おもてなし2号店の改修 その2
コンビニおもてなし本店2階にある社員寮で暮らし始めた、コンビニおもてなし2号店の面々。
今まで社員寮の朝食は、2階内でみんなの共用スペースとして開放していた、旧僕の部屋でみんな集まって食べてたんだけど、2号店のみんなが引っ越して来た関係で、ここも部屋として使用しないと部屋数がたりなくなったわけです。
僕としては、朝ご飯をみんなで食べる習慣ってのは残したいなと思うわけでして……
で、困った時のスアえもんに相談なわけです、はい。
とはいえ、今回はスアにお願いする内容も決まっているので頼みやすいわけです。
「プラントの木の、実の部屋を1つ作ってもらえるかい?」
と。
いえね、スアの……といいますか、僕達の家である巨木の家は、プラントって魔法がかけられてる魔法の木なわけです。
この魔法をかけられた木を使えばですね。いろんな植物をコピーしたり、幹の中に部屋を作って住んだりすることが出来るわけで、僕とスア、パラナミオの3人は、スアの家だったこの巨木の家にみんなで住んでいます。
で、この木のもう一つの特徴として、実の部屋を作ることが出来ることがあげられます。
すでに今も、
スアの研究室
スアの本の部屋
僕の書斎
パラナミオの部屋
応接用の部屋
と5つの実の部屋があるのですが、今回これに加えて
みんなで朝ご飯を食べる部屋
を作ってもらおうと言うわけです。
「忙しいだろうから、暇なときに頼むね」
と僕が言った5秒後に
「……出来た、よ」
と、スアえもん。
うん……スア、君、マジで四次元ポケットとかもってるでしょって言いたくなるほどの早業で、巨大な実の部屋が出来ていたわけです、はい。
部屋の中には、たっぷり30人は座れる木製の机とイスが準備されていて、魔道調理器具を置ける場所まで確保してあります。
んで、早速ルアにお願いして魔道調理器具をここに設置してもらいました。
これで、今まではコンビニおもてなしの1階の厨房で調理した料理をみんなで2階まで運んでもらっていた、あの作業からも開放されるわけです。
が
あの作業を、いつも笑顔で手伝ってくれていたパラナミオが、がっかりモードに突入してしまったため
「パラナミオ! 新しいキッチンから机に食事を運ぶ係もしっかり頼むよ!」
と、伝えたところ
「パパ! 任せてください! パラナミオ頑張ります! とってもとっても頑張ります!」
そう言って、満面異の笑顔だったわけです。
……なんていうか、お手伝いすることが減ってがっかりする子供っていますかね、今時……
ノーお駄賃ですよ?
と、さりげなくパラナミオ自慢を交えたところで、2号店です。
こちらの工事も順調に進んでいます。
街道での営業が始まったビアガーデンですが、これが予想以上の効果をあげています。
今まで狭い屋上で営業していたため、一度に入れる人の数がかなり少なかったのですが、この営業場所が街道になったことで、ぶちゃけ、無制限に客席を増やせるようになりました。
組合からは
「周辺のお店の許可をもらえたら、その店の前まで使用していいですです」
って、言われていたので、シャルンエッセンスと一緒にコンビニおもてなし2号店の近くのお店に、ビアガーデンが1階になることのお知らせと、お願いに回ったところ
「あぁ、ウチの店は、おたくのビアガーデンが始まる頃にはもう閉店してるから、好きに使っていいよ」
って言ってくれる店がほとんどだったわけです、はい。
それに加えて、
今までは、外から見えにくい屋上で営業していたため
「あそこで何かやってるなぁ」
くらいにしか思っていなかった人々が、
「あ、酒と食べ物を売ってるんだ」
と、一目でわかるようになったことで、客足が一気にふえています。
それでいて、
「あぁ、テーブルまでは自分で持って行くから」
「ゴミはここに入れとけばいいね?」
と、元の世界で言うところのセルフサービスをみんなが自発的にやってくれているおかげで、本当に助かっている次第です。
これは後でわかったんですけど、
このセルフサービスを最初に始めたのって、昔シャルンエッセンスのお屋敷で働いていた人達なんだそうです。
この人達、
シャルンエッセンスの両親には、給料の遅延やピンハネ、暴言に暴力と、とにかく散々な目に遭わされたために、三行半を叩きつけて辞めていった人達なんだとか。
で、シャルンエッセンスが、以前、コンビニおもてなしの真似をして、コンビニごんじゃらすなんて店を出して、散々ひどい商売をしていた際にも
「やっぱりあいつらの娘だ。ろくなヤツじゃない」
といって、怒りまくっていたんだそうです。
まぁ、そりゃ怒りますよねぇ……まともに調理出来てない弁当売ったり、近所の畑から盗んできた野菜を売ったりしてたんだからねぇ……
