骨人間と、4号店と、 その3
ララコンベの店舗の改修工事が始まりました。
この工事を請け負ったルアが当初
「人を集めなきゃなんないから、数日待ってよね」
と言っていたのですが、その翌日から着工となっています。
そんな4号店改修工事現場をのぞいて見ますと、
デュラハンのオデン6世さんがすごい勢いで働いています。
そして、その周囲では明らかに黒騎士骨人間(ブラックナイトスケルトン)か、それ以上のレベルの骨人間(スケルトン)達が多数働いているんです。
それを、入り口付近に立っているルアが
「あぁ、1号、そこの棚はもうちょい奥に……あぁ、2号! その棚、3段目から下が歪んでるから補修して」
そんな感じで指示を出し続けているんです。
っていうか、この骨人間(スケルトン)達って、どっから現れたの?
僕は、そんな疑問を抱いていると、ルアがニッコリ笑いました。
「あぁ、この骨人間はね、オデン6世がね召喚したんだよ」
そんなルアの奥で、丸太を担いでいるオデン6世さんのボディがグッと右手の親指を立てています。
ちなみに、頭はルアが小脇に抱えています。
「ここに頭がいてくれると、アタシの声を聞いて骨人間や自分の体に指示を出してくれるからすごく助かるんだよ」
そう言って笑うルア。
で、このオデン6世さんの思わぬ能力のおかげで、ルアも人をわざわざ雇わなくて良くなり、工事をすぐに始められただけでなく、工房の方の製造作業も支障なく行えているわけです、はい。
とはいえ、ルアが作成している武具の精度を再現出来る職人はまだ育っていないため、ルアは
昼間は4号店の工事
夜は工房で武器作成
夜中から未明までビアガーデンで飲み明かす
という、非常に多忙な……あれ? 最後のは忙しいに入るのか?
まぁ、とにかく4号店の工事はこうして進んでいます、はい。
◇◇
本店の方でも、店員・パート候補の人の研修が始まりました。
ダークエルフのクローコさん
燕人のツメバさん
今日は、この2人がやってきてくれています。
熊人のクマンコさんは元々週2の予定なので、研修は4号店は開店してから向こうで勤務しながらやっていこうと思っています。
まず、ダークエルフのクローコさんなんですが、最初書類審査をしている時にスアに嫌がられるかと思ったんですよね。
と、いうのも、僕の知ってるファンタジー世界の常識だとエルフとダークエルフは仲が悪いってのがあったもんですから……
すると、スアは
「……へぇ、そうな、の?」
と、まったく意に介さないお返事だったわけです。
ただ、クローコさんに聞いて見ると
「そうなんスよ、とにかくね、ダークってだけでチョー嫌われるんスよ」
と、まぁ、ちょっと接客には適していないかなぁ、っていう言語で教えてくれましたので、スアが特別なのかもしれません。
そういった人種の差別をしないのは、スアのすごいとこだとな、って思うんですが
「……それより、この人、女よ、ね?」
って、スア、そっちに対してお怒りが……あ、いや、だからさ、この人しか調理技能しっかり持ってる人がいなかったんだから……
ちなみに、このクローコさん。
体中にアクセサリーをジャラジャラ付けてて、化粧もケバい感じで……ダークエルフですんで肌はもとから褐色ですから……僕が元いた現実世界でいうところのヤマンバギャルを彷彿とさせました。
書類審査用に、ペレペが水晶画像撮影装置で撮影してくれていた画像では普通の感じだったんですけど、面接の際に
「今日はぁ、チョー気合い入れてきましたッス」
って、体中にアクセサリーぶら下げた格好で舌出し横ピースされた時は、ホントどうしようかと思ったんですけどね……
ちなみに、彼女は王都の亜人専門食堂で10年近く料理を担当していたんだそうで、面接の際に即興で料理をしてもらったんですけど、確かに基本をきっちり抑えていて、なかなかのものでした。
で、この調理をお願いした際ですけど
「あ~……じゃ、ちょっち時間ちょうだい」
そう言ってトイレに籠もったクローコさんは、ほどなくすると
アクセサリーを全部外し、
マニキュアも全て落とし
化粧……だけはそのままで面接会場に戻ってきました。
「料理するのに、ヤバいっしょ?」
と、そういう面ではしっかり真面目だったってのも好印象だったわけです、はい。
ちなみに、年齢は僕と同……
「ちょ~!? なぁに女性の年齢バラそうとしてるのかなぁ? マジ信じらんないしぃ」
クローコさん? 危険ですから包丁を人に向けるのは辞めましょうね?
