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リグドと、続チンピラ達

◇◇少し前……

 カララを部屋までお姫様抱っこで連れていったリグド。

「さ、しっかり休んでくれ。こいつを置いておくから、何かあったら遠慮なく鳴らしてくれ」
 そう言うと、リグドはハンドベルをカララのベッドの脇にある棚の上に置いた。

 先ほど、街で購入してきた物である。

「傭兵団にいた頃にな、大怪我して動けなくなったヤツの世話をするのにこいつをよく使ったもんだ」
「な……何から何まで、申し訳ありません」
「気にするこたぁねぇよ、お前さんが俺とクレアの雇い主なんだしよ……ところでカララさん、ちょっと聞かせてもらってもいいか?」
「え? あ、はい、なんでしょう」
「覚えている範囲で構わないんだが……あ、あと、言いたくなかったら答えなくてもいい……」

◇◇そして今

 クレアの圧倒的な戦闘能力を目の当たりにし、臣従を誓ったモンショウをはじめとする元チンピラ達、5名。
 それでもなお、反抗的な態度をとり続ける、エンキをはじめとするチンピラ達、5名。

 エンキ達が大開脚状態で固定されたままようやく目を覚ました。

 モンショウ達に、エンキの足の棒をはずさせたリグドは、全員を眼前に集めた。
「さっき、カララから聞いてきたんだが、お前達がこの酒場にたむろし始めたのは2ヶ月前なんだってな?」
「あ? それがどうかしたのか……」
 反抗的な声をあげるエンキ。

 クレアがすさまじい速さでエンキの背後に回り込み、右手で喉を鷲掴んでいく。
「リグドさんになんて態度をとるっすか。このまま喉仏を潰すっすよ」
「ひ、ひぃ!? す、すいませんすいまげほげほげほ……」
 片手で軽々と持ち上げられたエンキ。
 必死になって謝罪の言葉を口にしているものの、クレアの指が喉の血管を的確に締め付けているためあっという間に真っ青になっていく。

「クレア、そのままだと死んじまうから」
「……リグドさんへのさっきの態度、万死っすよ。殺すしかないっす」

 エンキが泡を吹き始めてもなお手を離そうとしないクレア。

 どうにかそれをなだめすかしてエンキを解放させたリグドは、再び気絶してしまったエンキの肩を背後から掴み、その背筋に膝をあてがって渇を入れた。
「……うぉ!?」
 どうにか意識を取り戻したエンキ。

「よーし、起きたな? じゃ、もう一回聞くぞ? 酒場にたむろしはじめたのは2ヶ月前で間違いないな?」
 再度同じ質問をするリグド。
 その言葉に、今度は素直に頷くエンキ。

 リグドの背後、きっちり3歩下がった位置で腕組みしているクレア。
 そこからエンキ達を睨み付けているため、エンキ達は先ほどのような無駄口を叩く余裕がなくなっていた。

「……で、その2ヶ月、日数にしておよそ60日の間、

 お前達は昼夜問わず飯と酒をカララに提供させた。
 性行為には及んでいなかったみたいだが……

 で、まぁ、ここまでカララにさせておいて金は一銅貨も払っていない……ここまでの内容に間違いはないか?」

「……けっ、そんなんいちいち覚えてなんか……」
 ぞんざいな態度のエンキ。
 途端に、クレアが身構えていく。
「ひぃ!? だだだだいたいそうです。そんなもんです!」
 エンキは慌てて座り直し、何度も頷いていく。

 そんなエンキの様子に、苦笑するリグド。

「じゃあ、だ……
 酒場で飲み食いしたのを1人1日10金貨と見積もって、10人が60日で6000金貨ってとこで、あとは使えなくなっていたテーブルの修理代が……」

 言葉を続けていくリグド。

 その言葉を聞きながら、エンキ達からは、

「食事が1日10金貨って、どこの高級食堂だよ……」
「テーブルなんてどうせいつか壊れるじゃねぇか」

 そんな声が時折漏れ聞こえていたものの。
 その都度、クレアがその声の出所を睨み付けていくため、すぐにその声は立ち消えていく。

「……っつうわけで、だ。お前さん達は、この酒場に対してだな、酒場の清掃修理代まで含めてざっと8000金貨の未払い金があるってことになる」
「ちょ、ちょっと待てって……いくらなんでも高過ぎだろう? 高級住宅が土地付きで1軒買えるじゃねぇか」
「ありがたく思え、端数は全部切り上げてやったからよ」

