おもてなし1号に乗って その1
ララコンベのコンビニおもてなし4号店では、ダークエルフのクローコさんが店長補佐を無難にこなせる程頑張ってくれています。
「店長ちゃんはさ、やったらやった分評価してくれるから、マジパナイよ」
そう言ってニカッと笑うクローコさんですけど、彼女の場合、ダークエルフってだけで結構差別されたりしていたって言っていたし、そういう経験が多かったからこその言葉なんだろうな、と思った訳です。
とはいえ、僕的にはですね、クローコさんに問題を感じることはあまりないわけです。
見た目は派手ですけど、調理をする際には手も綺麗にして、アクセも全部はずして作業にかかってくれますし、いつも笑顔で、かつ大きな声で接客もしてくれていますしね。
時折、砕けすぎた言葉遣いをお客さんにかけていってびっくりされることもありますけど、最近はそれもクローコさんのキャラみたいな感じで認知されはじめているみたいで、特にララコンベのお客さんからは
「クローコちゃんのその言葉を聞くと、なんか元気になるよ」
そう言われて、なんか親しまれているわけです、はい。
この調子で、僕はクローコさんに仕事を教えていって、ゆくゆくはクローコさんを4号店の店長に、と、思っています。
まぁ、年齢も人間で言えば僕より少し年上にな……
「もう、店長ちゃんたら、なぁにアタシの個人情報暴露ってんのかなぁ、それはトプシ~トップシークレット~だし、絶対言っちゃダメって言ったよね? ね?」
わかった……わかったから、僕の背中を全力でつねるのはやめてくださいクローコさん、あだだだだだ。
◇◇
そんな感じで、ララコンベのコンビニおもてなし4号店も良い感じで軌道に乗り始めている中、今日の僕は本店の厨房で新商品の試作をしていたんだけど、
「店長、ちょっといいですか?」
本店副店長のブリリアンがそう言いながら厨房にやって来ました。
僕はブリリアンに連れられて応接室へと異動していったんですが、するとそこにはソファで横になっている年配の羊人のご婦人の姿がありました。
これが、僕が元いた世界の警視庁24時なんかだと、万引きGメンが云々とかいうシチュエーションになってもおかしくないな、なんて少しおもったりしたんですけど、このご婦人は、どこかお疲れのご様子でソファに横になっていますので、そう言った類いのお話ではないようです。
ブリリアンの話だと、
「この方なのですが、レジを済まされたらですね、いきなり倒れ込んでしまったのですよ」
とのことでした。
僕は
「大丈夫ですか?」
その言葉に続けて『救急車を呼びましょうか?』そう言いかけて慌ててとめたんですけど、やっぱ頭の中には元の世界の事が残ってるんだなぁ、と思った訳です。
僕の言葉を聞いたご婦人は、大きく息を吐きながら上半身を起こしていくと
「あんれ、皆様にご心配おかけしてしまって、ほんにすいませんですめぇ」
そう言いながら深々と頭を下げていった。
なんでもこのご婦人は南方のテトテっていう集落に住んでいるんだとか。
「テトテと言いますと、徒歩だと半日どころではなくかかる距離ですね」
ブリリアンがそう教えてくれたんだけど、この羊人のご婦人、名前をリンボアさんって言うそうなんだけど
「えぇ、その距離を歩いてきたんですけど……いつもは無理なく往復出来ているんですけど、今日は朝から少し体調が悪かったものですから……そのせいで、倒れてしまったようですめぇ」
そう言いながら、また頭を下げられました。
少し休んで元気になりましたから、と、リンボアさんは歩いて帰ろうとしたんですけど、さすがにこの状態の彼女をそのまま歩いて帰らせるのは心配なわけです。
そこで僕は
「今日は特別にお送りしましょう」
そう言いながら、電気自動車おもてなし1号を発進させました。
「あんれまぁ、この乗り物ってば馬に引かれてないのに、すごいスピードめぇ」
リンボアさんは、そう言いながらおもてなし1号の中で終始びっくりモードでした。
歩けば半日の距離ですけど、このおもてなし1号だとものの1時間ほどでテトテ集落に到着しました。
おもてなし1号が集落につくと、
「なんだなんだ?」
