24.逆夜這い
夕食から数時間、怜央は月明かりの入り込む障子ばりの寝室で寝かされていた。
不意に起きたのは腰にかかる重みが原因。
それによって覚醒した怜央は、頭痛を堪えて薄く開けた目で下を見遣る。
暗い部屋の中、見えたものは一つだけ。
それは、月明かりによって白く照らされる優美なシエロ。
それも予想だにしない馬乗りという姿勢で怜央を見つめていたのだ。
意識が朦朧とする中で、呻きとも呼びかけとも取れる声を出す怜央。
「シ……ェロ……?」
怜央とは対照的に、意識もハッキリしているはずのシエロからは返事がない。
それどころかシエロは服の裾に手を掛けて、唐突に脱ぎ始めた。
一糸纏わぬ姿になると、両手で怜央のお腹へと触れた。
この時既に怜央はパンツ一丁に剥かれていたため、感触は直に伝わった。
シエロの毛並は触り心地もよく暖かい。
それはお腹を通じてじわりじわりと怜央も感じていた。
シエロはゆっくりと焦らすように、徐々に徐々にと触れる手を上に滑らしていく。
そして怜央の頬を撫でるとそのままの流れで首の後ろへと手を回す。
そうなると必然、怜央とシエロの顔は近づく。
それはお互いの吐息が認識できるほどに近く、朦朧とする意識の中でもシエロの顔がはっきりと見えた。
「夏目様……」
そう囁くシエロは昼に見た時よりも艶めかしく、色気があった。
お淑やかで上品な雰囲気から一転、1匹の発情した獣のようだ。
どうしようもない欲望をすんでのところで理性が引き留めている。
あと少しで気の赴くまま乱れてしまうのではないか。
そう心配せざるを得ないような顔をしている。
また、怜央は視覚だけでなく嗅覚や触覚からも刺激を受けていた。
抱きつかれ密着している部分は熱が籠り、やけに生暖かい。
直に肌で触れ合っているという事実が怜央の胸を高鳴らせる。
それに甘い香り。
暗殺業をしているという彼女は人一倍匂いを消すはずだ。
それなのに香水をつけている。
それは今、この時のために。
なんと健気なことか。
それら条件が揃い、たたでさえ纏まらない思考がより一層乱される怜央。
しかしシエロは待たない。
待つわけがない。
ここまで来たのに今更引き返すことなど考えられるはずもなく、あるのは前進のみ。
シエロはゆっくりと唇を重ねた。
超えない一線だと油断していたためか、怜央は目を見開き一気に目覚める。
シエロの柔らかな唇に困惑しているとシエロは舌も絡めてくる。
怜央にとっては初めての経験。
思考が乱されもう何が何だかわからdないという怜央は両手の行きどころに戸惑う。
突き放すべきかそれとも……。
シエロの舌技に思考を
だが、怜央の身体は意志とは無関係に、ある反応を起こしかけた。
それを感じ取った怜央は寝返りを打つようにして、シエロとの位置関係を反転させた。
傍から見れば、女性を押し倒し今にも行為に及ぼうとしている風だ。
怜央は浅い呼吸を繰り返しながらシエロの瞳を見つめた。
「シエロ……。ごめん」
それをどう受け取ったのか、シエロはうっすらと微笑む。
「夏目様……。優しく、してくださいね?」
そう言って何かを待ちわびるように、穏やかな表情をして目を瞑るシエロ。
怜央は彼女が何を期待しているのか、十分理解していた。
だが、先程謝ったのはそういう意味ではなかった。
怜央は後ろに回されたシエロの細腕を解くと不意に立ち上がる。
ふらふらとした足取りで月明かりが照らす縁側へと行くとそこで跪いた。
そして盛大に、勢いよく――吐いた。
「お゛ぇぇぇ゛ぇえぇぇ……」