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第六十四話 パーティー開始

 咲が乗せられた車には4人の男がおり、運転席、助手席、そして後部座席に2人、咲は後部座席に乗せられ、2人の男に取り押さえられていた。

「放しなさいよ!!」

 暴れまわる咲だったが、当然2人の男の力に敵うすべはなかった。

「へへへ。無駄だって」
「おとなしくしないと……へへへ」

 1人の男が咲の胸元に手を伸ばそうとすると、それをバックミラーで見ていた助手席の男が、

「おいまだ止めとけ。やるのはあっち着いてからって虎牙(たいが)さんに言われてただろ」

「まだやりはしねえよ……でも、味見ぐらいは良いだろ」

「ハー……俺は知らねえぞ」

 男はニタリ顔でさっきまで止めていた手を再び動かし始めた。それを合図にするかのようにもう1人の男も服を脱がし始める。必死に泣き叫びながら抵抗する咲だったが、口をふさがれ、力任せに乱雑に服を脱がされ、下着姿にされてしまった。

 息が荒くなる男たちに咲はこれから起こることが脳裏に浮かび、涙が溢れだす。最早抵抗する気力もなくなっていた。

「さーて、どっちから味見しようかな……」

 男たちの舐めるような視線に咲の体は震え、鳥肌が浮かび立つ。

「まずは……」

 そう言って、咲の胸に手が伸びる。咲は目をつむった。そして、1人の男を目に浮かべ、強く名前を叫ぶ。

(……焔!!)


 その瞬間だった。男が咲の胸に触れる前に車は急ブレーキをした。

「おい!! 急に止まんじゃねえよ!!」

 良いところを邪魔されたのに腹が立ったのか、男は運転席に向かって怒鳴った。

「いや、いきなり前に人が現れたもんだからつい」

「人だ~? こんなところに誰だよ……」

 咲はその言葉を聞き、男たちを振り切り、前方を確認する。車のライトから映し出された人の姿を見るや否や、咲の目からは涙が溢れ出した。だが、その涙は先ほど流したものなんかとは全く異なるものだった。

 未だ姿の全容は見えなかったが、咲は確信した。あの小さなフォルム、そして紅蓮に燃える炎を宿した瞳に。

(焔!!)


「この車で間違いないんだな、AI」

「はい。咲さんの携帯はこの車の中にあります」

「わかった」

 いつまでも退こうとしない焔に、嫌気がさした助手席に座った男が車を降り、焔の元へ向かった。

「おいお前いつまでそこにいるつもりだ!! 早くどけ!!」

「あーすいません。ちょっと尋ねたいことがあるんですけど……」

「あ? 何だよ?」

 笑顔で尋ねる焔に、男は少し警戒を解いたが……

「この車の中に咲がいるだろ?」

 真剣な表情になり、いきなり思いもよらなかったことを聞かれ男は動揺する。

「は? 何のことだよ? 咲? 知らねえな」

 あくまでも白を切る男に焔は、

「そんじゃ、咲の携帯のGPSがその車の中を指してるのはなんで?」

「チッ、GPSなんかしてたのかよ……ま、バレちまったもんは仕方ねえ。ああ、咲はこの中にいるぜ。こいつにはたんまりと―――」

 まだ言っている途中だったが、そんなことはお構いなしに焔は男のみぞおちに思いっきり拳を埋め込む。男は情けない声を上げ、そのまま倒れ込む。

「やっぱりここか」

 その一部始終を見ていた男たちは咲を拉致したことが知られたと悟り、運転席、そして後ろの男1人が車を降り、焔の方へ歩いていく。

「おいお前うちの仲間に何してくれてんだよ?」
「覚悟はできてるんだろうな?」

「は? お前たちこそ俺の友だちに手出しといてただ済むと思ってんのか?」

「お前みたいなチビが俺たちを倒せると思うなよ!!」
「オラ!!」

 2人同時に焔に飛び掛かるが、先ほどの男同様にみぞおちに一撃入れられ、その場に倒れ込む。

「さてと……」

 2人を片付け、車の方に向かおうとした時だった。

「焔!!」

 咲の声だった。

「咲!? 無事か……」

 声の方に目を向けると、咲はいたが、その後ろには男も一緒だった。しかも、咲の首にナイフを向け、いかにも人質のように捕えていた。

「お前、動くんじゃねえぞ? 動いたらどうなるか分かってるよな?」

 焔はその姿を見て動きが止まる。それを確認すると、男は意気揚々としゃべりだす。

「ハハハハ!! さっきはよくも俺の仲間たちをやってくれたな!? だが、これでもうおしまいだ。こいつらが起きるまで動くんじゃねえぞ。全員起きたらお前をサンドバックに―――」

