天下への階段1
久しぶりに蝙蝠を連れて洞窟の奥の隠れ家に戻る。家康との交渉は軍師がすると言われて引き下がった。確かに柳生と確執のある狗が絡むのはよくない。それに軍師の黒田は狗は苦手だ。
「どう屋敷は?」
「立派だ」
狐は小ざっぱりとした着物を着ている。高松の大返しの時に出た秀吉の金で母屋を建て下忍の手当てをした。今回もそれなりの金が出ている。
「抜け忍を5人、くノ一を3人、子供は8人を新しく入れたわ」
「柳生や服部との絡みはないな?」
「それぞれ年寄り達が調べた。とくにあの年増のくノ一は使い物になる。元々藤林にいたけど夫も子供も服部に皆殺しになった」
指を指す方を見るとまったく目立たない30歳すぎの女だ。
「まさか狐のようなくノ一じゃないだろ?」
「男たらしっていうのね?火薬を使う。それと変装もなかなかのものよ。のっぺらと付けた」
「のっぺらか?始めてけものではない名だな」
その後二人で洞窟の上のお婆の墓に参った。戻ってきてから10日になる。今この洞窟には誰も住んでいない。裏の屋敷も焼け落ちたままだ。まだ服部の襲撃を恐れているのだ。
「あれ猿なの?」
狐が手裏剣を掴んだ。狗は茂みに目を凝らした。確かに何かが動いた。狗が飛び上がって狐は体を伏せる。狗は大木を蹴って地面に剣を抜いて下りる。
「鼠か?もう少しで切るところだったぞ」
鼠は足は速いが剣の腕はからっきしだ。
「すいません。また服部かと?」
「でどうしたのだ?」
「光秀が消えました」