でも、それが、店がコンビニおもてなしに変わって以降、シャルンエッセンスや、シルメールをはじめとした元お屋敷のメイド達がまっとうに働き出したと、街でも評判になりはじめたことで、皆さんの見る目もかわっていったらしく。また、実際にシャルンエッセンス達の接客を体験した結果、
「あの嬢ちゃんの父母には酷い目にあったけど、爺様の頃には世話になったからなぁ」
と、影ながらコンビニおもてなし2号店を応援してくれているそうなんです。
これ、その代表格のお爺さんが、僕にこっそり教えてくれたことでして
「お嬢さんには、まだ内緒にしといてください」
って言われているので僕からは何も言っていないわけです。
ちなみに、この方々によると
「お嬢さんが店の経営に成功したと聞いてな、逃げ出してた父親やら母親やら兄貴やらがな、お嬢さんから金をもらおうとしてやってきてたんだよ」
とのことでして……え? それはちょっとまずいんじゃないか……と、僕も思ったのですが
「俺達は何も知らないんだけどさ。
その逃げ出してた父親やら母親やら兄貴やらってさ、
街の入り口まではやってきたらしいんだけどさ、
そっからどこに行ったのか、誰も知らないんだとさ。
ま、俺達は何も知らないんだけどさ」
……え~
稲川淳二もびっくりなこわ~いお話が出てきたところで、この話はここまでにしておきましょかね。
とはいえ
シャルンエッセンスが本当に頑張っているからこそ、こうやってそれを応援してくれる人も集まってくるんだよな、と、僕もなんかうれしかったわけです。
◇◇
「「「いただきま~す」」」
いつもの、タクラ家ならびにコンビニおもてなし社員寮の朝食時間。
ここに、シャルンエッセンス達も加わって、朝がいつも以上にワイワイ楽しくなっています。
ビアガーデンを未明まで管理していたはずのイエロ・セーテン・ルアの3人も、いつも元気に参加しています……こいつらいつ寝てるんだ? と、マジ思うんですけどね。
「タクラ様。こうやってみんなで食べるご飯って、とっても美味しいですわね」
シャルンエッセンスはそう言って満面の笑みを浮かべています。
そんなみんなの間を、急いでご飯を食べ終えたパラナミオが回っていきます。
「おかわりいりませんか? パラナミオがよそってきますよ」
そう言いながらみんなの周りを回るのが、新しく加わったパラナミオのお仕事です。
「じゃ、パラナミオちゃん、ご飯お願いしてもよろしいかしら?」
「あ、じゃ、私も」
みんなも、笑顔でパラナミオに茶碗を差し出していきます。
それをパラナミオが
「はい、喜んで!」
と言いながら、茶碗を持って移動していきます。
……どっかの居酒屋みたいな返事だな、しかし。
今までも賑やかでしたけど、さらに賑やかになった食事時間を、みんなも満喫くれているようです。
◇◇
そうこうしているウチに、2号店の拡張工事も完成しました。
1階と2階に階段を設けて行き来出来るようにしました。
1階の店舗の真ん中に鎮座していた陳列棚は撤去し、1階は壁際にのみ商品を置く形にしています。
その変わり1階には売れ筋の弁当やパン、サンドイッチに加えてスアビールやタクラ酒、パラナミオサイダーなどの飲み物も充実させています。
近いうちに、ララコンベのカウドン乳シリーズも置けるように調整しているところです。
今まであまり数を置けなかったスアの薬や魔石なんかを取扱量をかなり増やして陳列しています、
2階には、農具や武具、雑貨類を移動させました。
ここブラコンベは冒険者も多く往来していますので、武具の扱いが増えればそういった方々の利用が増えるかもしれませんしね。
一応、まずはこんな形でスタートし、あとは営業していきながら調整していこうと言うことになりました。
新装開店の初日
僕とスア、パラナミオから、大きな花束をシャルンエッセンスに贈りました。
「僕が前に住んでいたところではね、新装開店したお店にお花を贈る習慣があってね、お店はそれをしばらくかざるんだ」
我が家を代表してパラナミオから花束を受け取ったシャルンエッセンスは、これから出勤だっていうのに
「こ、こんな私に……ありがどうございばずううううううううう」
と、もう号泣してしまいましてですね
それをパラナミオが抱きしめ、
僕が横から抱き、
それをスアが抱っこして
さらにシルメールら、メイド達が……と
もう、すっかりシャルンエッセンスも、僕達の家族なわけです。
この日、化粧直しをしたシャルンエッセンスが、元気に店を開店したのは
定刻の開店時間を少し過ぎてましたけど、まぁこれくらいは、ね。
で
僕達が送った花束は、シャルンエッセンスが、店の一番よく見える場所に飾っていました。