ビアホールと…… その2
コンビニおもてなし本店裏に出来上がったビアホールですが、特にひねることもなく『コンビニおもてなし酒場』という名前にしました。
実際の所、コンビニおもてなしで販売している酒類がコンビニおもてなし閉店後でも飲めるというのを売りにしたといいますか、
「スアビールを飲める酒場はないのかよ?」
って声が多数寄せられていたことあったので、とりあえずビアガーデンもどきでもやってみようかってコンセプトで始まり、このコンビニおもてなし酒場へたおつながったわけです、はい。
あちこちの酒場や、辺境都市からもこのスアビールは卸売りの希望がひっきりなしなんですよね、ありがたいことに……ただ、このスアビールはそこまでたくさんは作れないのが現状です。
スアの使い魔の森のみんなが総出で頑張ってくれていて、なおかつプラントの木も使って今の生産量を維持出来ているわけなんです。
で、店で売る物と、ビアガーデンで販売する用のスアビールの量は毎日その総量が決まっていまして、それが無くなったら皆はタクラ酒を飲んでいるわけです、はい。
まぁ、セーテンだけは
「ダーリンの名前の入った酒しか飲まないキ」
と言って、いつもタクラ酒しか飲まないそうなんですけどね。
ただ、このスアビールに関しては外部からの注文や問い合わせが殺到しているわけなんで、何かいい方法がないかと、スアとも相談中でして、目下スアがあれこれ思案してくれているんですよね。
と、いうわけで、ビアホールで販売する酒は2種類。
スアビールとタクラ酒です。
これ以外に、パラナミオサイダーもソフトドリンクとして販売することにしています。
料理は今まで通り、イエロ達が交代で調理する焼き串に加えて、僕が作り置きしておく豚汁などのスープ類も販売する予定にしていまして、それ用のスペースもしっかり設けてあります。
2階の宿スペースも、思った以上に小綺麗にまとまっています。
ここは、コンビニおもてなし2号店の店員であり、元シャルンエッセンスの館のメイドだったシルメール達が交代で面倒をみてくれることになっていまして、この日はシルメールがやってきて、宿の部屋の具合やベッドの様子を確認していました。
「タクラ店長、希望があったら洗濯を受けたりしてもいいのかな?」
「そうだね、全自動洗濯機があるし、大丈夫だよ」
そうなんですよね。
コンビニおもてなし本店には、電気式の全自動洗濯機があるんです。
しかも、これは乾燥機能もついたやつなもんですから、宿泊客から洗濯物を依頼されても朝までにはばっちり乾いた状態にすることが可能なわけです。
いやぁ、やっぱホント、太陽光発電を導入しておいてよかったと、つくづく思います、はい。
で、シルメールの部下にあたるメイド達の中にはこの全自動洗濯機の使用方法を知らない女の子もいるので、近いうちに皆を集めて講習会を開くことになりました。
◇◇
そんなこんなで、いよいよビアホールオープン初日がやってきました。
「タクラ街長、おめでとうございますです」
そう言いながら、商店街組合のエレエが花を持ってお祝いに駆けつけてくれました。
やっぱ、事務仕事をきっちりするエレエらしく、きっちりオープンと同時にやってきてくれました。
で、まぁ、街長なんですよね、僕……臨時のですけど。
この辺境都市ガタコンベは、あまりに辺境過ぎて街長のなり手がなかったため長年そのまま放置されていたのですが、色々あって僕がその座を臨時で努めている次第なんですよね。
……といっても、実務的なことはほとんど蟻人達がやってくれているので、僕自身はほとんど何もしていないというのが現状なんです。
ただ、たまにエレエが持ってくる都市行政に関する書類に関しては、だからこそしっかり読むことにしています。
まぁ、正直内容はよくわからないんですけど、書類を見ておきながら知りませんじゃあ困りものですからね。
話が少し逸れてしまいましたけど、花束を持って来てくれたエレエは、その足で店内にある中央の一番いい席に座りまして
「せっかくですので商店街組合のみんなで今夜は飲み会をさせていただきます」
そう言ってニッコリ笑いました。
で、エレエの言葉通り、ほどなくして商店街組合の蟻人達が続々とやってきました。
皆は、
「タクラ街長、おめでとうございます」
「いやぁ、良いお店ですねぇ」
と、口々に褒めてくれながらも、
「とりあえず、スアビールで」
の注文を忘れることはありません。
