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生い立ち4

 毎朝狗は洞窟の上のお婆の墓に野の花を供える。赤子の狐は10歳になり狗の後を付いて回る。狐は狗を本当の兄と思っている。狗は15歳になり長になった獅子の次に強い剣士になっている。獅子の指導で伊賀の忍者と同じ訓練をするようになった。それで抜け忍も積極的に受け入れている。
「よし、今夜から出発だ。今回は狗も入れ」
 1年のうち5回ほど獅子はどこからか仕事を受けてくる。夜のうちに選ばれた5人が獅子とともに尾根道を走る。選ばれた下忍は仕事の内容を漏らすことが許されていない。過去に5人の下忍が死んでいる。翌朝農夫に化けて大和の街道を歩いている。ここには地元の豪族の屋敷がある。
 繋ぎの女が現れて狗達は居酒屋の2階に通される。この女は1年前まで洞窟にいた仲間だ。抜け忍の一人で25歳ほどでくノ一として狐とともにいた。部屋に入ると豪族の屋敷の見取り図がくノ一から示される。どうもこの屋敷に潜り込んでいたようだ。1刻獅子から役割の説明がされる。どうも豪族の頭領を暗殺するようだ。隣の部屋に誰かが来たようで獅子が打ち合わせから抜ける。
「誰だ?」
 狗は若いが腕を見込まれている。
「雇い主の頭よ。どうも長の兄貴分に当たる伊賀の忍者のようだわ。服部から抜け出したと聞いている。私は長とこの頭の連絡係もしている。狐は元気にしている?」
「くノ一の訓練を始めた」
「私はこの頭に抱かれているわ。狐も私と同じ仕事をすることになるわ」
 獅子はお婆がなくなって長になったが実は洞窟の古株からは評判がよくないのだ。確かに食糧事情はよくなったがあまりにも死人が出過ぎる。それと仕事の依頼先がよく分からない。どれほどの金が流れているのかもわからない。だがお婆がいない今獅子にものを言うはいない。
 だが狗は獅子を剣の師匠として尊敬している。
 獅子が戻ってくると狗達はもう黒装束に着替えて裏木戸から暗闇の中を走る。豪族の屋敷の勝手口が開いている。くノ一がすでに戻って段取りをしている。

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