27.口利き
密入国のバレたシエロは冷や汗を浮かべた。
見つからない自信もあったし上手くいった確信もあった。
それなのに見つかってしまったのだから、今後の事態を想定してしまうのは仕方のないことだろう。
「お前ここの生徒や無いな? ワシは生徒全員の顔を覚えとるがお前みたいなやつは知らん。ちぃとこっち来いや」
グイッと腕を引っ張る水谷に、シエロは小さな悲鳴を上げた。
そのままどこかへ連れて行こうとする水谷に、怜央は待ったをかける。
「水谷先生! すみません、その子は自分の連れなんです」
シエロばかりに意識が向けられてた水谷は怜央の存在にこの時気付いた。
「おお、坊ちゃんやないですか。なんですか、この娘さんとは一体どういう関係で?」
「えーと、話せば長くなります……」
その後水谷は事情を聞くために、3人を別室へと案内した。
◆◇◆
「異世界から女引っ掛けてくるとは流石坊ちゃんですなぁ」
水谷は豪快に笑っていた。
その様子に緊張感の薄らいだ怜央は訂正した。
「いやだから、ギルドに勧誘しただけですって。――まだ作ってはないですけど」
「いやはや、どっからどう見ても
不安から、ということもあったかはわからないが、シエロはいつもより少しだけ強く怜央の腕に絡みついていた。
その様子を見た水谷がそう思うのも無理はない。
「まあ、本来異世界から許可なく人を連れてくるんは禁止されてることですが、何事にも抜け穴というものはあります。これくらいのことでしたらワシがどうにかこうにかしたりましょう」
その言葉にシエロと怜央は顔を見合わせて思わず笑みを零した。
「「ありがとうございます!」」
「ええんですよ。今回は何者でもない坊ちゃんの頼みですからね――ちょっと吸ってもよろしいですか?」
水谷は懐からタバコを取り出した。
怜央は昔からタバコの匂いというのが好きではなかったのだが、今回ばかりは水谷の世話になっているためノーとは言えなかった。
「ええ、どうぞ」
「坊ちゃんも1本どうです?」
そう言ってタバコを差し出すも、怜央は手を振って断った。
「まだ未成年ですから。気持ちだけ貰っておきます」
「おお、そうでしたな。ですが未成年だから吸えんってのは
「んー……」
怜央はすぐさま断るのも失礼だとわざと考える振りをしたが、心の中では答えは決まっていた。
しかしそれを言う前にテミスが物申した。
「ちょっとオッサン。それ臭いやつでしょ?髪に臭い着くからやめてくれないかしら?」
テミスは歯に衣着せぬ物言いで、この状況においても一切遠慮しない。
一瞬ピリッとした雰囲気が漂うも、水谷は大人だ。
タバコを嫌う人を前にむざむざ吸うこともなかった。
「……まっ、ええでしょう。ワシもわざわざ嫌がる人の前で吸うこともないわ。んで、話は戻りますがやはり――ギルドを作ってない現時点では、そちらのシエロはんをギルドメンバーとして登録することもできません。そうなると必然、この世界には居られんのですが……ワシの知り合いがある会社を経営してましてね。そこは学園とも提携している人材派遣の会社『サルヴェイション』ちゅうところです。坊ちゃんの部屋にもお手伝いさんが居るでしょう? それらを派遣してるところです。色々あるんですがまあ、そこで働く人っちゅうんが異世界から連れてきた人なんですわ。なもんでシエロはんをそこで働かせればこちらに居させることができるっちゅう訳です」
「なるほど。しかしそうなるとシエロとは一緒に依頼とかは受けれないんですかね?」
「そこは心配せんでください。ワシの方から話を通して坊ちゃんの部屋で働くようさせときますんで。お手伝いさんらは業務の一環として依頼に同行させることもできますから」
「ただそうなると問題はお金ですよね。1月幾らぐらいかかるんでしょうか」
「なーに、そんなこと。夏目学長には日頃お世話になってましたからそれくらい任せといてください」
「いや、流石にそこまでしてもらうのは悪いですよ」
「ええんですええんです。ここで雇ってもらってから暫く経ちますが、大分金銭的にも余裕がありますから。変な事に使うより余っ程いい使い道ですわ」
怜央は眉を寄せて流石に申し訳ないという念に駆られていたが、水谷は念押しをして気にするなということを伝えてきた。
「そんなに気になるんでしたら出世払いということでも構いませんから。とりあえず今はワシに任せといてください」
「……わかりました。今はお言葉に甘えますが、近いうちに必ず返します」
水谷は頷いて、席を立った。
「それじゃシエロはんをちょっと預かります。手続き済ませたら部屋に戻らせますさかい、後のことはワシに任せといて下さい」
怜央はシエロにアイコンタクトを送ると、シエロは名残惜しそうに腕を解き、水谷の方へと行った。
「また何かあったらワシに言うて下さいよ」
「ええ、ありがとうございます。お願いします」
怜央は一礼して、水谷とシエロを見送った。