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花祭り その3

 辺境都市ブラコンベでの花祭り、2日目

 今日も僕は、まだ日が昇る前から屋台の中に作成している簡易調理場で大量の弁当を作成中だ。
 以前は1人で調理していたので、作成出来る量もしれていたのだが
 最近は、猿人の女の子4人が調理担当として頑張ってくれているので、弁当だけでなく、パンやサンドイッチも相当数作ることが出来るようになっている
 
 花祭り初日の昨日も、弁当類は非常によく売れたので、1つでも多く作っておくにこしたことはない。

 とはいえ、
 ブラコンベの簡易調理場では、ガタコンベにあるコンビニおもてなしの店内施設ほどの火力がないため、どうにも作業効率が悪いのだが、そこはもう根性でガンバルしかないわけで……

 そんな弁当・パン類作成チームの横では、昨日知り合ったばかりの蛙人(フロッグピープル)・ヤルメキスが、あわあわ、うろうろ、わたわたしながら、得意料理であるカップケーキを作っていた。
「あ、あ、あ……あのでごじゃりますね、店長殿。わ、わ、わ……私のようなものが、その……こ、こ、こ……このような立派な屋台に商品を並べさせていただいてもよろしいのでごじゃりまするぐぁ!?……あだだ!!舌を噛んだでごじゃりまするぅ」
 緊張のあまり、噛んでしまった舌を両手でこすりながら若干涙目なヤルメキス。
 っていうか、
 蛙人(フロッグピープル)だからか、舌長いな……

 まぁ、あんまその舌をマジマジと見続けてると、
 なんか、スアのアナザーボディが飛んで来そうなので、このあたりでやめておこ……って、スアさん!? やめたから! ヤルメキス観察するのやめたから! そのアナザーボディ引っ込めてって!!

 と、まぁ
 一から邪魔が入ってはおりますが
 ヤルメキスによるスイーツも店頭に並び、ちょっと嬉しくしてる僕なわけです・


 ほどなくして、広場に鐘の音が鳴り響き、
 花祭りの2日目が始まったことを教えてくれた。

 コンビニおもてなしの屋台は、
 昨日大好評だった手作り弁当やパンを求める客が開店と同時に押し寄せてきた。
 かなりの人数ではあったものの、
 2日目ということで、客の誘導にも若干慣れた鬼人(オーガピープル)のイエロや、騎士ゴルア・メルアらのおかげで、割といい感じでお客さんが流れていき、安堵しきりだったわけで……

 この日も一番人気は、弁当とパン類だ。
 これらの商品は祭り開始直後から売れまくったため、僕はすぐに弁当らを追加すべく、すぐに調理を開始した。
 その間の、レジの対応はクレリックのブリリアンに任せる。
「ご、ご主人!?こ、このお客の数は私の許容範囲を超えておりますぅ」
「……大丈夫だ! ブリリアンならきっと出来る! 何しろブリリアンはクレリックなんだから!」
「ご、ご主人、言葉の意味がよくわかりませんです!」
「いや……ほら……お客様は神様っていうし」
「そんな言葉、初めて聞きます!」
 そんなこんなな、僕とブリリアンの言い合いが、やけに客らに受けたりしながら、
 屋台をあれこれ盛り上げていっていたわけです、はい。

 屋台内の商品補充は、
 相変わらず超絶対人恐怖症りのエルフの魔法使い・スアが、魔法で作り出している自分の分体・アナザーボディ達をフル稼働してこなしてくれている。
 ちなみに当の本人はというと、
 屋台の裏に止めてあるコンビニおもてなしの電気自動車・おもてなし1号の後部座席で毛布にくるまり隠れており、そこからアナザーボディ達を遠隔操作しているらしい。

 ちなみに
 スアが今日の祭りのために準備してくれていた薬や魔石なんかも大好評だ。
 かなりの数を準備し、販売していたのだが、今日は午前の早い時間で早々に売り切れてしまった。
 スアに確認したところ、ここブラコンベには、クスリの追加作業用の設備も材料もないということだったため、今回の薬品販売は、無理せずここで終了することにした。

 さっきまで大量に売れていた薬類と入れ替わるようにジリジリ売り上げを伸ばし続けているのが、ヤルメキスが作成し続けているカップケーキだった。

 デザート用の材料をあまり持ってきていなかったためシンプルなものしか準備できなかったのだが、一口サイズなのと、砂糖を多く使った甘味が好評で、時間がたつにつれて口コミから売り上げが上がっていく。

「あ、あ、あ……あわわわわ。でごじゃりまする。こ、こ、こ……こんなに売れたの、産まれて初めてでごじゃりまするですよぉ!」
 慌てふためきながら、カップケーキを追加していくヤルメキスなのだが、作った分から売れていくため、補充がまったくおいついていない状態なのだった。

 花祭り最終日のこの日
 結局、コンビニおもてなしのブースは、祭り終了の鐘が鳴り響いた夕方まで、1日中、ただの1度も客足が途絶えることがなかった。


 僕は、なんだか感慨深い気持ちでこの終了の鐘を聞いていた。


 祭りが終わった中央広場では出展者や、残っているお客らが集っての宴が始まっていった。
「さすがに……今日はあの輪に加わる元気は、残ってないな……」
 くたくたの状態ながらも、どうにか片づけをしている僕の言葉に、同様に疲れ切っている、ブリリアン・ヤルメキス・ゴルア・メルアの4人が大きく頷く。
 ただ、イエロだけは、元気に輪に加わって酒を飲んでいた……さすがは鬼人って思うんだけ……もう少し片づけ手伝ってから言って欲しかったなぁ。
 まぁ、こういう日だし、野暮は言わないことにしよう。

