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次の手3

 日が暮れたのを待って岩穴に黒装束で忍び込む。篝火が焚かれていて天井は思ったより広い。ここは人の手で掘り進んだ感じがする。それもずいぶん古い。新しく作られたところではない。山城の出城の上の修験場は逆に新しかった。ここからあそこに向かったのだろう。
 一番奥に祭壇が設けられている。そこに座っているのは巫女の姿の胡蝶だ。その周りに修験者の小頭達が10人ほど座っている。
「山城からは全員引き揚げたのか?」
「はい。今この場所に3千います。大和に向かわなくても?」
「今回は許されると」
 許されると言っている。胡蝶は目を瞑って誰かと話しているようだ。胡蝶は果心とテレパシーで話せるようだ。
「これから全員が今から伏見稲荷に向かう」
「伏見稲荷?」
「弾正は撤退するときにここにすべての鉄砲をここに隠した。2千艇と火薬を運び出して本願寺に運び込む」
 そう言う約束をしていたのだ。揚羽が本願寺と次の約束も取り付けていたのだ。
 翌朝から次々と修験者がここを離れていく。さすがの信長も彼らの動きを察することはできていない。弾正にはいや果心には裏の部隊があったのだ。丸一日かかって修験者が立ち去って行った。だが胡蝶は動く気配がなかった。胡蝶の周りに50人ほどが残っている。狗は気配を消して胡蝶を見張っている。
 胡蝶が茶色の装束を着て洞穴から出てきた。胡蝶の前を10人が走りその後を胡蝶が続く。残りの40人が胡蝶を守りながら後に続く。やはり伏見に向かっているのか。だが伏見に来ても尾根から下りない。まだ走り続けている。再び夜になって京の東山で街に降りる。どこに行くのか?修験者が胡蝶を守るようにたどり着いたのは織田の京屋敷だ。狗は茶色の装束に変えた。
 胡蝶が降りたのは明智光秀がいる部屋だ。天井裏から二人が向かい合っている。
「どうだ信長から許しを取れたか?」
 これは弾正の声色だ。
「殿は弾正をまだ必要としている。だが謀反を起こしてそのまま前の地位をと言うのは無理だ」
「もちろん分かっている」
 胡蝶は夢遊病のように体を小刻みに揺らしている。
「あの茶釜と大和のみではどうかな?」
「分かった」
「それと私との約束を早く実行して貰いたい」
 約束?
「弾正の寿命を短くしろと言うのだな?」
 寿命?








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