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「で、どういう経緯で俺の家で料理作ろうってなったわけ?」
ドアを開いた瞬間に私ともう一人がいるのを見て、静かな怒りの笑顔を浮かべる輝也。
「だってこれくらいの歳の男女がどっちかのお家行くなんてなんか言われたら嫌じゃないですか。あと単純にほかの女の目が怖い。」
「そんなっ儚日ちゃんが!男を連れて来る日が来ようとは…!」
お前は私の親か。
「いきなり来てしまってすまない。この前の非礼も詫びよう。今日はよろしく頼む。」
礼儀正しく綺麗な角度のお辞儀をきめる遊里に輝也は怪訝そうな顔をした。
「くっ、儚日ちゃんのお願いだから空けた日なのに…。」
変に謝られるとこっちもやりづらいじゃないか、と輝也はぶつくさ文句を言うが気にしない。これは私の死亡フラグをへし折るための重要すぎる問題なのだ。遊里と相手の人をくっつけることが出来れば少しは私の生存率もあがるだろう。茗荷谷たちのことはとりあえず置いといても、だ。
「とりまお邪魔しまーす。あ、材料は私が持ってきたから大丈夫ですからね。」
「邪魔する。ありがとう儚日、よろしく。」
ピクニックだ。普通のお弁当の中身みたいな感じでいいだろう。デートは一週間後、練習できる日は限られている。なんとかそれまでに腕を上げるしかない。
「いやあ、まあでも儚日ちゃんのお弁当食べれるなら部屋貸してよかったかな。」
椅子の背もたれに寄りかかっている輝也はにこにこだ。そう、この部屋を貸してもらう代わりにその期間中、輝也に弁当を作る約束をしたのだ。命と引き換えだ、やむを得ない。
「とりあえず、最初は卵焼きの練習をしましょう。卵焼きって意外と見た目重視なんですよ。黒焦げになっただけでお弁当自体のバランスが悪くなっちゃうんです。」
「卵焼き、か。一応自分なりに少し調べてみたんだ。いくつか卵液をわけていれるのだろう?それが難しそうで。」
真面目な人だ。料理なんて基本てきとうで大丈夫なのに。まあ好きな人に食べさせるから当たり前か。
「慣れれば大丈夫ですよ。量を作ればなんとかなります。ほら、食べる人はここにいるんでたくさん作りましょう。」
「ええー焦げたのなんて食べれないよ。儚日ちゃんが作ったのならともかく、男の作った焦げた卵焼きなんて…。」
さっきからコロコロ表情が変わって、楽しそうな人だ。しかしそれは杞憂で終わった。なにせ相手が天才なのだ。
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一時間ほどで料理教室は終了した。
「…こんなもんでいいか?」
「いや、もう言うことなしですよ。」
私の前に並んでいるのはレシピはそれこそ私が考えたものだが、なんの失敗もなく作られたただのお弁当だ。そこらへんの女子が作りましたーと言ってもわからないほど女子力高めのお弁当だ。
「私いる必要ありました?ていうか練習自体いらなかったんじゃ。」
「いや儚日が教えるのが上手いからだ。俺一人じゃこれほどの出来にはならない。でもこれだけではダメだな。もう少し上達させなければ。」
輝也も目をぱちくりさせている。
「こんな漫画みたいな人間いるんだ…。」
そして口にこれまた綺麗な卵焼きをいれると、すごくだらしない笑顔になった。
「お、おいひぃ。」
たまに私も輝也に料理を振る舞うこともあるがこんな顔にはなったことがない。料理経験あんまりない男に負けるって…いや、いやいや私のレシピだしね。うん、私の考えた味だし。私の勝ちだし?そう思い私も口に含む。
くそ、くそうくそう、なんてことだろう。
「…おいひい。」