9
「ねえねえ聞いた?今年の生徒会指名枠、うちのクラスの鬼丈くんになったらしいよ?」
「ええそうなの?てっきり猫谷さんをとるものだと。でもやっぱり美形ぞろいの中に美形が入ると絵になるわね。」
「猫谷さんはなぜか公安に入ったらしいのよ。茗荷谷先輩たちと一緒にいれるなんて羨ましい限りなのにね。でそれは置いといてね、女子の先輩たちもさっそく鬼丈くんのファンクラブ作ったらしいわ。」
「あら絶対入らなきゃ~!」
ガラッ
「「「………。」」」
クラスメイトの噂話も、昨日あったであろう出来事の話も私の友人猫谷儚日が教室に入ってくるなり終了した。
「おはようはーちゃん。」
「おはよう、灯。」
もう一人の話題の中心である人物の鬼丈楓は学校を休んでいた。この前の件を含め考えれば、何があったかなんて手に取るようにわかる。鬼丈くんの部活の先輩である桜井宣明は生徒会に唯一対抗出来る公安委員会の委員長だ。彼は自らをはーちゃんを助けるために犠牲にして生徒会に入ったのだろう。はーちゃんが生徒会に指名されたとしたら彼がそうするのは明白であった。でも、
「もう、あと二年半…学校では一緒にいられなくなるんだよ。」
それ以外に何か道はなかったのだろうか。なんなら私がなってもよかった。はーちゃんや鬼丈くんの気持ちを思えば、はーちゃんを悲しませる茗荷谷先輩なんて応援できない。しかし鬼丈くんは私という親友がいなくなる時のはーちゃんのダメージの方が大きく思えたのだろう。
「あかり、灯!」
自分が揺さぶられていたのに気付く。はーちゃんの目の下が黒く縁どられているのを私は見逃さない。
「はーちゃん、あははごめんね。色々考えちゃって。」
「灯…。」
私は無力だ。鬼丈くんのように信念を通す行動力もなければ茗荷谷先輩のように人を動かす力もない、はーちゃんのように強く自分を立ち上がらせることも出来ない。だからせめて、私はここで腹を決めようと思う。
「私は絶対に生徒会と公安なんて関係なくはーちゃんと鬼丈くんを助けるよ。いきなりで、こんなことになっちゃったけど…私も先輩たちと戦えるとこまで戦うよ。」
「…本当に?」
ここでなぜかはーちゃんは困った顔をした。どうしたというのだろう。親友があなたの味方をするというのに、なぜこんな悲しそうな顔をするのだろう。
「今日の放課後、私の家に来てくれる?」
頷くと同時にホームルームのチャイムがなる。どうも晴れない気持ちの中、その日一日は昨日のような平凡を過ごした。
ーーーーーーーー
ガチャ、
家までは終始無言だった。灯には、最近起こった私の変化を伝えようと思った。たとえ信じてくれなくても、これが正解だと思ったから。
「あれ、儚日ちゃん?もう帰り?」
かつての護衛騎士は相変わらずの笑顔で、いつかの時の楓と少し重なった。
「うん、でも今日は宿題があるんです。また今度遊んでくれますか?」
涙をぐっと堪えた。するといつものまま彼は、
「うん、もちろん。君が望むならいつだって。」
そう、答えた。