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コンビニごんじゃらす その5

 ちなみに、このコンビニごんじゃらす。

 店で焼いてたパンがまぁこんな状態なので、他の販売物もいわずもがなだったわけで……


 棚に並んでいる弁当を手に取った僕は、自分の目を疑った。
「ちょっと待て、シャルンエッセンス、このご飯の横に入ってる肉、血が滴ってないか? 火、ちゃんと通したのか?」
 そう言う僕に、シャルンエッセンス

 腰に手をあてて、「はぁ?」な顔
「私、お肉はレア以外ではいただきませんのよ。この焼き加減でちょうどよろしいでしょう?」

 僕は、
 この焼き加減のどこがおかしくて? Why?
 とばかりに両手を広げているシャルンエッセンスの目の前で、この弁当の肉を、付属のフォークで突き刺し、そして突きつけた。
「食べてみなさい」
「そりゃ、食べろと言うのであれば食べますけど……」

 パク




 おい、
 そこのお嬢様、

 何口押さえてトイレに走ってんだよ!

「こ、これは、レアではありませんわ……ただの生肉ですわ……」

 そんなん一目見てわかるだろうが!
 いくらレアだっていっても、焼きが足りなさすぎだってんだ!

 しかもな、
 弁当に入れる肉は、調理後しばらく立ってから食べられる事が多いんだ。
 しっかり火を通しておかないと、途中で痛んで、食った人が腹壊しちゃうの。

 生焼け、ダメ、絶対!

「……私は、随分お止めしたんですよぉ」
 チュパチャップが、おずおずと言ってくるけど

 お前ら、
 こんな有用な人物の有用な意見を、いくらなんでも無視しすぎだろう?

「だってぇ、この子の言ってることって、いまいちよく理解出来ないですしぃ」
「声小さいしねぇ」
「すぐ怯えるしぃ」

 僕の知ってる格闘家にね……
 相手の額をステーキに見立ててフォークを突き刺す、吹けよ風、呼べよ嵐な動ける太めの方がいたんだけどさ、ちょっとその人の気持ちになってみてもいいかい?

「た、タクラ様、とりあえずわかりました。とりあえず、私が何か間違ったことを言ったことはよく理解いたしましたので、フォークを私の額に突き立てようとするのは勘弁してくださいませぇ」

 狂乱ファイトに転じた僕の手を、両手で必死に押さえるシャルンエッセンス。
 その後方に、さきほどシャルンエッセンスの尻馬にのってた不良メイドらが、隠れるようにして震えてる。

 お前ら、偉そういってた割に、弱すぎじゃね?


 で、まぁ
 とりあえず、弁当はおいといて、


 他に並んでいる野菜と果物
 いかにも取れたてって感じで、棚に無造作にならんでる。

 へぇ、この大根もどきなんか、朝取れなのか、土がついたままで、良い感じなんじゃないの?

 まぁ
 調理も何もしないで、仕入れてきた物をそのまま置いてるだけみたいだけど
 他に売り物がない店内だけに、
 これを置いたってのは、ギリギリ及第点と言えなくもない。

「で、この野菜や果物はどうやって仕入れてるんだい?」
 そう言うと、不良メイドのリーダーっぽいのが、へへへ、と得意げに笑いながら
「あぁ、それ? それはさ近くの畑から勝手に盗……」

 僕の知ってる格闘家にね、
 相手の額をステーキに見立ててフォークを突き刺す、吹けよ風、呼べよ嵐な動ける太めの……

「ちょっとまって、タクラ……さん。
 ごめん! ごめんって、よくわかんないけど、とにかくごめん!
 だから、そのフォークをアタシの額に突き刺そうとするのは……」

 ぶすり

 あ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 額を押さえて倒れ込んでる不良メイドリーダーを尻目に、

 僕激オコ
「シャルンエッセンス! いくらなんでもひどくないか?
 盗品を店で売ってたなんて……お前、これ立派な犯罪行為だぞ!
 そんな店に僕の店の『コンビニ』って名前を勝手に使われてたかと思うと、すっごい気分が悪い!」
 一気にまくし立てる僕を前に、

 さすがのシャルンエッセンスも、顔面蒼白。

「あ、あ、あの、ご、ごめんなさい……まさかこれが盗品だったなんて知らなかったの……」
 体を震わせながら、果物や野菜を手にしたシャルンエッセンス。
 その場にうずくまって泣き始めた。

 ここまで
 どうにか気丈に振る舞ってたけど……そりゃ泣きたくもなるよなぁ……

 そんなシャルンエッセンスを見つめながら
 先ほどの不良メイドリーダー
 額に、フォークの跡がついたあたりをさすりながら、
「お嬢様……悪かったって……勝手なことをしてさ……お詫びに、例のアレ、明日やってやるからさ」
 そう言いながら、シャルンエッセンスの肩を叩いていく不良メイドリーダー。

 っていうか……その例のアレって、なんなんだ、一体?

