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光秀5

 鼠が連れて行った部屋は料亭の中庭の奥にある。ここは特別な客を案内する部屋のようだ。鼠が屋根から天井裏に入る。鼠が仕掛けを作ったようで穴が狭い。部屋にはお膳が運ばれてきているが人気はない。
「お棺は押入れの中にあります」
 鼠の口を読む。半刻気配を消して部屋中を見渡している。襖が開いて光秀が一人で入ってくる。
「外に侍が10人ほどいます」
「逃げ道を考えておいてくれ」
 襖が閉まるとゆっくり押入れから白髪の果心が出てくる。
「考え直したか?」
「いや計画は変えない」
「朝廷も家康もあてにはならない。たとえ信長を殺しても天下は取れぬぞ」
「弾正も同じことをしたではないか?」
「儂は信長を倒すことしか考えておらん。天下などいらぬわ」
「私は天下が欲しい」
「ならば秀吉を味方に付けるしかないだろう?」
「奴は無理だ」
「徳川は当てならぬぞ」
「分かっている。最悪の場合の約束を宗矩としている」
「何を話しているのだ?」
「知りたければ私の中に入れ。果心」
 その時鼠の合図が来た。
「柳生の下忍が囲んでいます。大屋根から塀の上を走って母屋の狐の部屋に入ります」



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