バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

秋の収穫祭 序

 今日の僕はコンビニおもてなし四号店で仕事をしていました。

 復興途上のララコンベですが、街の雰囲気はとても良い感じです。
 元門の番人だったララデンテさんの思念体……まぁ要は幽霊なんですけどね、とにかくその
ララデンテさんを一目見ようと押し寄せて来るララコンベ周辺にお住まいの皆さんのおかげで、せっかくきたんだし、ついでに温泉街も……と、棚ぼた的に温泉を訪れるお客さんの数が飛躍的に増加しているわけです、はい。

 僕が元いた世界で例えれば、奈良の大仏様が生きて動いている……と、まぁそんな感じでしょうか。

 で、最初はもの珍しさで訪れていたお客さん達ですが、
「よぉ、いらっしゃい。せっかく来てくれたんならさ、温泉と温泉饅頭もしっかり堪能してってくれよ」
 と、コンビニおもてなし四号店の出店で気さくにみんなに話しかけていくララデンテさんのおかげで、温泉を利用する人と、温泉饅頭をお土産に買って帰る人達が増加し続けてまして、いまでは純粋に温泉と温泉饅頭目当てでララコンベを訪れている人も少なくありません。

 そんなララコンベで、今月終わりに秋の収穫祭が行われます。

 この秋の収穫祭は、

 春の花祭り
 夏の夏祭り

 この2つの祭りと並び称されている、この周辺に位置している辺境都市と辺境小都市、それに街や村、集落が一同に介して行う合同祭りの一つです。

 会場は、五つある辺境都市が持ち回りで受け持ってまして、主催都市は2日にわたって行われる祭りの開催期間中、常に大勢の人で賑わうことになります。

 で、ララコンベは、本来なら夏祭りを主催するはずだったんですけど、この頃のララコンベは街が消滅するんじゃないかって危機に瀕していたもんですから、それどころじゃなかったんですよね。
 で、今のララコンベは、さっきも申し上げましたようにかなり復興も進んだもんですから、順番を入れ替えたことにして夏祭りに変わってこの秋の収穫祭をララコンベが主催することになったわけです。

 このララコンベですが……
 ド田舎であるこの一帯に位置している辺境都市の例に漏れることなく領主がいなくなった後、誰一人として領主のなり手がなかったのですが、王都が全国土に通達した『領主任命令』に基づき、今は辺境駐屯地に勤務しているメルアが領主を務めています。

 かつてイエロに弟子入りしていた……っと、そう言えば本人的にはいまもイエロの弟子のつもりらしいんですけど、そんなメルアですが、いつも隊長であるゴルアの後をついて回っている女の子ってイメージが強いんですが、辺境駐屯地では副隊長を務め、隊長のゴルアをしっかりサポートしているようです。
 僕の目には、パシリとして駐屯地のみんなのスアビールを買いにコンビニおもてなし本店に足繁く通っている彼女のイメージがしかないのですが、きっと頑張っているんだと思います。
 と、言うのも、
 ゴルアが隊長、メルアが副隊長に就任して以後の辺境駐屯地に関しては悪い噂をほとんど聞かなくなっているんですよ。

 以前の隊長時代には、ちょっと酒場をのぞいて見れば
「辺境駐屯地のやつら、集金には足繁く来るくせにちっとも警邏しねぇ」
「害獣駆除してんのか?」
「最新版の指名手配書が全然とどかない」
 酔客の一人や二人は必ずこんな内容の愚痴を肴にして、やけ酒をかっくらってたわけなんですが、

 二人の時代になってからは、こういった声はほとんど聞かなくなっています。
 駐屯地の皆の連携もよく、みんなでチームを作って定期的な警邏をしっかり行っていますし、害獣駆除にしても自分達の手に負えない魔獣が出た場合にも、以前の隊長達のように見なかったことにして放置することなく、イエロやセーテン達に協力を依頼し、ともに駆除にあたっていますしね。

 で、そんなメルアが領主を務めているここララコンベでは、本日、秋の収穫祭に向けた各辺境都市街長が集まって会議が行われることになっています。

 閉店時間になると、僕は副店長をしてもらっているダークエルフのクローコさんに
「じゃ、悪いけど後片付けをよろしく頼むね」
 ってお願いしてから都市の真ん中にありますララコンベ役場へ向かって移動していきました。
 すると
「タクラ街長、私達も一緒にいきますので」
 って、スアが作ってくれている転移ドアを使って、ここララコンベへとやってきたばかりらしい辺境都市ガタコンベの役場の蟻人エレエが僕に向かって駆け寄ってきました。

