光秀10
家康は飛ぶように堺に目がけて走った。狗は濡れた黒装束を脱ぎ坂本城に向かった。潜んでいる蝙蝠を捕まえ本能寺に向かうのだ。すでに光秀は戻っているようだ。狗は天井裏に入ると蝙蝠に声をかけた。
「どうだ?」
「今戻ってきて武将を集めて丹波に出発する話をしていました。その後書斎にこもって文を書いています。今弾正の忍者が6人文を持って走りました」
「斎藤利三は戻ってきているか?」
「いえまだです」
ならばまだ動かないだろう。狗も筆で短い文を書いた。光秀が謀反をするが同調しないようにと書いた。
「これを持って順慶殿を訪ねるのだ。その後本能寺に向かえ」
蝙蝠が去ると書斎の光秀を見詰める。どうも光秀が居眠りを始めたようだ。そこに影が入ってきた。胡蝶だ。
「明日信長は本能寺に向かいます。小姓団を入れて2百ほどです。私も中に入りました」
胡蝶の声にむくっと起きた光秀は果心だ。
「予想外の少なさだ。光秀の付きも残っているな。だが信長を殺した後は見えない。次はやはりあの慎重な家康かもしれぬな」
「私は?」
「信長は死んだも同然だ。堺に向かっている宗矩の元に行くのだ。服部を百ほど回してくれるように念を押してくれ。それと修験者のうちの影隊を2百を本能寺の近くに配置するのだ」
「どうしてですか?」
「どうも光秀のツキもこれで尽きるな」
「体を捨てられるのですか?」
「いや、もう儂には次の体に移る力がない」
果心にも寿命があるようだ。
「お棺はどうしましょう?」
「しばらくは家老に預けておけ」
「彼はどこに?」
「京に店を構えているだろう」