そうこうしていると、ガタコンベの街の皆さんもどんどん店にやってきては
「開店おめでとう」
「いやぁ、めでたいねぇ」
僕にそんなことをかけてくださりました。
店は、あっという間に満席になりました。
一応、河原でビアガーデンもどきをやっていた頃の来客具合を元にして考えていたんですけど、その予想を遙かに超えた数のお客様達がやってきているわけです、はい。
結局、店の中に収まりきらなかったお客様用に、店の外にも机やテーブルを出す羽目になったわけです。
で、このビアホールの中ではコンビニおもてなしで販売している商品も扱っているのですが、早速それを求めてやってくるお客様もいたわけです。
具体的に言いますと、リョータミルクこと粉ミルクです。
夜中に在庫が切れたり、うっかりこぼしたりしてしまったママさん達が、思った以上にビアホールにやって来ては粉ミルクを買って帰って行かれたそうです。
「これでいつでも粉ミルクを買えるわけですね」
そう言って、ママさん達は安堵しきりなご様子だったんですけど、そう言ってもらえると僕もやっぱ嬉しいわけです、はい。
こうして、以前からの懸案事項だった屋外営業をしていたビアガーデンもどきも、どうにか店舗内経営を行う事が出来るようになりました。
ちなみに、イエロとセーテンに飲まされまくった街の皆さんは、そのまま2階の宿に直行しちゃったりしたもんですから、宿の方も期せずして大盛況になったわけです、はい。
これには、宿スペースを任せているシルメール達も
「まさか、いきなりこんなにお客様がくるなんて」
「これは頑張らないといけませんわね」
と、気合い十分の様子でした。
ちなみに、ビアホールには焼き菓子などのスイーツも置いてあり、それは全部ヤルメキスが作ってくれています。
で、この日も、焼き上がったばかりの焼き菓子~今日のは、いわゆるクッキーですね~を、持ってビアホールへとやってきたヤルメキス。
そんなヤルメキスを、イエロとセーテンが左右から抱え込んでいきました。
「な、な、な、なんでごじゃりまするかぁ!?」
「まぁまぁ、ヤルメキスよ。お主はいつもお疲れではないか? たまには我らと酒でも飲もうではないか」
「そうキ。たまには付き合うキ」
とまぁ、イエロとセーテン2人から二人がかりでそう言われながら席に連行されていったヤルメキスは
「あ、あ、あ、あの、私はですね、その、お、お、お、お酒はちょっと苦手でごじゃりまして……」
そう言いながら苦笑していたのですが、そんなヤルメキスの口に、イエロがタクラ酒をズポッと突っ込みまして、
「酒くらい飲めないと、いい菓子は作れないでござるよ」
そう言いながら笑っていたんですけど……
~その3分後
「は、は、は、はらほろひれぇ~……で、ごじゃりまするぅ」
真っ赤な顔をしたヤルメキスが、へべれけ状態で机に突っ伏して気を失っていました。
「おいおい、どんだけ飲ませたんだよ、イエロにセーテン」
「何をおっしゃいますか、主殿。たかがタクラ酒を5本でござりまするぞ」
「……おま……酒盛りが始まって3分でそりゃ多いだろうに……」
僕は、呆れ顔をしながら
「とりあえずヤルメキスを部屋まで連れて行ってあげないと」
そう言いながら、ヤルメキスに近づいていくと、そんな僕をイエロとセーテンが静止しました。
「いくら主殿でも、この役目はだめでござる」
「は?」
僕が、イエロの言っている言葉の意味がよくわからず、首をひねっていると
「あの……すぐここに来るように言われて来たンすけど……」
そう言いながらビアホールの入り口からルア工房のパラランサが入ってきました。
……っていうか……僕じゃダメって、こういうことか。
僕が思わず苦笑する中、へべれけ状態のヤルメキスを見つけたパラランサは思わず目を丸くして
「ちょ!? ヤルメキスちゃんに何をしたんですか!?」
と、まぁ、怒り心頭の様子だったんですけど、そんなパラランサに、イエロは
「ちょっと良いことがあったらしくて飲み過ぎたようでござる。ちと、部屋まで連れて行って上げてほしいでござる」
そう良いながら、パラランサの肩を叩きました。
そんなイエロに、パラランサは「しょうがないなぁ」ってな感じの苦笑を浮かべ続けていたんですよね。
ちなみに、後でわかったことなんですけど……この日のパラランサは朝帰りだったそうで、ルアの工房には朝方帰って来たんだとか……
さてさて、ヤルメキスの部屋で昨夜何があったのやら……ねぇ?
ーつづく