もう一人の燕人のツメバさん。
……うっかりツバメさんと呼びそうになるんですけど、ツメバさんです。
この人は男性です。
以前は翼黒猫宅配便ってとこに勤務していたそうなんですけど、
「いやぁ、あそこってばいくら命があっても足りないんでぇ」
と、和やかに語ってくれたんですけど、その笑顔がさわやかすぎて、聞いてるこっちがどん引きしたわけです、はい。
で、ツメバさんは、まだ20代の前半という、ララコンベでは珍しい若者なわけです。
何しろララコンベは、魔石枯渇事件で若い世代を中心に一気に人がいなくなっていますからね。
そんな中の数少ないUターン者の1人なわけです。
ちなみに、ツメバさんはいわゆる鳥人族に属する亜人のため、手が羽です。
なので調理作業はちょっと難しいのですが、
「若者なので、積極的に雇用していただきたいですです」
とのペレペの要望を受けたのもあり、また、面接でのはきはきした受け答えも好印象だったので採用した次第です。
ツメバさんには主にレジ作業をお願いすることになるため、早速ブリリアンと一緒に実際にレジに立ってもらったのですが、このツメバさん、すごく飲み込みが早くて作業も手早いんです。
あのブリリアンをして、わずか1時間で
「……レジに関しては、もう教える事がありません」
そう言わしめたほどなのですが
ツメバさんには1つ大きな欠点があります。
それは、3歩歩くと、かなりのことを忘れてしまうこと。
……いわゆる、鳥頭ってやつみたいです、はい。
なので、直立不動でレジに立っている間は問題ないのですが、何かの拍子に3歩以上歩いてしまうと
「あれ? ボク今、何してましたっけ? レジってどうやるんでしたっけ?」
と、すべてゼロから再スタートになってしまうんですよねぇ……
ただ、記憶が完全にリセットされているようではないみたいなので、
今は、ブリリアンが紙にまとめた
『レジの基本について』
という……スアなら『ゴブリンでもわかるレジの基本』とか題名を付けそうな冊子をツメバさんに手渡し
「3歩以上歩いて何がなんだかわからなくなったら、まずこれを見る! いいですね!」
そう念押ししていた次第です。
とにかく、この研修期間中に、忘れない記憶部分に少しでも多くの情報を詰め込んでもらいたいもんです。
ちなみに、黒騎士骨人間(ブラックナイトスケルトン)さんですけど、今後仲間が増えていきそうなので、パラナミオに名前を考えてもらったところ
「じゃあ、じゃあ……えっと……あの……その……」
と、すさまじく悩み初めてしまいまして……と、とにかく、良いのが思い浮かんだら教えてね、と伝えたところ、4日悩んで
「クーログロさんで、お願いします」
となりました。
黒いからクーログロさんです。
いいじゃないですか、すごくわかりやすくて。
……次の黒騎士骨人間が出来たら、どのときはどうするかですって? その時はまたパラナミオがいかした名前を考えてくれますとも!
で、このクーログロさんは、お話が出来ないため、店の中では品補充や掃除作業がメインになるわけですが、研修期間中は、スアのアナザーボディがつきっきりで指導しています。
お互い、身振り手振りですけど、それでうまくコミュニケーションがとれているみたいで、スムーズに研修が進んでいる次第です。
この研修期間中に、
「クローコさんってば、とっても筋がいいんですわ。私の教えたことをすぐに覚えてくれますの」
魔王ビナスさんの料理研修も受けたクローコさんは
「いやぁ、ビナスおかんの教え方、チョー最高だからだってバ」
そう言いながら、すっかり意気投合した様子です。
ちなみに、クローコさんは。ヤルメキスからもお菓子の作り方を習おうとしていたのですが
「あ、あ、あ、あのですますね……」
と、クローコを前にしたヤルメキス……文字通り蛇に睨まれた蛙状態になってしまって……元々人付き合いが苦手な方だし、まぁ、こっちは追々にってことで。
4号店は温泉街に出来るので、店の前に屋台なんかも出して、楽しい雰囲気を盛り上げたいなと思っているので、クローコさんには、接客もだけど、しっかり調理の腕も磨いてもらおうと思っている次第です。
◇◇
そんな感じで、
朝の弁当作成から、夜4号店の進捗状況の確認とペレペとの打ち合わせなんかで連日がんばってる僕ですが、スススとスアが近寄って来て
「……無理はダメ、よ」
そう言いながら、僕の首と肩のあたりに手をかざして回復魔法をかけてくれました。
スアによると、肉体的な疲れは魔法で緩和出来るけど、精神的な疲れはどうしようもないんだとか。
「……だから、休むときは休むの、よ」
そう言うと、先にいそいそとベッドに入り、自分の横をパンパンと叩いています。
そこに寝ろってことのようです、はい。
で、そこに横になった僕に、スアがギュッと抱きついて来ました。
「……癒やされて、ね」
そう言ってニッコリ笑うスア。
うん、これはすごく効きそうです。