 まさか、どっかのヤンキー漫画みたいに、舎弟というか、悪友集めて見た目だけでも客で賑わってるように見せるとか、そんな無意味な方法じゃ……

 こら、そこの不良メイドリーダー。

 何、そこで、
『なんでわかったんだ!?』
 みたいな驚いた顔してんだ、おい!


「っていうか、なんでこの方法がダメなんだよ!? 前やったときは、結構賑わったんだぜ!?」

 お前そういうけどさ、聞いて良いか?
 そんとき来た客って、全員その不良仲間と、そのまた友人だけじゃね?

「そりゃ、まぁ……そうだったんだけど……」

 そいつらが来た後って、普通の客足が遠のいてないか?

「……い、言われてみれば、そんな気がしないでもないですわね……」
 シャルンエッセンス、も、腕組みしながら考え込み始めてる。

 そんな一同に、僕は大きなため息をついた。

「いいかい、僕が以前店をやっていた世界ではね、
 不良のたまり場みたいな店には客なんてこない。
 そんな噂がたっただけで潰れる。
 ……すでに過去にもやってるみたいだけど、すでに手遅れかもしれない……」
「て、手遅れ……ですか?」
 シャルンエッセンス
 この一言が相当応えたみたいだ。
 そのまま、よろよろよろけて、倒れ込んでいく。
 そこを、チュパチャップがナイスキャッチして事なきをえたんだけど、

 問題は、その横の不良メイド達だよなぁ。
 
 この子達
 僕がここまで言ったら、逆ギレしてなんか言ってくるかと思ってたんだけど
 意外にも、全員すっごく意気消沈してる。
「……あたしら……シャルンエッセンス様の迷惑になることしかしてなかったのか?」
 そう、伏し目がちに聞いてくる不良メイドリーダーに
 僕は、
「結果的に、そういうことになる」
 そう言うと

 不良メイドリーダー
 しばらく下を向いた後

 一気に号泣し始め、んでもって、僕の足に抱きついてきた。

「お願いだぁ! なんでもする! なんでもするからこの店を助けてくれぇ!
 あたしらのような半端者を最後まで見捨てなかったシャルンエッセンス様を、どうか助けてあげてくれぇ!」
 すると
 他の不良メイド達も
 この不良メイドリーダー同様に、その場で土下座し号泣し始めた。


 これは推測だけど
 このメイドらは、元々素行がいまいちだったもんだから、
 シャルンエッセンスの家が没落したとき、余所の家に雇って貰おうとしても、断られて
 仕方なく、戻ってきたんだろう。
 でも
 シャルンエッセンスは、それを暖かく迎えたんだろうなぁ。
 実の家族まで去っていったところに、帰ってきてくれたんだから。

 まぁ
 やり方にはかなり問題あるけど

 この不良メイド達は、不良メイド達で
 自分達のやり方で、シャルンエッセンスを助けようとしてただろう

 やり方にはかなり問題あるけど
 うん
 やり方にはか~な~り問題あるけど


 正直に言えば、こんな話、受けたくない。
 デメリットが多すぎる。
 すでに悪評がプンプンたってるこの店を、どうにかするなんて……
 
 思わず、顔をしかめ、頭をかいてく僕。

 そんな僕を、涙ながらに見上げてる

 シャルンエッセンス
 チュパチャップ 
 不良メイド達


 ……あ~……
 わかった、わかったって、僕の負け。
 
 男気なんて持ってないけどさ
 こんなに困りまくってる人達に、背中みせてはいさようなら出来る程の度胸もないのよ、僕。
 ……っていうか、そんなことしたら、あとで絶対後悔する。

 僕は、大きく息を吐くと、
「いいかい、シャルンエッセンス。
 まずはそこの不良メイド達を連れて、野菜や果物を盗んでいた畑の人に謝罪に行ってきなさい」
「わ、わかりましたわ……」
 シャルンエッセンスは、そういうと不良メイド達を連れて、すぐに店を出て行った。

 多分、僕が言わなかったとしても、あとで行ったと思うけど
 僕がここまで言わなかったら、多分、不良メイド達は行かなかったと思う。

 とはいえ、
 あくまで、まずは、の、第一歩。
 さて、こっからどうしたもんか……

「あ、あの……タクラ様、私もなんでもしますから、なんでもお申し付けください」
 って、チュパチャップ。

 個人的には、君はコンビニおもてなしで引き取ってあげてもって思うんだけど……


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