天下への階段9
秀長が宗矩の屋敷の前の茶屋を買い取る金を出してくれた。極秘に茶屋を買い取りくノ一2人と年寄りを配置した。この2階が狗の隠れ家となり、ここの裏口から年寄りやくノ一が家康の兵力を調査に出かける。鼠は年寄りと交代で天海がいる寺の出入りを見張っている。宗矩の屋敷はのっぺりが住み込んでいる。
鼠の繋ぎで年寄りが茶屋に入ってきた。狗が裏道を抜けて寺の見える草むらに潜んだ。狗が口笛を吹くと鼠が草むらに顔を出した。
「宗矩が来ています」
「柳生は?」
「表に5人、裏に下忍が3人潜んでいます。庫裡には蔵から入ることができます」
そう言って走り出す。蔵の屋根に上ると鼠が高窓の窓枠を外す。これは鼠の工夫だ。天井裏の梁をたどって鼠の指す穴から覗く。宗矩の背中が見える。
「小牧の戦いでは残念でしたな」
「いえ、秀吉にはいい薬だったと家康殿が言っておられます。忠告には礼を言っておられた。ところで秀吉はどう出るかと?」
しばらく天海は目を瞑る。鼠は高窓から外を見ている。
「秀吉なら次は抱き込みに来るだろうな」
「なぜ?」
「今回の戦いで力では無理だと悟った。賢い男だ」
「家康殿も力ずくだと無理だと言われて」
「恐らく頭を低く人質でも送って来るかのう?だが向こうの作戦に乗るだけでは」
「今後誰と話をしたら?」
「黒田官兵衛だろう。あれは宗矩殿より以上の野心家だよ」
狗も同じことを考えていた。秀吉も同じことを考えたのだろう。
「揚羽を連れて行くがいい。潜入は柳生で考えてくれ。あれは変装の達人だ」