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結人と夜月の過去 ~小学校一年生⑩~




冬休み


結人は――――本当に一度も、理玖の前には姿を現さなかった。 彼が事故に遭って以来、まだ一度も対面していない。 
そして、その状態のまま――――冬休みに入ってしまった。 理玖の容態は軽いものではなく、入院期間がとても長い。 
だけど事故に遭ってから、約三ヶ月が経ち――――冬休みに入ると無事に退院。 年明けから、普通に学校へ通える状態になっていた。
だから結人は約三ヶ月の間、理玖と会っていないことになる。 夜月は理玖に会おうとしない結人のことが最初は気に食わなかったが、次第に呆れ嫌な風には思わなくなっていた。

だったらいっそ――――このまま“色折は理玖の前から消えてしまえばいい”と、思っていた。

「夜月! 今日も来てくれたんだ! 入って入って!」
夜月は今、理玖の家の前にいる。 チャイムを鳴らすと、中からは元気よく理玖が姿を現した。 
苦しい事故に遭ったことを感じさせない程、今はとても活き活きとしている。
「あら、夜月くん。 いつも来てくれてありがとうね。 あとで理玖の部屋に、飲み物とお菓子を持っていくわね」
促されるように中へ入ると、次に理玖の母がリビングから顔を出してきた。 夜月は軽く頭を下げ、挨拶をする。
「夜月、早く僕の部屋へ行こう!」
彼の部屋は二階にあるため、二人は階段を上り始めた。 だけどその前にある一つのドアがふと目に入り、さり気なく尋ねてみる。
「理玖、今日も琉樹にぃはいないのか?」
「え? あ、あぁ」
理玖は突然尋ねられ少し驚きながらも、夜月のいる後ろへ振り向きながら笑顔で答えていった。
「うん、兄ちゃんは友達が多くてさ! だからいつも『遊ぼう』って、誘われているみたい。 それで兄ちゃんは優しいからみんなにOKして、今は外出中。
 友達が多くて誰にでも優しい・・・僕の自慢の兄ちゃんさ」
そう言って、優しく笑ってみせる。 その笑顔を見て、夜月も微笑み返した。 理玖と琉樹は兄弟であり、とても仲がいい。 
それに理玖は、兄の琉樹のことが大好きであると知っているため、二人の関係を羨ましく思っていた。





理玖の部屋


「夜月、今日も来てくれてありがとうな。 でも、本当におばあちゃん家には行かなくてもいいの?」

そう――――毎年の年越しには、理玖、夜月、未来、悠斗の4人は、両親の実家へと帰省している。
だけど理玖はこの冬休みに退院してばかりで病み上がりのため、今年は身体のことを考え横浜に残ることにした。 当然未来と悠斗は、それぞれ帰省中。 
今頃二人は、各々の時間を楽しんでいることだろう。 だけど夜月だけは違った。 
その理由は――――今年理玖は帰省しないと知っており、かつ彼を放ってはおけないため、両親を説得し自分も帰省しないことに決めたのだ。
それに理玖は安全のため、この冬休みの間は外出禁止になっていた。 そのことについては彼自身も納得しており、素直に親の言うことを聞く。
だけどあまり一人にはさせたくないため、横浜に残った夜月は自ら理玖の家へと、ほぼ毎日足を運んでいた。

「俺は大丈夫だよ。 理玖を一人にさせたくないし」
「ありがとう。 でも何か申し訳ないな」
そこで理玖は、突然ある提案をする。
「そうだ! 夜月、今日は僕の家に泊まっていってよ!」
「え? 何だよ急に」
「明日も来てくれるなら、泊まってくれた方が僕の家まで往復しなくて済むでしょ? 僕、お母さんに聞いてくる!」
「あ、理玖!」

そして彼が勢いよく部屋を飛び出してから、待つこと数分――――
「いいって!」
再び勢いよく、笑顔でそう言いながらドアから姿を現す。
「あとは泊まるかどうか、夜月次第だよ」
柔らかな表情を浮かべる理玖に、優しく笑って返事をした。
「俺が理玖の頼みを、断るわけがないだろ?」
その言葉を聞くなり、彼は先刻よりも笑顔になる。
「やった! じゃあ今度は、夜月のお母さんに連絡だ!」





