわけで、この集落の住人の中で、一番若いリンボアさんにおもてなし商会テトテ集落店をお願いすることになりました……まぁ、一番若いといっても僕の倍くらいの年齢なんですけどね。
 で、まぁ、弁当なんかも数日分作成して魔法袋に入れてもってきておいて、一日分ずつ店頭で販売してもらってもいいかな、なんて思ったりしています。
 魔法袋の中から出さなければ、いつまでも傷みませんしね。
 家に戻ったら早速、おもてなし商会ティーケー海岸商店街店のファラさんとこに行って打ち合わせして、ここまで来てもらう段取りをつけないと……
 そんなことを考えながら、僕はフと思いついたことをリンボアさんに話しかけてみました。
「あの、リンボアさん。この集落の特産というか、名物料理みたいなものはありますか?」
「特産? 名物料理……ですめぇ?」
「はい、もしそういう物があればコンビニおもてなしで販売してもいいかなと思ったりしたもんですから」
 僕がそう言うと、リンボアさんは少し首をかしげまして
「そうですめぇ……街とは変わった昔ながらの料理なんかがありますんでぇ、次回店長さんがこられるまでに、集落のお友達と一緒に何か考えてみますめぇ」
 そう行って笑ってくれました。
 うまくいけば、その料理を使った弁当を販売して、この集落の宣伝にもなるかもしれませんしね。

 そんな話をまとめ終えた僕がおもてなし一号の所へ戻ると、風呂から上がったパラナミオが、集落のお年寄りの皆さんの肩を叩いてあげていました。
「あぁ、極楽じゃあ、極楽じゃあ」
 なんか、今、パラナミオに肩を叩いてもらっているお爺さん、拝んでいるんですけど……
 そんなお爺さんに、パラナミオは満面の笑顔を浮かべながら、タントンタントンタントントンといった感じでリズミカルに肩を叩き続けていました。
 その姿を見ていますと、うん、確かに天使です、この子。
 僕まで思わず拝みたくなりましたもの。

 でもまぁ、時間も時間です。

 名残惜しいですが、パラナミオには適当なところで肩たたきを打ち切ってもらいました。
 で、お年寄りの皆さんも、並んでいた皆さん全員は出来なかったのですが
「いやいや、ワシらは次回で十分じゃ」
「ギリギリまでこうしてワシらのために頑張ってくれた、その気持ちがうれしいじゃで」
 肩たたきの列に並んでいたのに叩いてもらえなかった皆さんも、皆笑顔でそう言ってくれました。
 ホントに、ありがたいことです。
「次回も肩たたきします!」
 パラナミオも、そんな皆さんに笑顔でそう言っていました。

 で、そんなパラナミオや、リョータをフロント抱っこしたスアを乗せ、僕はおもてなし一号を出発させました。
 ミミィさんが護衛を申し出てくれたんですけど、もう日が落ちかけていますので、お気持ちだけいただきました。

 来た時同様、すっごい歓声に送られながら、僕達はテトテ集落を後にしていきました。

 この日のパラナミオは、よほど疲れたらしく、集落の皆に窓から手を振りまくった後、みんなの姿が見えなくなるとすぐに寝息を立て始めました。
 バックミラー越しに見えるその寝顔……うん、ホントに天使です。
「パラナミオ、お疲れ様」
 僕がそう言うと、パラナミオは寝息をたてながら嬉しそうに微笑んでいました。
 そんなパラナミオの様子を、スアも笑顔で見つめていました。
「……いい娘、ね」
「あぁ、ホントにいい娘だ」
 僕とスアは、そう言い合いながら互いにニッコリ微笑みました。

 血はつながっていませんけど、パラナミオは大切な僕とスアの娘です。

 いつか、いい人を見つけて嫁に行くまで、しっかり育てて……いや、別に、無理に見つけなくてもいいんですけどね……いや、結構本気でそう思っていますけど……

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