「ありゃ、何だ一体?」
このおもてなし1号が珍しくて仕方ないらしく、集落の皆さんが集まってきてですねおもてなし1号を取り囲んで珍しそうに見回していったわけです。
そのあまりの人混みに苦笑しながら、僕はリンボアさんをご自宅までお連れしました。
家にはリンボアさんの旦那さんがおられたのですが
「リンボア、一体どうしたのじゃめぇ」
心配そうな顔で、リンボアさんに歩みよっていかれました。
リンボアさんは、そんな旦那さんにニッコリ微笑むと、
「ちょっと、コンビニおもてなしさんで疲れちゃいましためぇ、この優しい店長さんがわざわざ送ってくださいましためぇ」
そう旦那さんに告げていました。
旦那さんはその話を聞くと
「いや、妻が世話になりましためぇ……私ら夫婦、コンビニおもてなしさんのスイーツが大好物でしてな、
週に数回お邪魔しているのですめぇ」
そう僕に話してくれました。
そっかぁ……こんな遠くからも来てくださってたんだ。
僕は、2人にお礼を言い
「またいつでもお越しください。お待ちしております。あ、でもお体にはくれぐれもお気を付けて」
そう告げて、2人の家をあとにしました。
家からの道を歩きながら、僕はあれこれ考えたんですけど
……この集落って、ほとんどの人がお年寄りなんですよね。
さっきおもてなし1号に群がってこられた方々が、ほぼ全員そうでしたし、今、道をすれ違う方々も皆年配の方々ばかりですし……
集落の中には、店らしき物もありませんでした。
それもあってリンボアさんはわざわざガタコンベのコンビニおもてなしまで来てくださってるんだろうな、と思った訳です。
こういった遠方からお見えになってくださっているお客さんにも、何か出来ることがないのかな、僕はあれこれと考えながら車に戻って行ったのですが、
「な、なんだぁ!?」
おもてなし1号の周囲には、到着した時の倍近く……おそらく、この集落のほとんど全部の人が集まってるんじゃないかってほどの人だかりが出来ていまして……そんな人混みをかき分けながら運転席に乗り込むだけで20分近くかかってしまいました。
なんとかおもてなし1号に乗り込んで帰路につくと、テトテ集落の皆さんが手を振って見送ってくれていました。
なんと言いますか、リンボアさんを送ってきただけなのにここまでしてもらっていいのかな、と思ったりした僕だったわけです、はい。
ガタコンベに戻った僕は、その足で商店街組合のエレエの元を尋ねました。
そこで僕は今日の出来事を話したところ
「そうですね、テトテ集落の周辺には、多くの亜人集落がありますねぇ」
とのことでした。
なんでもあの一体には、昔亜人達の大きな村があったそうなんですけど、若い人達が「街に出る」といってどんどん居なくなってしまい、今では村は小さな集落に別れてしまい、どの集落も老人達しか残っていないんだそうです。
「昔は行商人が定期的に出向いていたんですけど、最近はどの集落も人口が減っちゃってますから、行商人達も誰も出向いてないみたいですね」
とのことだった。
それを聞いて僕は腕組みしながらあれこれ考えていったわけです。
そんな事を考えながら家に帰ると、
「あ、パパお帰りなさい」
そう言いながらパラナミオが僕を出迎えてくれました。
パラナミオは、居間のソファで横になっている赤ちゃんのリョータの横で積み木を組み上げながらリョータにそれを見せてあげていたようです。
パラナミオは
「パパ、この積み木って楽しいです! リョータもお気に入りです」
そう言ってニッコリ笑ってくれました。
なんと言いますか、この笑顔がホント嬉しいわけです、はい。
ちなみにこの時スアは、少し危険な薬品を使った実験をしていたため、その間だけリョータの面倒をパラナミオに見てもらっていたそうです。
スアはスアで、伝説的な魔法使いと言われながらもいまだに精進し続けているわけで、ホントすごいなと思うわけです。
僕がそう言うと、スアはうれしそうに微笑みながら
「……褒めてくれ、る?」
そう言いながら、僕に向かって頭を突き出してきました。
僕がその頭をなでなでしていくと、スアは嬉しそうに微笑み続けていたわけです、はい。