次の手6
筒井順慶の暗殺未遂から半月が経った。遂に明智光秀が信長の命を受けて5百の兵を率いて弾正の天守閣に入った。弾正は恭順を装い武装兵を城の外に出した。年寄りからの繋ぎで光秀が城に入る前に狗は城内のいつもの倉庫に入る。
「揚羽は戻ってきているのか?」
「あのお棺のある部屋に入ったままだったけど、昨日初めて顔を見たよ。それが左腕がくっついているの」
やはり果心が何やら妖術を使ったのか。これは柳生の調べの中でどどうも果心は南蛮にいたと言うのだ。狐は京から戻ってきてから天守閣の担当に昇格している。どうもくノ一の術で家老を操っているようだ。だが男の体に巻き付いている狐の肌が目に浮かぶ。
城内が慌ただしくなった。光秀の到着を知らせる小姓の声がする。天井裏から覗くと弾正自ら光秀を招き入れている。光秀の部下は鎧をまとっている。だが天守閣の手前の廊下で光秀が彼らを控えさせる。弾正の後ろに小姓姿の揚羽が控えている。やはり指も動くようである。光秀はあのお棺の部屋に入る。ここは天井裏がないのだ。それで狗は糸の先をこの部屋に繋がる隙間に入れていて会話を聞けるようにしている。
「信長の命は?」
「条件通り。もう一つの約束は?」
これは弾正の寿命を縮めることだ。深い意味はよく分からない。
「最後の勝負に出る」
「私は信長殿の気には勝てぬと思う。あれはあれで果心と劣らぬ化け物だ」
光秀も秘められたものがあるようだ。壁が開いて胡蝶が巫女の姿で木箱を持って入ってくる。この中に約束の茶釜が入っているようだ。
「それと胡蝶をしばらく借り受けたい」
「何を考えている」
「朝廷工作だ。公家たちの心の中を覗く」
「あ奴たちではもう役に立たぬだろうに」
短い会談の後、僅か3日後弾正の助命が決まり、引き続き大和の国を安堵された。狗は鼠を胡蝶を見張らせることにした。