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第二十二話 一件落着

 目を覚ましたのは翌朝6時過ぎだった。そこから朝ごはんを食べて、テレビでニュースを見た。俺はいつも見ている番組にチャンネルを変えた。ちょうどレッドアイのニュースをしていた。どうやら目を覚ましたらしくレッドアイの素性が明らかになったらしい。名前は武田哲人(たけだてつと)、35歳で元は軍人だったが、1年ほど前に辞めて今は無職。肝心の動機に関しては、俺が昨日刑事さんたちに言ったことがほとんどそのまま言われていた。

 良かった。刑事さんたちは俺との約束を果たしてくれるだろう。この事件が解決すれば、きっとレッドアイも……だけど、もう一人の方は……。そんなことを考えながら、ボーっとテレビを見ていると次の話題がレッドアイを倒した男子高校生の話に変わった。

 どこから知られたかわからないけど、俺が3日ぶりに目覚めたことが報道されていた。報道内容には俺のクラスに対して取材をしていたものもあった。大抵のやつらは俺の豹変ぶりに驚いていたり、俺がレッドアイを倒すなんてありえないと思ったというようなコメントをしていた。

 そりゃそうだ。俺だって実際こんなことになるんて思ってなかったからな。気持ちでは勝つつもりだったけど……だが、そんなコメントの中2人だけは全く違うコメントをしていた。

 焔がレッドアイに負けるはずがない。昔からピンチの時は必ず助けてくれる……か。照れるな、これは。

 コンコン

 俺はとっさにリモコンを持ちテレビの電源を切った。

「どうぞー」

 お母さんだった。

「あら焔、もう体調は大丈夫なの?」

「まだ体は痛いけど、いたって正常」

「良かったわね。ところで、病院の前でマスコミの人たちがいっぱいいるわよ。あんたも有名になったもんね」

「そりゃどうも」

「そんなことはさておいて、さっさと帰る用意するわよ」

 えらくさっぱりしてんな。まあ、こういう人だから仕方ないけど。息子には調子乗ったやつにはなってほしくない……だっけか。だからか昔から褒められるのはその日きりだったな。

 俺はお母さんが持ってきた服に着替え、身支度を整え、お世話になった医師や看護師さんに礼をし、エントランスに向かった。入り口はガラス張りになっていて、遠くからでもたくさんのマスコミの人がいるのがわかった。

「あんたはそこで座って待ってて。車近くに止めるから、すぐに乗りなさいよ」

「はーい」

 そう言って俺は腰を下ろした……が、言葉とは裏腹に俺は考えを巡らせていた。

 さっきカメラ持ってた人もいたよな……でもあんまり長いこといるとお母さんに何言われるかわかんないしな……よし!!……短く簡潔に行くか。見るかもわかんないし、届くかもわかんないけど……

 チラッと白い軽自動車が見えた。そろそろ行くか。自動ドアを抜けると、マスコミの人たちがチラッと俺の方を見たかと思うと、単発で自分の欲しかったキャラが出た時みたいな表情とものすごい勢いで俺の方に駆け寄ってきた。そのあとはえらい質問攻めにあった。一気に十数人が喋るから全然聞き取れなかったが、だいたい聞きたいことはわかっていた。だが、そんな質問に答える気は毛頭なかった。

「ストーーーーーーップ!!」

 突然のことで驚いたのか、その場は一気に静まり返った。俺は適当に近くでカメラを持っている人を見つけ、そのカメラに向き返った。カメラを持っている人も慌ててカメラをのぞき込み、俺に標準を合わせた。一回大きく息を吐き、そして吸い込んだ。

「あんたはそれでいいの? いつまでもいじけて、現実から逃げて……ダメだよな……だったらもう一度立ち上がるんだ!! 大丈夫。あんたには味方がいるから。例え、周りがあんたを信じなくとも、あんたが周りを信じなくとも、たった一人であんたのそばにいて、支え、あんたのことを信じていた人が……じゃ、頑張れ」

 言い終わると、俺は一目散に車の後部座席に乗り込んだ。乗り込んだ瞬間、お母さんはすぐに車を走らせた。

 あー……言い終わった後、急に恥ずかしくなって、『頑張れ』とか言っちゃったわ。改めて我に返って振り返ってみると……中々恥ずかしいこと言ってたな。

「焔」

 おっと……この低くて、ドスのきいた声は……恐る恐るバックミラーを覗くと、お母さんが俺を睨みつけていた。

「あんた……調子乗った?」

「……少し」

 今日の運転は荒かった。


 ―――あれから一週間がたった。お母さんの言いつけで取材全てを断り、警察からの感謝状も直接家まで持ってきてもらった。そして、俺がカメラに言い放った言葉はテレビやSNS上で話題になっていたが、すぐにその話題はレッドアイの事件への動機の方に持ってかれた。

 無事一年前のレッドアイの娘の事件は解決した。娘さんが助けたいじめられっ子が最初に白状し、そこから犯行グループ以外の子が全員本当のことを言ってくれたそうだ。傷の大きさや、娘さんの言い分から犯行グループは全員退学、そして少年院送りになった。

 その他は停学処分だけとなった。本当は全員退学になってもおかしくはないと思うけど、娘さんたっての希望らしいから、文句は言えないだろう。それから娘さんはどうしているのか俺にはわからない。

 一方俺はというと、学校中で話題になった。後輩から先輩まで今まで話したこともない人が絡んできて、もうめんどくさかった……悪い気はしなかったけど。

 流石に一週間たったから、だいぶ収まったが、明らかにみんな俺を見る目が変わった。男子からは嫉妬と憧れのまなざしで、女子からは何かイケメンを見るようなまなざしで見られて、気が休まらなかった。そんな中、龍二といると気が休まるから不思議だ。あいつだけはいつも通りに接してくれるからだろうか。綾香とも話す機会が増えた。昔のように3人で話す時間が増え、俺の笑う時間もいつもより少し増えた。

 俺はいつものように朝のニュースを見ていた。一週間たってようやく筋肉痛も治ったから、今日は少し気分がよかった。そろそろ家を出ようかとリュックを背負い、立ち上がった時携帯から通知音がなった。ポケットから取り出し、見てみると俺のSNSのアカウントにメッセージが届いていた。そこには、短い文章と一枚の写真が送られていた。


ありがとう。お父さんを止めてくれて。もう一度、立ち上がろうと思います。
                       
                             親バカの娘より

 
 送られてきた写真は集合写真だった。20人ぐらいの女子がカメラに向かって、ピースポーズをとっていたが、涙を流している子、目が赤い子、涙痕が残っている子がいる中で、顔に傷跡がある少女だけは、カメラに向かい飛び切りの笑顔を向けていた。


―――「刑事さん、1つだけレッドアイへの言伝頼まれてくれないですか?」

「ああ……で、何を伝えればいいのかな?」

「娘のこと大好きなのはいいけど、親バカもたいがいにしとけ……ってね」

「フッ……了解だ(そうか。君は、レッドアイの心すらも救おうと……)」


―――俺はしばらく携帯の画面を見た後、携帯をポケットにしまった。

「行ってきまーす!!」

「えっ……あー行ってらっしゃい!!……」

(えらく今日は元気がいいのね、焔。何か良いことでもあったのかしら)

 今日、いつもより早く学校に着いた。

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