次の手4
狗は胡蝶より早く弾正の城に戻った。人夫として作業場に戻ると鼠から繋ぎが入った。それで年寄りの納屋に出て行った。そこに鼠が娘としている。
「どうだった?」
「京之助は京にいる柳生を動かしました。どうも信長にはすでに柳生が隠密に見張っているようです」
「これは家康の意向だろう」
家康は信長に従順しているが次の天下を狙っている。だから影の部隊の柳生を使っている。
「それと揚羽が動きました。揚羽はまだ猿が死んだとは知らないので猿に繋ぎの文をあの小屋に置いたようです。もちろんこれは洞窟の長老が見つけました」
「これだ」
と長老が奥の部屋から顔を出す。今は洞窟を取り仕切っていて、内々に狗の代行頭になっている。文には下忍を率いて大和に来るようにとある。何かを仕掛けてくるようだ。
「すでに約束の国境の神社に下忍を10人集めている。どうする?」
何を考えているのか?
「よし、その中に紛れ込む」
久しぶりに長老と一緒に走る。お婆と同じくらいの歳だがまだまだ元気だ。今でも森の中を駆けまわている。狗は四足で走るのを長老から教えてもらったのだ。2刻走ると国境に筒井の旗印が見える。神社に入ると長老が笛を吹く。狗は長老と無人の部屋に入る。半刻して自ら揚羽が現れる。
「猿は?」
「儂に行ってくれと?」
不満な様子だ。でも筒井順慶の暗殺と紙に書いてある。
「今の下忍では無理だ」
「分かっている。私が言う場所に火玉を投げ込むだけでいい」
と言うと揚羽が走り出す。狗はここで抜けて別の道を走る。その後ろを鼠が付いている。
「弾正の忍者がすでに筒井の陣の中に潜り込んでいるようです」
「長老に爆発とともに逃げ道を確保してくれ」
と言うと陣の中に入った。