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最近の会長は変だ。

「ふふふ~ん。」

とてつもなく機嫌がよかったり、

「ねえ寺島、そんなに大学生っていいのかな。つか俺だって年上っていえば年上だし!?むしろ身近な?年上だし?」

とてつもなく不機嫌だったり、

チェっと舌打ちをしてそりゃあもうお高い机を彼は蹴りあげるわけです。

「会長、一体何があったんですか?また猫谷儚日ですか?」

そういうと机に向けていた怒りをそのまま私の方へカッと向ける。

「んああ、俺が儚日ちゃんにイラつくわけないでしょ!?あいつだよ、あいつ!夕島蓮!またまたまた!どんだけ儚日ちゃん虫につかれやすいんだよ!」

はぁっと会長印をしなければいけない書類を床に撒き散らす我らが会長。

「会長もその中の一人なんじゃ…」

「何か言った寺島?」

「い、いえ。」

猫谷儚日と出会ってから、いや私もいつから二人が出会っていたのかは知らないが、会長は少しずつ感情が豊かになっている気がする。

「もう、一人だけで鬱陶しいってのに双子だなんて。」

私が生徒会に入った頃から茗荷谷エルという男は何もかもが完璧で前会長とも年の差を乗り越え同等に渡り合う人間だった。それが今、あの女の前ではデレデレの何ら違わないただの男だ。

「あ、そういえば今日の放課後、俺いないからよろしくね。」

「え?」

「猫谷さんの追試今日なんだ。俺が付きっきりで教えたから落ちることはないんだけど…ふふ、ご褒美にご飯でも奢ってあげようかなってね。」

「…。」

追試なんて受けるような人間のどこが好きなのか。全く理解ができない。

「…そんなにその女が好きですか?」

「好きだよ。そんなの今更じゃない?」

当たり前のように話す会長につい苛立ってしまう。

「…例えばの話ですが。他に、猫谷さんと会長が出会うよりも先に…あなたを好いていた人がいたとしても会長はその人に同じことが言えますか?」

告白のように、なってしまっただろうか。まあそれはどうにでもなればいい。文化祭の時に猫谷儚日にも宣戦布告のようなものをしてしまったし。

会長は少し俯きながら考えていた。しばらくして納得したように口を開く。

「…うん、そうだね。そういう人がもしいたとしたら、申し訳ないけど。」

誰だかはわかっていないようで少しほっとする自分がいた。しかし残酷にも会長は続ける。

「これはずっとずっと昔からの俺の片想いでしかないから、ね。きっと今更気持ちなんて変えられないんだよ。そう思えるくらいには彼女のこと愛してるからって、多分そう伝える。」

今まで見たこともない誰かを思い浮かべる柔らかい微笑みで、そう言い切った。



ーーーーーーーー



す、すごい。
わかる!これもあれも全部、わかる…!

前まで暗号のようにしか見えていなかった問題用紙が今はこんなもんか、と感じる。悔しいが茗荷谷エルはやはりすごかったのだ。みんなより一足先にテストが終わり、下駄箱へ向かう。

「こんな早くて驚くだろうな。やば、私ってもしかして天才?」

茗荷谷に呼び出されているのだ。不本意ではあるがこの功績は彼のおかげだ。仕方ないから今日は付き合ってやるか。連絡しながら階段を下りていくと、曲がり角から急に人が現れた。

「誰が天才だって?」

そう言ったのは今まで私を避けていた人物。

「…楓、なんでここに。」

少し気まずそうに腕を組む楓。

「会長とお前何かあったのか。お前と関わるなって前まで言われてたんだけど、突然それがなしって。」

つまり、茗荷谷は私の要求をきちんと飲んでいたのだ(そもそもその前にそんなことを楓に言っていたのか。)。話すのは一ヶ月ぶりくらいだろうか。

「だってあんなのおかしいでしょ。直談判よ。あんたもあいつの言われた通りにしちゃって。」

「それは前にも言ったろ!…俺は。」

その一言で茗荷谷云々の前にひと騒動あったことを思い出す。そうだ私、楓に告白されてたんだった。どうしよう、返事というかそういうことを考えずにこの日を迎えてしまった。

「そ、それはさ

「はいはーい。話していいとは言ったけど、そこまでイチャイチャしていいとも言ってませーん。」

このタイミングで出てくるのはさすがとしか言いようがない、茗荷谷エル。

「…会長。なんでここに。」

「なんでも何も。今終わったって儚日ちゃんから連絡あったのに全然来ないんだもの。そりゃあ心配になって見に来るよ。」

絶対に嘘だ!だって連絡いれたのさっきだし。そんな矛盾を感じさせないくらいナチュラルに、私をぐいっと引っ張り楓から離れさせる。楓は名前呼びにも動揺しているようだ。しかしすぐに口を開く。

「やめてください。こいつにこれ以上つきまとわないでくれませんか。第一、こいつがあなたと約束事なんて。」

「なんにも守れない君よりはマシだろ?それにつきまとってるわけじゃない。儚日ちゃんときちんと約束して今日お出かけの予定だったんだ。君がお邪魔虫なの。わかんないかな?」

「あなたが近付けないようにしているだけじゃないですか!俺だって儚日を守れる!今日だってきっと儚日が脅されているんでしょう?」

まあ、そう思わなくもないよね。私が楓でもそう思うもの。

「ひどい言われようだな。だったら儚日ちゃん本人に聞いてみればいいじゃないか。回答に絶望するのは君だろうけどね。」

顔は見えないが少し茗荷谷も怒っているようだった。私を離さない腕が微かにプルプルと震えているのだ。何か言われたくないことを言われたのだろうか。そしてその言葉を受け、楓はゴクリと息を飲み私に尋ねる。

「本当なのか、儚日?」

「うん、今日はエル先輩と出かける約束はしてたよ。」

一瞬、楓は悲しそうな顔をしたがすぐに笑った。

「そっか、わかった。邪魔してすいませんでした。じゃあもう俺は帰りますね。」

「あ、楓。」

走り去るように楓はいなくなる。いつかの時のように私は彼を追えなかった。

「…もう、本当に君は虫がつきやすいね。」

「楓は虫なんかじゃありません。」

「俺は君にも怒ってるんだよ、儚日。君は昔から油断が過ぎる。」

確かに声には怒気がこもっているが、今の私にはそんなこと考える余裕はなかった。

「ほら今も俺といるのにあいつのこと考えてる。」

「そんなこと。」

「そんなことあるよっ!」

ぐいっと壁に追いやられる。体に力が入らない。茗荷谷が泣いてるような怒っているような、今まで見たこともない顔をしていた。…いや一度あった。この顔は、私がかつてーー

「ねえ、儚日。」

なんて考えが至らないうちに、茗荷谷の顔が自分に近付いてくる。私も抵抗しない。それがなぜだかは自分でもわからなかった。

「…俺と付き合おう?」

放課後の誰もいない廊下の端で、二人の影はそっと重なった。

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