「おい」

「……ああ?」

 気持ちよさそうにしゃべっているのを邪魔され、機嫌悪く焔の方を睨む男だったが、焔の目を見ると、いきなり怯えだした。

「お前ら咲に何した?」

 焔が動きを止めたのは咲が人質に取られたからではなかった。咲が下着だったことに一瞬怒りゲージがマックスになったからだった。

 そう言って、歩み寄ってくる焔。

「く、来るな!! そ、それ以上近づくと本当に刺すぞ!!」

 先ほどよりも首を強く締められ、うなだれる咲。その様子を見て1度立ち止まる焔だったが、その瞳からは更に強い殺気を男に向けるのだった。

「今すぐ、咲から手を放せ」

「は? 何お前が口出ししてんだよ!! 今の状況わかってるのか? お前は俺から命令される立場なんだぞ!!」

「……お前なんか勘違いしてないか?」

「え?」

「今、命令する立場にあるのは俺だ」

「ハーハッハッハッハ!! どうしたらそうなる―――」

「今から3つ数える。その間に咲を放せ」

「おい!! 話を―――」

「でないとお前を殺す」

「は? お前自分が言ってることわかってんのかよ? お前が俺を殺すよりもどう考えたって俺がこいつ殺すほうが先だろ!!」

「そうかもな」

 流石の咲も焔の言っていることが理解できなかった。が、もう焔の怒りは度を越えていた。

「それじゃ、割に合わないな……だったらこうするか。お前がもし3つ数える間に、咲を放さなかったら、四肢をもぐ」

 その言葉を聞き、男は身をすくめたが、これだけで終わりではなかった。

「そして、眼球をくりぬき、歯を全部抜く。髪の毛をむしった後、舌と鼻と耳をそのナイフで切ってからそこの山に捨てる。これでやっと咲の死と同等ぐらいだろう。ああ、その前に俺がお前をサンドバックにしてから捨てよう」

 残忍で具体的な方法に男だけでなく咲も想像してしまい、声も出ないほど怯えてしまう。

「そんじゃ、数えるぞ」

「ま、まって―――」

「ひとーつ」

 男の願いは虚しく、焔はカウントダウンを始める。男は汗を垂れ流し、あたふたし出す。

「ふたーつ」

 情けない声を上げだす。

「みっつ!!」

 突然、大きな声を上げる焔にビビりまくり、すかさず手を放す。

「放した!! 放したから許してくれ!!」

 男はそのまま地面に蹲ってしまった。咲が男の手から離れるのを確認すると、焔は大きなため息を吐く。

「焔ー!!」

 そんな焔にはお構いなしに咲が飛びつく。焔もしっかりと受け止める。そして、咲は気付いた。焔の手がとても震えていることに。

(ああ、やっぱりさっきの無理してたんだ焔)

 そのことに気づき、綾香は安堵したように笑顔になる。

「ごめん咲。遅くなって」

「ううん。全然遅くなかったよ。でも、何で焔がこんなところにいるの?」

「そりゃあ……ヒーローだからな」

「……そっか」

 笑顔でそう言った焔だったが、実際は歯を食いしばり、悔しい気持ちでいっぱいだった。


 何がヒーローだ!! 咲にこんな姿をさせておいて、顔にも涙の痕があった……ヒーローは遅れてくる?
ふざけるな!! 遅すぎるだろ青蓮寺焔!! だけど……今反省してもしょうがない。今は……


 焔は1度先と距離を置き、自分が来ているジャージを羽織わせると、ゆっくりと後ずさりする男に目を向ける。

「おいお前」

「ヒィィ!!」

 もう完全にビビりまくっている男にゆっくり近づく焔。

「聞きたいことがある」

「は、はい!! な、何でも答えるんで、す、捨てないでください!!」

「は? ま、いいや。お前たちはどこに行こうとしていたんだ?」

「ま、町はずれの工場です」

「なぜ?」

「そ、そこでその咲って子を連れて行って、その……」

 口ごもる男に大体のことを察した焔は次の質問に移った。

「そこには何人いる?」

「えーと……だいたい30人です」

「ほう……30人ね」

 人数を聞き、更に怒りが湧き出てきたが、何とか強く拳を握って耐えた。

「……誰が咲のことを連れてこいと言った?」

「虎牙さんです」

「咲、この名前に心当たりは?」

「うーん、知らない」

「す、すいません。連れて来いって言ったのは虎牙さんですけど、これを考えたのは虎牙さんの彼女の香奈さんです」

「香奈!?」

「知ってるのか?」

「……私をいじめた首謀者……」

「……なるほどな。もう少年院から出てきたのか。見えてきたな。やることが」

 そう言って、おもむろに立ち上がる焔に咲は、

「どうするの?」

「決まってるだろ……根を断つ。2度とこんな考え起こさないようにお灸をすえてやる」

「言っとくけど、私も行くから。もう逃げたりなんてしない。それに私も一緒にお灸をすえてやるんだから」

「そいつは頼もしいや」

 咲の笑顔を見て自然と焔も笑顔になる。そして、1度息を整えると勢いよく男の方に振り向く。

「よし!! お前に最後の仕事をやる!!」

「はい!!」

「俺と咲をそのパーティー会場まで連れてけ!! ちゃんとこなせば……まあ、デコピンだけで勘弁してやる」

「ありがとうございます!!」

 男は仲間を道のわきに寝かせると、早速運転席に座り、もう準備万端だった。

 調子のいいやつだと焔と咲は一笑し、車に乗り込むと、例のパーティー会場へと足を走らせた。


 

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