駆け引き3
早くも光秀は陣幕から抜け出した。果心からすると想定内のことだ。百ほどを引き連れてすでに山崎の麓を下りている。いつの間にか後ろに蝙蝠が付いてきている。蝙蝠は秀吉の軍師に会ってきている。
「すでに秀吉軍は2万に膨れ上がっています。順慶殿も兵を進めているそうです。黒田殿から光秀の生死を確かめるようにとのことです」
「徳川の動きも調べよと言うことだな」
半刻ほど走ると繋ぎの年寄りが現れた。
「先ほど秀吉軍の一部1千が追い付いて光秀の一隊を襲いました。光秀の兵の70人が死んだようです」
現場に付くと死体が至る所に転がっている。だが光秀らしい死体はない。背の高い草の中に通った跡が残っている。年寄りを残して蝙蝠と狗が走る。さらに半刻走ると狗は飛び去った。茶色の装束の一隊が秀吉軍を襲っている。2百はいるかと思う。これは胡蝶の率いる修験者たちだ。
狗と蝙蝠は戦いを避けるように先頭に回り込む。京之助が追いつめてくる兵を3人倒したところだ。後ろに光秀がいる。光秀を守っているのは僅か10人ほどだ。秀吉軍の百が取り巻いている。光秀が藪の中を走っている。京之助達は防ぐので遅れている。狗も蝙蝠も動けない。光秀の姿が見えなくなった。
時間にしてほんの一瞬だ。一度草むらに入った茶色の装束が火薬玉を投げ始めた。白煙が前を隠している。藪の中に入ると7人が倒れている。大半が秀吉軍だ。だがそこに光秀が倒れている。いや光秀の兜を付けた首のない死体が倒れている。狗が体を起こす。
「これは偽物だ」
と言うなり走り出した。川風の匂いがする。
「危ない」
狐の声で伏せた。
「宗矩を付けてきた。京之助と光秀が宗矩の用意した舟に乗り込んだ」
「光秀に間違いないのか?」
「間違いない。だが槍で刺されているようで京之助が抱きかかえていた。川原には服部が百人ほど潜んでいる」