駆け引き5
堺に入るともうすでに家康はいなかった。繋ぎの年寄りから地図を渡された。これは予想される逃げ道だ。
「これは狐の意見ですが宗矩は光秀とどうも柳生に入るようです。それで鼠は家康と服部を、狐は柳生に向かうと」
二手に分かれては狗の手勢は持たない。取りあえず狗は走った。走りながらやはり光秀を追うべきかと柳生に入った。入った途端人の気配を感じて草むらに潜んだ。柳生の下忍が柳生に続く道に潜んでいる。やはり光秀は柳生に入ったと確信した。夜になるまで狗は潜んだ。夜になると気配は減った。
藪に中を山側から道場が見えるところに出る。道場の屋根から光るものが見える。狐だ。動くなと言う合図だ。しばらくすると狐が横に並んだ。
「朝に宗矩が柳生を率いて光秀を道場に運び込んだ。相当な重傷らしく担架で運び込まれた。胡蝶が一緒に入った」
「やはり槍に刺されたのだな?」
「それが胡蝶に果心が憑りついて治療を始めた。あれは果心が光秀の体を治療していると思う。揚羽の切り落とされた腕を繋いだのと似ている」
「果心は死なないのか?宗矩はどうしている?」
「それも不思議なの。宗矩は治療を済ませた胡蝶と話し込んでいるわ」
「鼠は?」
「ただ家康が戻るのを確認するだけにと言っている」
「狐はしばらく国に張り付いてくれ」
「どうするの言うは?」
「順慶に会いに行く」
狗は秀吉と順慶に手柄を立てようと思った。それと皆殺しを仕掛けてきた服部に対する復讐だ。
「無理をしないでよ」
「ああ、家康に運があるかどうか試してみる」