 ニカッと笑うと、リグドは一同の前に羊皮紙を取り出した。

「っつうわけで、だ。お前達、俺の元で働け。働いてこの未払い金を払え。
 主な仕事は3つ

 店の掃除
 食材となる魔獣の捕縛
 荷物の運搬

 これを俺が満足いくレベルでこなせたら、賃金を払ってやる。
 賃金は1人1日1銅貨。食事は特別に無料で3食、食わせてやるよ。

 狩りで狩った魔獣は相場値で買い取りしてやる。

 お前達はお駄賃と魔獣の代金をためて未払い金を完済しろ。
 完済出来たらお前達全員自由にすることを約束してやる」

 そう言うと、リグドは羊皮紙を一同に手渡した。
「この羊皮紙には、今俺が言った内容が記載されている。納得したらサインしな」

「納得ったって……」
「1日1銅貨じゃ……1金貨分になるまでに1000日もかかるじゃねぇか」
「魔獣ったって……そんな高額な賞金がついてる魔獣なんか狩れるわけが……」

 一斉にざわつき始めるエンキ達。

 その眼前に、クレアが立ちはだかった。

「……サインするか、すぐ死ぬか……好きな方を選ぶっす」
 眼光鋭く、両手をワキワキさせるクレア。

 その姿を前にして、真っ青になったエンキ達は我先にと羊皮紙にサインをしていった。

 その光景を、リグドは苦笑しながら見つめていた。

 血の盟約の誓約書……
 それは特別なインクと用紙を用いて書かれた魔法の誓約書である。
 そこにサインをした者がその内容を反故にした場合、神界に住まうという血の盟約の執行管理人が現れ、その命を巨大な鎌で刈り取ると言われている。

 ……あの羊皮紙にゃあ、『この借金が完済するまで俺の元で働き続けることを誓う』って書いといたんだが……まぁ、今まで好き勝手やってきたんだ、しっかり罪滅ぼししろよ、チンピラ諸君。

 ニヤニヤ笑っているリグド。

 その眼前では、その羊皮紙の誓約書がそんなとんでもない物だと気付いていないエンキ達が、クレアの眼光におびえながら次々にサインしていた。

◇◇

 この夜。
 リグドが街で買ってきた缶詰で食事を終えたエンキ達は、酒場の床の上で寝ることになった。

 カララもまた、リグドから少し良質な缶詰を提供してもらい、それで食事を終えた。
 その際、契約のことも伝え聞いカララは、
「あのならず物達を、ここで働かせるのですか?……」
 不安そうな表情をその顔に浮かべたものの、
「俺とクレアがしっかり管理すっからよ」
 リグドの言葉で、ようやく安堵の表情を浮かべ、頷いた。

 自分達も缶詰での食事を終えたリグドとクレアは、シャワーで汗を流した後、自室のベッドの中に入っていた。

「今日は色々あったなぁ」
 ベッドの中で背伸びするリグド。
「リグドさん、お疲れでした」
 そう言いながらクレアが寄り添ってきた。
「あぁ、お前もお疲れだったな」
 クレアをリグドが抱き寄せた。
 クレアは、リグドをジッと見つめていた。
「あの……自分、もっとやります。やれますから……なんでも言ってください……自分、もっともっとリグドさんの役にたちたいっす」
 懇願するように言うクレア。
 そんなクレアをリグドはさらに強く抱きしめた。
「……ありがとよ、頼りにしてるぜ」
「……うっす」
 そうして抱き合っていた2人

 やがて、その体が絡み合い始めるのに、そう時間はかからなかった。

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