店長と魔法使いの奥さまとサラマンダーの娘の休日 その2
いつものように、店の2階で朝食をとった僕ら家族と、ヤルメキスら、店員の皆。
食事を終え、食器を片付けていると蛙人のヤルメキスが僕の側に寄ってきた。
「あの、あの、あの、店長殿、その、その、その、折り入ってご相談がごじゃりまする」
そう言い、モジモジしながら僕の目のまでうつむくヤルメキス。
うん。
このお休みも、店の調理室を浸かってお菓子作りの練習をしたいんでしょ?
そう言う僕に、ヤルメキス
その目を見開き、心底びっくりした表情を浮かべながら
「な、な、な、なんでわかったでごじゃりまするかぁ!?」
後方に3回転半転がった後、再度土下座で、ビタッと静止していくヤルメキス。
うん、いつも思うけど
ヤルメキスの土下座って、もう芸の域に入ってるよね?
とまぁ、ちゃかすのはここまでにして
っていうか
ヤルメキスは、休みと言うと、こうしてお菓子作りの練習に余念がない。
もともと、お菓子をつくるのが好きだったから、と、ブラコンベの裏街道で路上生活を送っていた頃から、お金が手に入ったら、それを全てお菓子作りにつぎ込んでいたというヤルメキスは
僕の店に住み込みで働くようになった今でも
休みの日の、このお菓子作りの練習は欠かしていない。
まぁ
そんなわけで、ヤルメキスが店が休みの日の朝にこうやって申し出てくるのは、ある意味いつもの光景なわけです。
僕は、いつものように了承しようとしかけて、ふと思った。
……ヤルメキス、お前も大概休んでないよね?
「はわわぁ!? 休んでないも何も、お菓子作りの練習をさせていただけますのが、最高の息抜きでおじゃりまするでごじゃりまするのでぇ」
そう言い、土下座姿勢のまま、何度も頭を下げるヤルメキス。
職人芸的なその土下座に、思わず薙がされそうになったけど
ダメだ
「え~!? そ、そんなぁでごじゃりま……」
今日は、ヤルメキスも僕達と一緒に遊ぼう
「え、えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
その言葉に、ヤルメキスは、まるで飛び出すんじゃないかってくらいその両目を見開きびっくりしていたわけです。
◇◇
朝食後
僕は店の裏の河原にいました。
ここで、河原にビーチパラソルを立て、レジャーシートを敷き、岩で竈をつくり、
「ダーリン、酒が足りないキ」
セーテン・イエロ・ルアの、すでに出来上がってる3人に酒を持って行き
川辺に、パラナミオが遊べるように、岩を川の中に並べていき、流れの緩やかな一角を作成し
「ご主人殿、つまみを所望いたしたいのだが?」
朝っぱらからすっかり出来上がっているイエロ・セーテン・ルアに、作ったばかりの竈で肉焼きを作ってやり
この世界の害虫にどこまで効果があるのかわからないけど
蚊取り線香や、電池式のノーマットなんかを気休め的に周囲に置いていき
「タクラ殿、酒だ、酒がもう無いぞ」
と、さっき追加した酒を、もう飲み干したらしいルアが、空の樽を両手で抱えて誇示しているので
新しい酒の樽を……
ちょっと待て
なんで
『田倉家の優雅で楽しい休日・準備編』
の合間に
『酔いどれ三人娘・朝からへべれけ編』
が、さも自然な感じでインサートされてんだよ!
「まぁまぁ、ダーリン、人数多い方が楽しいキよ」
「そうですぞ、ご主人殿。それに我らは家族も同然のはず!」
「それにさ、ご近所つきあいも大事だぜ」
……みんなさ、
もっともらしいこと言ってるけどさ
要は自分達が飲みたいだけだよね?
おい!
そこで一斉にそっぽを向くな!
とまぁ、
そんな下準備をしていると
「パパ! お待たせしました!」
と、水着姿に着替えたパラナミオが、満面の笑みを浮かべながら店の方から駆け寄って来ます。
ってか
店からこの河原って、ちょっとした勾配の下にあるので、走ってくると危ないぞ……
って、思ってた僕の目の前で
「はわ!?」
パラナミオが、足を滑らせて、勾配の上部から真っ逆さまに
「任せるキ!」
「ご息女殿!」
「助けるぜ!」
そんなパラナミオに向かって、酔いどれ三人娘が一斉にダッシュ。
でも
そんな3人の目の前のパラナミオ。
なんか宙に浮かんでぷかぷかと……
うん
これはあれだ、
スア、GJ!