 祭り全体の警備にあたり、祭りを影ながら支えてくれた猿人達自警団の皆も、皆一様にお疲れモードだったのだが、明日の朝まで契約があるため、もう一頑張りしないといけないらしい
 そんな話を、猿人の1人としていると、セーテンがふらふらしながら僕に近寄って来た。

 セーテンも、今回は終始真面目に頑張ってたしなぁ。
「お疲れさま、あとで何か差し入れでもするよ」
 そう言った僕に、セーテンはよろよろしながら抱きついてくると
「差し入れよりもさぁ……ダーリンからの熱~い、キッスがあれば、もう一頑張りできるキ」
 そう言いながら、目を閉じ、唇を突き出しながら、ん~って近づいてくるセーテン。

 当然のように、店内で片付けを手伝ってくれていたスアのアナザーボディ4体が一斉にセーテンに群がったかと思うと、僕から引っぺがしたかと思うと、4体でセーテンを担ぎ上げそのまま店の外へと放り出してしまった。

「……油断……も隙も……無い……このエテ公……」
 よく見ると、おもてなし1号の後部座席からスアがその顔の上半分を覗かせながら何かブツブツ言ってるんだけど、とりあえず女の子が口にすべき言葉ではなかった気がする……

 とまぁ、そんなこんながありながらも、片付けもどうにか終了。

 持って来ていた荷物は、おもてなし1号と、荷馬車に分けて積み終えた。
 片づけが一段落したところで、僕は改めてヤルメキスを呼んだ。

「な、な、な、なんでごじゃりまするか? 店長さん」
 自主的に片付けも手伝ってくれていたヤルメキスは、首をかしげながら僕を見上げている。
 ……スアさん、なんでその後方にアナザーボディ4体が臨戦態勢で待ち受けているんですかね?
 ほら、振り向いたヤルメキスがまた土下座しちゃってるじゃないか……


 ヤルメキスに、コンビニおもてなしでスイーツを担当してくれないかと話をした。
 実際、ヤルメキスは筋がいいというか、スイーツ職人としての素質があると思う。
 今日1日、屋台でカップケーキを作っている間にもどんどん成長していってた。
 最後の方のカップケーキは、お世辞抜きに店で売ってる品物と遜色ないほどだった。

「わ、わ、わ……私のようなもので、お、お、お……お役にたてるのでごじゃりまするか?」
 僕の言葉に、あわあわしながらも、嬉しそうに顔を赤くしているヤルメキス。
「こ、こ、こ……こちらこそよろしくお願いいたしまするでごじゃりまするぅ!」
 そう言いながら、その場で土下座し、その額を地面にこすりつけていく……って、だから土下座はもうしなくていいから!

 ってか、スアさん!
 なんでアナザーボディがヤルメキスを抱きかかえて店の外に放り出そうとしてんの!?
 やめたげて、仲間になるのよ、仲間にさ!
「……油断……も隙も……無い……このケロ公……」
 だから、仲間だってば、仲間ぁ!

 この後、少しだけ宴に顔を出し、お世話になった人達にお酌をして回った。
「あんたの店の弁当うまかったぞ!」
「今度は店にいくからな!」
 正直、宴とかに顔を出すのって、酔っ払いを相手にしなきゃならないんで苦手なんだけど
 こんな声を僕にかけてくれる酔っ払いなら歓迎だな……はは、お調子者だなぁ。


 その後、僕はおもてなし1号でガタコンベへ帰宅することにした。
 助手席では、毛布にくるまった姿のスアが、すでに寝息をたていたため、そのまま一緒に連れて帰ることにし、他の皆は荷馬車で帰宅してもらいことに。
 明日の朝、明るくなってから戻ってくるよう指示したんだけど

 ……イエロが宴になじみまくって、飲みまくっているので、そうするしかなかったわけです、はい。


 石造りの街道をおもてなし一号で進んでいると、スアがいつの間にか目を開け僕を見上げていた。
「……リョウイチは、不思議……私が知らない……ことをいっぱい教えてくれる……毎日が楽しい……よ……」
「そんなたいしたことはしてないんだけど……そう言ってもらえると、僕もうれしいよ」
 ニッコリ微笑むスアに、僕も笑顔を返す。

 と

 なんかここでスアの顔が一気に不機嫌全開モードに……
「……でも……ね、女の子……の店員を増やすのは……いい加減に……して……ほしい……」

 はて?

 なんでだ?

「皆よく頑張ってくれるいい人達ばかりだし、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないか?」
 そう言う僕に、スアは、プイッとそっぽを向いてしまった。


「……鈍感」

 つぶやくようになんか言った気がしたんだけど、なんかよく聞こえなかったわけで……
 慌てて聞き返したんだけど、スアはそっぽを向いたまま黙ってしまった……

 気のせいかその顔が真っ赤になっていたような気がしたんだけど……大丈夫か? 風邪か? 疲れか?


 そんな事を言ってると、今度はスアにポカポカ叩かれる羽目に……
 そんなこんな僕らを乗せたおもてなし1号の前に、見慣れた城壁が見え始めていたわけで……

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