秀長3
秀長が狗を連れて石川数正の屋敷を訪ねた。もちろん30人ほどの侍を連れたが部屋に入ったのは狗だけだった。それは狗に石川数正の顔を見せるためだ。数正は本能寺の変までは家康の重臣だったのだ。それがもとでくすぶり続けていて秀長は気を揉んでいるのだ。
「今回家康殿はここに来られるかどう思われる?」
「来られます」
「どうして?」
「小牧の戦いでは秀吉殿は家康殿の強さに驚かれたはずです。でも逆に家康殿は秀吉殿の力を思い知ったと思います。正面から戦える相手ではないと考えられたはずです。信長殿を見た時と同じ思いかと?」
「でも待っておれる年齢ではなかろう?」
秀長は数正を信頼しているところがある。
「だからじっくり仕掛けてくると」
「狗は何か聞きたいことは?」
最近狗を連れ歩くので顔は覚えられている。
「柳生宗矩殿は古くから?」
「いえ、新参者でござる。剣より悪知恵が働きまする。私とはよくぶつかりました」
「光秀殿は?」
「宗矩が密かに会っていると言う噂を聞いておりました」
「天海殿は?」
「初めて聞く名前ですな」
「光秀の化身で宗矩殿の元にいるようです」
屋敷を出る時に秀長が、
「どうだ?」
と聞いた。
「嘘はないように思われます」