50.夜の学生課
夜の学園はシンと静まり返り、1部の教授研究室とその他残業中の課で明かりが漏れる程度だった。
今から行く学生課もその1つ、学生課は割と遅くまで人がいることが多く、今日も例外でなかった。
ひとまず安堵した怜央は、シエロとミカエルを連れて学生課の受付まで移動した。
一行の気配に気付いた職員はなんの用か伺いに来る。
「すみません。ギルドの書類持ってきました」
「分かりました。――不備もなさそうですね。はい、確かに受け取りました」
「あ、ちなみになんですけど、これの依頼って誰が決めてるんですか?」
怜央は今回のめちゃ楽依頼が誰の仕業か、聞けるものなら聞こうとしたのだ。
「すみませんがそれは、私の口から申し上げることができません……」
「……まあ、そうですよね。すみません変な事聞いて」
「いえ、別に構いませんよ。でもそんなこと聞きたがるってことは余程難しい依頼を宛てがわれたんでしょうか?」
「や、寧ろその逆で――」
そんなやり取りをしていると、偶然にも学長代理のピティオンが角から曲がって現れた。
ピティオンは怜央に気付くと声を掛けてきた。
「やあ、怜央君じゃない。こんな時間にどうしたんだい?」
「ああいえ、ちょっとギルドの書類を持ってきまして」
「ははー、余程気が
ピティオンはお見通しだと言わんばかりにニヨニヨしていた。
「まあそんなところです」
ピティオンはご機嫌そうに頷くと、
「しかし美人さんを2人も連れてるなんて、やはりお父さんの血を継いでるよね。しかもかなりの腕利きってのが対峙しただけでわかる。怜央君は幸せ者だよ」
美人さんと褒められたシエロはちょっと嬉しそうに体をくねらせて、怜央に尋ねた。
「この話のわかる御仁はどなたですか?」
「そうか、シエロとミカエルは知らないか。この方はこの学園の学長さん。1番偉い人だよ」
「まあっ」
シエロは口元を隠して驚いた素振りを見せた。
「いやだな怜央君。正確には学長代理、1番偉いのは怜央君のおじい様だよ。 今もね」
怜央は肩を竦めて行方不明の祖父に想いを馳せた。
「そういえば怜央君、今回のギルドの依頼選んだの僕なんだけど、どうだった?」
「!? え、ピティオンさんが選んでたんですか!?」
「そうなんだよ。ちょっと気を利かせたつもりだったんだけど、簡単過ぎたかい?」
怜央はテミスの詰まらなそうにしていた態度を思い返して渋い表情になった。
「んんー、そうですね。パーティーの人は簡単すぎて若干つまらなそうにしてましたね」
「怜央君なら大丈夫だとは思ってたんだけど、念には念を入れてね。余計なお世話だったかな。ごめんよ」
「いえそんな! お気遣い痛み入ります」
ピティオンは怜央の謙虚さを気に入って終始笑顔だった。
「それじゃ怜央君、僕はもう行くよ。横のお二人さんも怜央君のことよろしくね」
怜央は会釈し、シエロとミカエルは深々とお辞儀して別れた。
まさか今回の依頼がピティオンの差し金とわかったのは、思わぬ収穫であった。
◆◇◆
ピティオンの背中を目で追いかけていると、空気だった職員は咳払いをして存在感を主張してきた。
「先程の続きですが、説明してもよろしいですか?」
「ああ、すみませんお願いします」
「こちらに記名されている方、当学園の生徒ではありませんね?」
職員が指さした所にはシエロとミカエルの名前があった。
怜央は横の2人を一瞥して、そうだと答えた。
「そうなりますと、次の手続きを少し急いで貰うことになります。生徒でない外部の方――今回で言えば、スマホを配られている『サルヴェイション』所属の方になりますから、取り分けギルドリングを作って頂く必要があるんですね」
「ギルドリング?」
「はい! ギルドリングとは生徒に配られるリングとは別物で、合金製のスタンプリングになります。そしてそのスタンプ部分にギルドの紋章を彫るのですが、そのための紋章をデザインしてもらいたいのです」
「……なるほど、そしてまたお金もかかる……と?」
「いえ、確かに紛失などされた場合は再発行代がかかりますけれども、初回は無料になっています」
怜央はホット胸をなで下ろした。
「それは助かります。まだお金もそんなないし、ここ最近出費が多くて……」
「まだ入学したばかりですものね。でも大丈夫です! 余っ程のことが無ければ卒業までに、そこそこの額が貯まっているはずですから!」
「そうなることを祈ります」
怜央は発行されたばかりの紋章デザイン登録用紙を貰った。
その紙に目を通したら、デザインを直接描く部分とスマホでアップロードするための手順説明があり、提出方法が2通りあることに気付く。
(こういうところは流石だよな。アナログとデジタル、どっちのやり方も用意してくれて――)
その後怜央らは提出期限の注意を受けて、紋章のアイデアを考えながら寮に帰った。