数時間後


結局あの後、夜月の母にも連絡を取ったところ、今日は理玖の家で泊まることに決定した。 だから二人だけの時間を存分に楽しむ。
ゲームをしたりたくさん話をしたりして遊び疲れた後、理玖は満足そうに床に寝転がった。
「あー、やっぱり夜月と一緒にいると楽しいな! しかも夜月は今日僕の家に泊まっていくし、寝るまで一緒にいられるとか幸せ!」
素直に気持ちを放つ彼に少し照れながらも、夜月はゲームのコントローラーを床に置きながら笑って言葉を返していく。
「俺たちはほぼ毎日会っているだろ」
「ははッ。 それもそうだね」
そしてこの後、二人の間には少しの沈黙が訪れた。 だけど関係のいい二人にとっては、無言の時間でさえも居心地よく感じる。 
そんな中――――理玖は、一人の少年の名を口にした。

「・・・結人にも、会いたいな」

「・・・」

そっと口に出されたため、夜月は特別に気を悪くしていない。 だけどその発言に対しては、何も言葉を返さなかった。
「ねぇ夜月。 結人は、元気?」
夜月のことを見据えながら尋ねてくる彼に、少し躊躇いながらも淡々とした口調で答えていく。
「あぁ、元気だよ。 いつもクラスの奴と一緒に、楽しそうに笑っている」
それを聞いた後、理玖は少し言葉を詰まらせた。 だけど一瞬にして笑顔になり、慌てた口調で言葉を返していく。
「そ、そっか! なら、いいんだ。 本当は結人も僕の家に呼びたいけど『僕の家へ来て』なんて言ったら、迷惑だよね。 ・・・でも・・・キャンプには、誘いたいな」
キャンプ。 キャンプは、理玖、夜月、未来、悠斗の4人で、5歳の頃から毎年の夏に行っていた。 理玖の両親の連休があるお盆に、夜月たちは連れていってもらっている。 
もちろんテントなどの荷物は、理玖の家庭から借りていた。 だからそのキャンプに、今度は結人も誘いたいと言っているのだ。 
だけどその発言に対しても――――夜月は何も、答えることができなかった。
「結人ってさ」
「?」
一度話が途切れると、理玖はゆっくりと結人について語り始める。
「結人って・・・僕たちと、何かが違うよね。 その違い、夜月は分かる?」
「・・・いや」
結人の話になり少し不機嫌になりながらも、目を合わさずにそう答えた。 そして彼は優しい表情になりながら――――結人のことを、更に話し始める。
「結人は、僕たちとは違ったものを持っている気がするんだ。 まぁ、まだ結人とは少しの時間しか、一緒にいれていないけどさ」
「・・・」
「明るくて優しくて・・・素直で人思い。 それに常に周りを見て、行動を起こしている。 だから将来、結人を中心にして、僕たちはいそう」
「それはどういう意味?」
静かに尋ねると、理玖はゆっくりと身体を起こし元気よく問いに答えた。

「だから、結人は地球だと思うってこと! 僕たちを乗せて、結人を軸に回る!」

「・・・意味が分からない」
少し呆れていると、大袈裟に溜め息をつかれる。 そして続けて、言葉を紡ぎ出した。
「つまり、結人は何かのリーダーになりそうってことだよ。 結人の性格的にな。 何か、そんな気がするんだー!」
「・・・」
「まぁ、今の結人の状態からじゃ全然想像はできないけどね」
「・・・」
そこまで言い終えると、やっとのことで夜月の異変に気付いた理玖。 慌ててゲームのコントローラーを持ち直し、夜月に向かって口を開いた。
「この話はおしまい! 夜月、ゲームの続きをしていっぱい遊ぼう!」
そして彼は――――無理をして、笑顔を作った。


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