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第二十四話 組織の2人

 どういうことだ。もう50メートル走ってから確実に5分以上たっているはずだろ。なのになんで足の疲れが取れてないんだ!? しかもこの疲れ方、絶対50メートル走った疲れ方じゃないだろ。しかも痛い。ズキズキと足に響いてくる。これが覚醒に伴う代償ってか……ハハッ、まったく使い物になんねー。取り敢えず深呼吸だ。早く鎮めないと龍二に勘づかれる。


 ―――3分後

 さっきよりは大分マシになったが、普通に痛いな。取り敢えず、戻るか。

 俺は立ち上がって、もう一度深呼吸をすると何食わぬ顔でグラウンドに戻った。戻ってくると、また皆にジロジロ見られた。俺は自分に注がれる視線をしり目にアップをしている龍二の所に向かった。

「えらく長かったな。焔」

「いやー、ついでにトイレにも行ってきたからな。それよか何か体に変化でもあった?」

「体が温まってきたぜ」

「そいつは結構なこって」

「じゃー、俺もう出番だから」

「ま、精々頑張れ」

「お!? 王者の余裕ってか? 見てろよ。俺も5秒台になってやるかな!!」

「へいへい」

 そう言うと、龍二は意気揚々とスタート位置に走って行った。俺はその姿を見届けると、近くの木陰に腰を下ろした。ふー、取り敢えず痛みはほぼ引いたし、疲れも残ってるっちゃ残ってるけど気になるほどではなくなったが……これからこいつとどう向き合おうかね……

「よっこいしょ」

 不意に俺の隣に誰かが座った。見ずとも声で分かった。

「もう準備運動はいいのか? 綾香」

「もうバッチシ!! いつでも行けるね!!」

 そんな綾香の姿を見て、不意に思った。

「綾香……お前変わったな」

 急な発言にビックリしたのか、綾香は少し驚いていた。

「な、何よ急に……そんなに変わっちゃった? 私って?」

「ああ、変わったね。性格は明るくなり、誰とでも分け隔てなくしゃべれるようになった。全部良い方向に変わったよ」

「焔は……ちょっと暗くなったよね。昔からあんまり感情を表に出さなかったけど、それでもやっぱり楽しそうだったし、自分に自信を持ってた」

「あの時はあまりにも自分が見ている世界が狭すぎたんだよ。中学に入れば、自分がどれほど下に位置しているのか痛感したよ。それも大きくなればなるほどに……」

「でも、焔は私を助けてくれた。自分のことを弱いとか下だとか言ってるけど、助けてくれた」

「それは……」

 俺は言葉を失った。

「焔は自分のことを過小評価しすぎなんだよ。だから、焔は自分のことをもっと褒めていいと思うの。もっと自信を持っていいと思うの」

「そうかなー……」

「そうだよ!! 焔が自分のことを誉めないなら、私が代わりに褒める。褒め続けるから!! そして何度でも言うよ。あの時、あの瞬間、私をレッドアイから助けてくれたのは、青蓮寺焔だって!! あの背が低くて、気弱そうな青蓮寺焔だって!!」

「おいおい……最後余計だろ」

 綾香はおもむろに立ち上がる。

「とにかく、焔は自分にもっと自信を持ってよね。そうじゃないと幼馴染である私の顔が立たないんだから」

 本当、言うようになったね。こいつは。

「へいへい、努力します」

「ま、そういうところも良いんだけどね」

「え? 何か言った?」

「ッ!……何でもない!!」

 え、何? 女子って怖え。

 少し怒り気味で立ち去ろうとする綾香だったが、立ち止まったかと思うと、ドタドタと俺の方にまた近づいてきて、俺の顔に顔を近づける。

「ただ、あんたは……私にとって、今も昔もヒーローなんだから……そんだけ!!」

「あ、はい」

 そう言い残すと、スタスタと走って行った。すれ違うように、龍二が帰ってきた。

「焔よ。聞いて驚け……なんと、8秒42でしたー!! ハハハッ、タイム落ちちゃった。ハハハッ……って、どうした?」

「いや、別に……」

「あ、そう」


 ―――「じゃーな、焔」

「おー、バイバーイ」

 俺たちはそれぞれ帰路に着いた。俺は自転車を走らせながら、今日の体育の時間に綾香に言われたことを思い出していた。

 今も昔もヒーロー……ね。昔は確かにヒーロー的存在だったことは認めるけど、今もか……ヒーローって何なんだろ? 俺が思い描くヒーローは、どんな困難にも諦めず、立ち向かい、絶対に困っている人を見捨てず、最後には悪に勝つ。そんなヒーローに俺はなれたんだろうか。

 あの時、一瞬でも俺はヒーローに……

 そんなことを考えていると、前方に2つの影が立っていた。まったく見慣れない人たちだった。一人がこちらに向かって手を振っている。あたりを確認するが、俺しかいなかった。一応、自分に指をさし、俺か確認した。すると、笑顔で二度うなずいた。まったく知らない人だったが、そのまま通り過ぎるのもあれなんで、一応自転車を止まらせた。うん。近くで見てもまったく見覚えがないな。

「あのー……どちら様ですか?」

 丁寧に尋ねた。すると、猫目の男の方が口を開いた。

「えー、酷いなー。一応命の恩人なんだけどなー。本当に覚えてない?」

「悪いんですけど、まったく身に覚えがないですね」

 この人たち、やばい人たちかも。ここは早急に立ち去ったほうが……

「じゃー、ヒントあげるよ!!」

「いや、ちょっと急いでるもんで……」

 そう言って、帰ろうとしたが、次の男の言葉を聞いて俺は足を止めた。

「君がレッドアイに最後の一撃を与えられたのは一体なんででしょう?」

 え? 何でって……窓が割れて、そして隙ができたから……もしかして……!!

 俺は猫目の男の方に向き返り、興奮気味に答える。

「あ、あんたらもしかして!! あの時、向かいの棟にいた人たち……!!」

 猫目の男は不敵な笑みを浮かべた。

「大正解!! いやー、あの状況でも俺たちのことを把握してたなんて、流石だなー。うん、お兄さん感心感心」

 大騒ぎする男をしり目に、筋肉質の男はその様子を見て呆れていた。俺にはまだまだ疑問がたくさんあった。どうしてあそこにいたのか? どうやって窓を割ったのか? でも、まず最初の疑問を聞いた。

「あ、あなたたちは一体何者なんですか?」

 その言葉を聞くと、猫目の男は急に改まって、まじめな口調で話し始めた。

「俺たちは、地球外生物対策本部という組織の者だ。単刀直入に言わせてもらうが、青蓮寺焔君、君には俺たちの組織にぜひ入ってもらいたい」

「は?」

 俺はすぐにはこの人が何を言っているのかわからなかった。

 後に、このことをきっかけに俺の人生は一変する。

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