僕が勾配の上へ視線を向けながら右手の親指をぐってしてると
そこに立っていたスア
ドヤ顔で、右手の親指を立てかえしていたわけで……すが
ここで僕の視線はスアをロックオン
白いワンピース
その慎ましやかな胸元を彩るフリフリは、そのロリBBA全開な肢体の魅力を余すところなく強調しまくっており、目深に被っている、ツバの広い尖り魔法帽子と相まって
僕的100点満点のコーディネートです。
そんな僕の側にパラナミオを降ろし、
自らは短距離転移魔法で、僕の横へと移動してきたスアは
「……何? その『ロリBBA』って?」
ピンポイントで、応えにくいところに食いついてきたスアの視線を前に、僕は
「わかりやすく言うとだね、『スア可愛い』って褒めてるんだよ」
その言葉に、
スア、その顔を真っ赤にしながら、クネクネと……
うん
この世界で永遠娘(とわこ)が創刊されていないことを心から感謝するとしよう、うん
~永遠娘
ロリ婆専門誌
なんて思っている僕の横に
「タクラさん、何かいい雑誌のアイデアを思いつかれていませんでしたか?」
って、
魔女魔法出版のダンダリンダが、突如僕の背後に出現し……
お、お前ら、人の思考を勝手に読むんじゃねぇ!
……ところでダンダリンダさん
「はい、なんですか?」
「なんであなた、水着姿なんです? しかも手に酒持ってませんか?」
「え?だってこれから川遊びなんでしょ?
いやぁ、さすがに手ぶらはまずいと思いまして……」
って、酒を出すダンダリンダに
「さすが編集者キ! 心構えが最高キ!」
「ささ、ここで共に盃を重ねましょうぞ!」
「酒なくて、何が人生だってんだ」
ってか、
ここぞとばかりに入ってくるな酔いどれ三人娘!
しかもダンダリンダ!
そそくさとその輪に加わってんじゃねぇ!
ったく
この調子だと、魔女信用金庫の奴らまでやってきかねな
「呼ばれた気がして」
「私達参上なのですよ!」
呼んでない
呼んでません
えぇ、絶対に呼んでませんとも
なんか、
僕の目の前で、いきなりポージングしている
単眼族のポリロラと、巨人族のマリライア
しかもこの2人まで、ちゃっかり水着姿なわけで
だから、今日は
『田倉家の優雅で楽しい休日・はじめての川遊び編』
がこれからオンエアされるのであって
『酔いどれ三人娘・お友達もどんどん参戦編』
の予定はないんだってば
「あ、これ差し入れのお酒です~」
「樽で持って来ましたぁ」
って言うポリロナとマリライアを
「さっすが! よくわかってるキ!」
「金融業の鏡でありますな!」
「ウチの店の預金もおたくに変えようかねぇ」
「あ、ウチの出版社は、担当死人のゾンビレアさんにいつもお世話になってますよ、ここ100年くらい」
って
いつの間にか酔いどれ4人娘になった一同が、この2人を当然のように受け入れて……
「……なんか、人がいっぱいでおじゃりまするねぇ」
緑のビキニ姿で現れたヤルメキスは、苦笑しながら、朝っぱらからへべれけに酔っ払いまくっている一度に苦笑を向けていたんだけど
そんな僕にパラナミオが抱きついてきて
「こんなにいっぱいの皆さんと遊べるなんて、パラナミオ、うれしいです!」
って、ニッコリ笑った。
よしわかった。
もう酔いどれ三人娘だろうが四人娘だろうが好きにしろ!
出来たらオカ○ド先生を籠絡して漫画を描いて貰ってこい!
みんなでお休みを満喫するぞ!
やけくそ気味に右腕を振り上げた僕に
「お~!」
と、スア・パラナミオ・ヤルメキスが続きます。
……ってか、
ここくらい参加しろよ、チーム酔いどれ!
なんかもう、すっかり宴会モードになってるし