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光秀9

 狗は本能寺に年寄り2人とくノ一1人送った。
 家康は柳生宗矩が来て5日目に安土城に入った。接待役は光秀だ。あれから安土城にずっと詰めている。蝙蝠を坂本城に送ったが特に変わったことはない。だが鉄砲は5百艇倉庫に運び込まれている。蝙蝠がただ一人斎藤利三の動きがおかしいと伝えてきた。彼はやはり5人ほどの部下を連れて本能寺にいるようだ。
 家康のもてなしが連日続いている。狗は天井裏に籠って3日になる。さすがに宗矩も気を使ってか服部を送り込んでいない。光秀の傍でいるのは京之助と僅かの柳生だ。とくに信長に光秀と家康の関係を見せたくないのだろう。家康の傍には宗矩がいる。
「果心のお棺が消えました。家老も同時に消えています」
 側にやってきた鼠が報告する。
「いよいよ動くな?」
 どう動くかは狗にもわからない。
「狐に本能寺に行くように伝えろ」
 どうも本能寺に鍵がある。信長の甲高い声を聞いて、天井を伝わって廊下にいる光秀を見つける。額から鮮血が出ている。
「光秀坂本を出て丹波に向かうのだ」
 どうも信長の逆鱗に触れたようだ。狗は光秀の表情がにやりと笑ったように思った。これは光秀の中にいる果心だ。廊下から庭に降りる。京之助が何があったのかと飛んでくる。耳を澄ませる。
「家康殿は早く堺に行かれるように」
と伝えた。それから布を出した揚羽に、
「本能寺に行き斎藤利三に坂本に戻るように。揚羽は本能寺に潜れ」
 これは果心の目だ。狗も大屋根に出ると石垣を下りる。そこに手裏剣が飛んでくる。柳生の下忍だ。地面を転がると切りつけてくる柳生の侍の剣を僅かに躱した。
「狗か?」
 京之助の声が後ろでした。狗は同時に堀に飛び込んだ。声をかけられなかったらまず切られていただろう。









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