第四十四話 勘弁してくれ
焔たちはグラウンドの向かい側に建てられたテントの中に水筒や携帯を置いてくると早速入場門の前に並んだ。
ハチマキの色は4色。1組が赤、2組が青、3組が黄色、4組が白となっている。そして、プログラムはこんな感じになっている。
1.開会式
2.男子100メートル走
3.女子50メートル走
4.大玉転がし
5.大縄跳び
6.2人3脚
7.障害物競走
8.台風の目
9.借り人競争
10.部活動対抗リレー
~昼休み~
11.騎馬戦
12.綱引き
13.ムカデ競争
14.フォークダンス
15.クラス対抗リレー
16.閉会式
この中で俺が出るのは上から順に2人3脚、障害物競走、綱引き、フォークダンス、クラス対抗リレー。
フォークダンスとクラス対抗リレーは生徒全員出ることになっている。最初100メートル走に出る予定だったが、リレーのアンカーは出れないから綱引きに出るやつと交代してもらった。
ちなみに龍二は大縄跳びの回し役、騎馬戦の土台の前の方、綱引きの一番後ろ、ムカデ競争のアンカーとかなりの大役を任せられている。
龍二はデ・・・・縦にも横にもでかいから力が必要な役回りをよく任せられる。それに明るいし、頼りになるから皆も任せたくなるんだろう。
「選手入場」
アナウンスがグラウンド中に響く。それと同時に行進曲が流れ、生徒会、3年生、2年生、1年生の順で行進し始める。
行進が終わり、体操、開会式を終え早速プログラムが始まった。
序盤から場内大盛り上がりだった。次々とプログラムは進んでいき、大縄跳びはなんと100回越えを記録し、1位となった。戻ってきた龍二は汗をダラダラ流し大分疲れた様子だった。
「ハアー!! もう腕が限界だ」
「お疲れさん。もう昼まで出番がないんだしゆっくり休んどけ」
「ああ。でも午後は地獄なんだよな」
「ハハッ!! まあ頑張れ。じゃ、もう行くわ」
「ああ、次は2人3脚か。まあ、頑張れ」
大分疲れてるな。ま、無理もないか。
「焔君。行こ」
後ろから絹子が焔の背中をつつく。
「お、行くか」
その絹子の後ろから綾香が顔を出す。
「2人とも頑張ってね。焔はちゃんと絹ちゃんのことリードしてあげなよ」
「リードね。了解了解」
2人が入場門に行くのを見送る綾香に龍二が話しかける。
「あれ? 妬かないのか? 焔があんなにも女子と密着して走るのに」
「そりゃ、私も焔と2人3脚したかったけど、絹ちゃんは大切な友達だし、それに焔は人のことをそういう風には見ないから……って、え?」
「え?」
綾香はものすごい形相で龍二の隣に座り込み小声でしゃべりだした。
「ねえ!! 何で知ってんの?」
「え? 焔のことが好きなこと?」
龍二の言葉に綾香の顔は急に赤くなっていき、顔を下に向け小さく頷いた。
「ハハ!! そんなもん見ればわかるよ。小学校の頃から焔一筋だろ。中学の頃からあんまし話す機会は減っちまったけどそれでも1日に1回は焔のいるクラスに行ってただろ。あいつは全然気づいてなかったけど」
綾香の顔は更に真っ赤になっていく。
「あと―――」
「もういいから!!……そんなにわかりやすかった?」
「いや……他のやつらは気づいてないと思うぜ。ただ小学校からずっと見てきたからな。綾香も別に積極的じゃなかったけど、焔に注ぐ視線とそれ以外に向ける視線の違いぐらいはわかる」
「ハアー……龍二って意外に周りのことしっかり見てるよね」
「まあな(確かに、焔は顔や外見だけで人を好きになったりはしない。ただ絹子ちゃんのことは知らないけどな)」
2人3脚。グラウンドの白線の内側で行われる。4組ずつ計3回。俺たち2年生は2回目だ。
遠くの方にコーンが置いてあり、コーンまでは普通に走り折り返しの時、2人で同じ麻袋に入ってジャンプしながらゴールを目指す。けっこうハードだ。
そんなこんなで2人3脚が始まった。最初は1年生からだ。練習してきたのだろうか、けっこう皆拮抗していた。だが、やはり麻袋に入って2人同時にジャンプするのは難しいのだろうか、こける組が続出した。
やばいな。ちゃんと練習しといたほうが良かったかな。でも、俺たちのクラスは優勝とかは全然目指してないからこけたとしても責められることはないんだけど……絹子に申し訳ないしな。
そうこうしているうちにもう出番が来た。
絹子が手早く足に紐を結んでくれた。
「そんじゃ、最初はどっちの足で行く?」
「紐でくくってある方の足から」
「了解」
俺と綾香は互いの肩に腕をかけ始まるのを待つ。
「焔君って意外とガッチリしてる」
「そいつはどうも」
「こけそうになったら焔君にしがみつくね」
「おー、ドンとこい」
「うん」
あ、また笑った。
「位置について……よーい……」
パン!!
