秘密5
揚羽が弾正のくノ一だったと順慶に報告した。順慶は今信長と交渉中だがあまりいい結果が得れてないようだ。秀吉が間に入って弾正を大和の支配者として押しているようだ。それで順慶は岐阜に出かけている。狗は窓口の家老から柘植の動きを調べるように内命を受けた。
それですでに潜ませていた年寄りを通じてくノ一を送った。だがこのくノ一を弾正の城に潜ませたと狗の片腕である猿に打ち明けた。猿は狗を婆が小屋から拾ってきたときに側についていた。彼は狗の10歳上で将来お婆の跡を継ぐと思われていた。だがお婆は途中で倒れ獅子が跡を継いだ。とくに係わりがあるように思えない。彼の仕事は勘定方のようなものだ。
話してから半月して夜に鼠が密やかに狗の寝ている床から顔を出した。
「狐からの伝言です」
鼠はここでは死んだことになっている。今は年寄りの娘として狐の足になっている。
「やはりくノ一を送ると言う話が弾正の忍者に伝わったようです」
やはり猿が?猿の部下を調べて見たが怪しい動きをしている者がいなかった。獅子と猿がとくにつるんでいたこともない。猿は元々捨て子だ。獅子は抜け忍だ。どうしても関係があったとは思えない。
「これは狐の話ですが、弾正の忍者の周りには相当の捨て子がいるようです。元々弾正自身が身元が不明だと言うのです」
狗は猿の調査を思い出した。狗を赤子で婆が拾った時猿はすでに10歳は超えていた。婆の話では猿は捨て子だったがすでにここに来た時7歳だったと言っていた。森を迷っていて見つけたと言う。送られてきたのか?それで密かに獅子の監視をしていたのか?
「揚羽が城をたったようです。下忍を3人連れて柘植に入りました」
「やはり柘植か?」
「今回は若侍の格好でした」
「鼠はしばらく洞窟に入って猿を見張ってくれ。とくに繋ぎがないかを」
狗は朝に猿を呼ぶと筒井に出かけると言って路銀を用意させた。今回は狗は誰も連れずに尾根道を走り筒井ではなく柘植に入った。柘植にはすでにくノ一を旅籠に入れている。商人姿で夜に旅籠に入って寝ているとくノ一が姿を現した。
「柘植の屋敷に3日前から若侍が3人の侍を連れて入っています。主客として柘植の頭領の母屋に泊まっています。部屋には近づけませんが夜のうちに屋敷を出て行くようです」
くノ一は地図を広げて彼らが走った方向の道を指す。狗は頭の中で前回の会合に来た北伊賀の豪族を思い浮かべた。その一人筒井に接している豪族のところに行ったと思われる。筒井はここを失うと攻め込まれる危険が出る。だがここは親筒井派と聞いている。