 現在、ガタコンベの名ばかり領主をしている僕の代わりに、ガタコンベの役場仕事の大半を行ってくれているのが、商店街組合のエレエを中心にした、組合の蟻人さんご一行なわけです、はい。
 エレエは、僕の負担にならないように、と、書類の作成から金銭出納業務など、書類仕事のほぼ全てをやってくれています。
 
 ちなみに、今日開催される「秋の収穫祭実行委員会」ですけど、実質的な話合いは、各都市の役場業務を担っている蟻人さん達がすでに極秘裏に集合して打ち合わせを終わらせているもんですから、実際の所今日の会議は
「じゃ、そういうわけで、秋の収穫祭がんばりましょう!」
 ってみんなで健闘を誓い合って、はい終了って流れになる予定です。

「タクラ店長は、みんなにする挨拶だけ考えておいてください」
 って、エレエから言われていたんだけど……ぶっちゃけ何にも思い浮かんでいないんですよね、いまだに。
 まぁ、他の人の挨拶を参考にして、あとはアドリブでなんとかしようと思っていた僕なんですが、

「じゃ、まずは各都市代表による挨拶を……ガタコンベのタクラ店長からお願いしますます」
 と、実行委員会の司会進行を兼任しているララコンベの町役場を取り仕切っている蟻人のペレペがいきなり言うもんですから、

 僕の計画は、会開始から1分もかからずに瓦解していきました。

 まぁでも、無難に
「バトコンベの領主にですね、最近就任しましたタクラと言います。皆さんよろしくお願いします」
 とだけ言うとそそくさと席に座っていきまして、挨拶の後は、隣の席に座っているブラコンベ街長であるゴルアの影に隠れるようにして過ごしていきました。

 でもまぁ、秋の収穫祭実行委員会事態はそんなに面倒くさいことではありませんでした。

 秋祭りに限らず、この三大辺境都市祭りでは、主催都市に各都市や集落のみんなが集結して主催辺境都市の中のあちこちに出店を出す予定になっているのですが、今日の会議ではその場所割りを正式に決めておくというのが一番の議題だったようです。

 それもすでに各都市の蟻人だけで集まり、折衝を済ませていたもんですから、この日の会議はあっという間に終了していきました。

 しかし、メルア……緊張しまくってたなぁ。
 自分を落ちつかせるために、何度も水を飲もうとしてたんですけど、その度にコップを握り損ねて机の上を水浸しにしていったんですよね。
 これを、みんなの緊張をほぐすためにやったんだって言うのなら……あ、いや、例えそういった意図があったとしても、机の上を水浸しにするっていうのは、周囲に座っている他の人達にも迷惑かけてるわけですよ、ホント。
 で、会終了までの間にメルアは5回もコップを倒してしまい、その都度机の上を水浸しにしていたわけで……

 でもまぁ、無事この日の会議を終えた僕らは、ガタコンベに戻るべくコンビニおもてなし四号店へ戻って行きました。
 クローコさんは店の後片付けを終えてみんなで帰宅した後だったらしく、コンビニおもてなし四号店の出入り口には閉まっていました。
 僕は、合い鍵を使って中に入って行きまして、スアが据え付けてくれている転移ドアをくぐって家へと戻っていきました。
 
 やれやれ……今日もあれこれ大変だったなぁ……僕は内心でそんなことを思いながら巨木の家へと入っていきました。

 そんな僕の目の前に、リョータが超高速ハイハイで駆け寄って来ました。
 
 そうなんですよ、リョータってば、このハイハイを覚えてからというもの、隙あらば家の中をすさまじい勢いでハイハイしまくってるんです。
「いやぁ、リョータすごいよ」
 僕はそう言いながらリョータを抱き上げると……ってか、リョータすごく重くなってるなぁ。
 とにかく、リョータを抱き上げた僕は
「リョータすごいじゃないか! パパも嬉しいよ」
 そう言いながらリョータに頬ずりしていきました。

 リョータは、僕に向かって
「きゃっきゃ!」
 っ言いながら、僕の腕の中で満面の笑みをうかべていました。

 ……ホント、赤ちゃんの成長って早いですよねぇ。

しおり