天下への階段3
浜松の宗矩の屋敷に張り込んで1月になる。のっぺりを柳生の賄いどころに潜入させた。年寄りは屋敷の前の茶屋の下働きともう1人と鼠は浜松城下を探らせた。狗は屋敷の何度か潜った。下忍が3人屋敷内に潜んでいる。この下忍たちの持ち場は限られていて宗矩の部屋には近づかないようだ。
このひと月は宗矩の姿はなかった。侍の話では家康の元にいるようだ。茶屋の年寄りから繋ぎが入った。京之助が屋敷に入ったと言うのだ。狗はすぐに屋敷の潜る。宗矩の部屋の天井裏から部屋を見るが腰元がお茶を運んできたところだ。その後宗矩が入ってきて座った。しばらくして京之助が姿を現す。
「どうだ光秀は落ち着いたか?」
やはり京之助が光秀の繋ぎをしていたのだ。
「新しい顔を」
「そうか」
「なぜ柴田殿を応援しなかったのですか?」
「交渉はした。だが勝家には天下を治める器ではなかった。殿はこの際秀吉とぶつけて共倒れを意図した。だが秀吉の運は強い。殿は徳川がまだ天下を取るに相応しい力がないと慎重なのだ。だが対等な立場を作らねばな」
「織田の息子を担ぐ?」
「それはすでに手を打っている。だが頼りない息子だ。京之助は光秀と相談して真田に行ってもらう」
「真田?」
「これは食えない男よ」
1刻半話し合って京之助は屋敷を出た。狗はその後ろを付ける。城下の外れまで来ていきなり京之助が小刀を投げてきた。次の瞬間姿が消えた。狗は慎重に続く道を走る。大きな森が見えた。お寺の門がある。だが無数の下忍の気配がある。仕方なく裏側に回る。鼠の口笛が聞こえた。