きみと会うときはいつも、
ざわざわと人が集まる休日の午後、一人の少女が噴水の前で立っていた。
人目をひく、可愛らしい小柄な少女だった。短い黒髪に、好奇心に満ちた薄茶色のアーモンドアイ。ぷっくりとした、桜色の唇。うつむき気味の顔に、長い睫毛が影を落としている。
道行く男性は皆彼女に目をとられている。その可愛らしい唇がゆっくりと開かれ、
「ったくおっせえな、何してんだよあいつう」
周りにいた通行人の時が一瞬止まる。少女から発せられた、がらのよろしくない台詞が信じられなかったのだ。
気のせいだ、きっとそうだ。
通行人達はそう思うことにした。
こんなに可憐な少女から、あんな乱暴な言葉が出てくるはずがない。
そう思っていた時、
「おっせえよ、ダッシュダッシュ!」
と、再び少女の声が通行人達の耳に届いた。
今度は弾むような、嬉しさを隠しきれない声だった。その声につられて、何人かが声の方へと首を巡らせた。
青信号の横断歩道を、背の高い青年が駆けてくる。
「悪い、遅れた!」
サラサラとした黒髪を揺らし、ノンフレームの眼鏡をかけた青年は、まるで雑誌から飛び出して来たような容姿をしていた。
美男美女というのは、この二人のために存在する言葉なのだろうと、その場の誰もが納得したその時、
「きゃあっ」
「うわっ!」
あちらこちらで声が上がる。先ほどまで、雲ひとつなかったのにいきなりどしゃ降りの雨がふってきたのだ。
青年は申し訳なさそうに男性用の傘を広げ、少女を中に入れる。
少女は嬉しそうに笑い、傘の中にはいるなり
「やあい、雨男ー」
と青年の腕をつつく。雨男の自覚があるのか、青年は軽く少女の頭を撫で、肩を並べて歩きだした。
青年は知らない。人前であまりくっつくのを得意としない青年にくっつきたくて、少女が毎日逆さまのてるてる坊主を作っていることを。
少女は満面の笑みで青年と腕を組み、人混みの中へと紛れ込んでいった。