20
『その、実は…』
あの後、少し話をしてお互い文化祭は楽しみたいからまた後日という形でお開きになった。思い出すだけで口元が緩くなる。伏せ目で赤らめた頬、ユーリファンにはたまらないものを見せてもらえた気がする。殺された恨みはあるけどオタクとしてこれほどみんなに自慢できることはないだろう。
「むふふふふふーん。」
「はーちゃん変な顔してるよ?」
「いつも猫さんはこんな方なんですか?もっと聡明な方だとばかり。」
「いや、いつもは普通なんですけど。」
「さっきから二人してひどいこと言いますね。っていうかあんた誰ですか。」
目元の隈がすごい負のオーラ全開の青年。いつの間にか灯と一緒にいた。私のことを知っているようだが私は彼のことを知らない。
「あれひどい、公安委員会の忠野ですよ。この前もお会いしましたよ。猫さん。」
全然お会いした記憶がない。さっきからこの猫さん呼びもそわそわするし。
「声漏れてますよ。まあ覚えられにくい自信はあるので、今回だけは許してあげますよ。あと自分はあだ名つけるの得意なんで。」
ああそう、こういうタイプですか。あからさまな上から目線であるが、残念ながら恋王国の登場人物ではない。
「でもなんであなたがここにいるんです?もう後夜祭しか残ってないし、友達とかといればいいんじゃ。」
「桜先輩と生徒会長が妙な賭けをしたらしくて、ちょっと心配なんで猫さん
の近くにいようかな、と。」
「賭け…?茗荷谷と?」
なんだなんだ私そんなの聞いてないんだけど。嫌な予感しかしないし。
「やはり猫さんにはお伝えしてなかったんですね。」
「あのね儚日ちゃん。今年の後夜祭は各出場者が全校生徒の投票で賞を貰えるのよ。優勝するかしないかで何か賭けてるらしいんだけど…。」
「まあ大方生徒会長がのるくらいなんで猫さん関係かなと。」
ほう、その言い方だと桜井先輩がその話を出したんですね…?
「その話を昨日忠野くんから聞いて、やっぱり私だけがついてるより男の子も一緒にいてくれた方がいいかなって。」
灯、あんたが親友でよかったよ。忠野がやけに灯に近いのは気になるけども。
「まあここは大勢生徒のいる体育館です。変に手を出したりはしてこないでしょう。」
「ぐぬぬぬ…桜井先輩め。」
「さっきから笑ったり怒ったり、忙しい人ですね。でもまあ桜先輩を怒らないであげてください。先輩は後輩が可愛くて仕方ないんですよ。」
全く意味がわからない。
「あなたもいつかわかりますよ。まあとりあえず桜先輩が勝つことを祈りながら後夜祭楽しみましょう。」
そしてガヤガヤした生徒たちの視線を一気にかっさらう司会は口を開く。
「はーい!皆さんお待ちかねの後夜祭のお時間でーす!!なんでも今回の見所はと言うとですね、な、な、な、なんと!我らが生徒会長、茗荷谷エルと公安委員会委員長、桜井宣明がダブル出演してくださるんです!皆さん目を見開いてご覧くださいね!では第一グループ、軽音楽部からのスタートです!」
ジャンジャンとオーバードライブの音が響いていく。みんな一気に盛り上がっていく。灯も忠野もそれは同じだ。
なんだかモヤモヤするがもう勝手に決まってしまってるのなら腹を括ろう。スパッスパッと色々割り切ってしまおう。なにせ私は一番の死亡フラグを乗り越えられる(予定)女なのだから。