一斉に4組がスタートした。焔たちも初めてやったにしてはとても息があっていた。だが、逆にそのことで調子を上げてしまった焔が絹子の足が追いつけない速度で走ってしまい絹子がバランスを崩してしまった。
こけると悟った瞬間、焔は絹子の肩に組んでいた手をさらに強くつかみ倒れ込む絹子を勢いよく元の位置に戻した。
絹子はビックリしたような顔で焔の顔を見た。
「もう1回やりたいかも」
「もう勘弁してくれ……ほら行くぞ。スタートと同じ足でな。せーの」
折り返し地点にたどり着いた時、焔が結ばれた紐をほどいてる時に絹子に言った。
「絹子、お前足くじいただろ」
「……何で分かったの?」
「顔がなんか強張ってたし、肩を掴む手がこける前よりも強くなった。けっこう痛いんだろ?」
「……全然」
ハハッ、案外強がりだな。かと言って、麻袋の中でこけられたら流石にかばいきれないからな。
焔は紐をほどくと一足先に麻袋の中に入り膝を屈めた。
「麻袋の中で転んでもらっちゃ困るからな。ほい、おんぶ」
絹子はためらわずすぐ乗った。
「重い?」
「軽い軽い」
そこでアナウンスが聞こえてきた。
「おーっと!? あれは2年1組でしょうか? おんぶしていますね。会長、あれは競技上OKなんでしょうか?」
「副会長よ……OKに決まってるだろ!! こうでなければ体育祭は面白くない!! おい!! そこのカップル!! もし1位になったらお前らの組に80ptくれてやる!!」
「オオー!!」
会場が沸き立つ。
そりゃそうだ。1位で40ptだから2倍ってことになるからな。
「行けー焔!!」
「絶対1位になれよ!!」
俺のクラスからものすごい声援が飛び出す。それと同時に他の組からも
「絶対に抜かされんじゃねーぞ!!」
「大丈夫だ!! 焦らず行けば絶対に抜かされねーから!!」
流石に優勝を目指していないけど、こういうのはテンション上がるよな。
「何かアトラクション乗ってるみたい」
絹子は遠くを見渡しこう言った。そして、焔は麻袋を上まで上げた。
「大変揺れますので、しっかりおつかまりください」
「……わかった」
さて、俺ら以外はもうゴールに向かっている。だけど、そこまで差がついてるわけじゃない。会長からのせっかくの提案だ。俺も体育祭を盛り上げるのに一役買ってやるか。
「そんじゃ、アトラクションの……開始だ!!」
そう言うと、焔はテンポよく前に進んでいき早速1組を抜かす。会場は大いに盛り上がる。
「おーっと!! 早速1組抜かしたー!! 会長どう見ますか?」
「いやいやまだ油断しちゃ行かん!! 前にはまだ2組いるんだ。そう簡単に……」
「……抜かしましたね」
「……オラー!! 後1組じゃ!! ぶち抜かせー!!」
おいおい女の言動じゃねーだろ。とは言ってももう会場はこれまでにないほどの大盛り上がり。
よし。更に盛り上げてやろうじゃねえか。
「絹子、もうちょい加速するぞ」
「うん」
絹子が更に強く焔にしがみつくのを確認すると、焔はさっきよりもテンポを上げた。
「さあ1組、3組並びました!! どっちが最初にゴールテープを通るんでしょう!?」
「頑張れ1組ー!!」
「会長我々はあくまで中立でないと!!」
「……頑張れ1組ー!!」
さあ、もうゴールテープだ。そろそろ……
パン!!
「最初にゴールテープを通ったのは……1組だー!!」
このアナウンスをきっかけに会場はここ一番の盛り上がりを見せた。
「約束通り2年1組には80ptが加算されます!! いやー会長、見事でしたね!! 最後は急に加速しましたねもんね!!」
「フッ、やつめ最後まで余力を残していたな……面白い!! 実に面白かった!!」
「えー……今1位になったのは青蓮寺焔君と神林絹子さんでした!! 皆さん大きな拍手をお願いします!!」
「青蓮寺焔……お前の名しかと胸に刻んだぞ!! ハーハッハッハ!!」
いやいや大げさな会長だな。
「ふー疲れた」
焔は麻袋の中からゆっくりと出る。
「ご乗車ありがとうございました。そろそろ降りてくれるとありがたいんだけど」
「もう1回やりたいかも」
絹子は笑顔で言った。
「ハハ……もう勘弁してくれ」