最後の戦い
――999/35
「知っているかい?」
デュランは刻印を見せたままヒカルに話しかけた。
「とある方法で女神の命を捧げると、刻印の拡張ができるのだよ」
「なっ」
「うむ。良い反応だなあ。けれども、どうやら数字が999より上がらないようでねえ~。どう頑張ってもこれ以上は増えんのだよ」
――ガシャ――ンッ
デュランが喋っている途中で亡霊騎士ファントマがヒカルに攻撃をしかけてきた。
「ファントマ! 待ち給えよ! これだから
デュランは片手で亡霊騎士ファントマを掴むと、押さえつけ、そのまま地面にめり込ませてしまった。ファントマは溶けるように土に還っていった。
「うむ。見苦しいところをお見せした。そこでひとつ相談があるのだがね」
「相談?」
「そうだ」
デュランは亡霊騎士の残骸から拾い上げた剣を振りながら笑った。
「君にはさ、どうあがいても勝ちスジがないことは理解できただろう?」
「そ、それは……分からんだろうが!」
ヒカルは駆け出すと、両手で持った
「ふんっ」
しかしデュランはその斬撃を軽く避けると、飛び上がって剣の上につま先で立った。
「こんな剣で僕を倒せるとでも本気で思っているのかい?」
そして剣の上を歩いてヒカルの目の前までやってきた。ヒカルはその重みで剣を引くことも払うこともできない。
「そこの女神、君はどうだい? どう思うんだい?」
ヒカルの後方にいるディアーナに向かってデュランは笑って見せた。
「ヒ、ヒカル……無理よ。強すぎる」
「うーん……そうだねえ。女神の割には賢いじゃないか。で、提案ってわけさ」
「な、なんだって言うんだよ。その提案とやらは」
「ふむ。なに君にとって大したことじゃあないさ。そこの女神を僕に渡せば、君を助けてあげるよ」
「な! んなことできるかよ!」
「ほほう……」
――グサッ
「かはっ」
デュランは表情を1ミリも変えることなく、ヒカルの心臓を突き刺した。
――1/30
「さて……どうする? 後がないんじゃないのかな?」
「わ、分かったわよ……」
ディアーナがデュランの方に向かって歩きだしたとき
――はぁ はぁ はぁ
「やめろディアーナ」
ヒカルが立ち上がり、下がれ、という合図をした。
「コイツはどうやら女神を恨んでるようだ。行ったら殺されるだけだぜ」
「そ、それでもよ。どっちにしたって。アンタが殺されたって私も死ぬ。だったら、アンタだけでも生き残ったほうが良いじゃない」
「ふん……ウソだろ。女神が死ぬわけねーだろ。そんなことでいちいちさ」
「ふ、ふははははは~」
それまで無表情だったデュランが突然笑い出した。
「なるほどなるほど。君は賢いなあ。そうだよ。女神はダンジョンマスターが死んだからと言って死にはしない。天に還るだけだ。だからさあ~僕にとっては君を殺してもなにも良いことがないんだよ。逆にだ、ダンジョンマスター自身が死んだら……どうなると思う? 地獄にさえ行けないんだぜ? 天国でも地獄でもない空間を永遠に
「ディ、ディアーアナをどーするつもりなんだ?」
「なーに優しくするさ。生かさず、殺さずね。死んでしまえば天に戻ってしまうからね」
「そ、そんなことさせるかよ!」
ヒカルはまた
「ふんっ、馬鹿なヤツだ。そんな判断もできないのか」
――
デュランが叫ぶと、ヒカルの体は固まり、ピクリとも動かせなくなった。
「ン、ンググググゥ……」
「僕としてはだね。君も生かさず、殺さずにしておくこともできるんだ。けどさ~君みたいなのを飼うのも面倒だから逃してやろうと言ったのに……仕方がない。生きる石にしてやろう。そうすれば……クックック……永遠に死なないよ? いや、死ねない……かな?」
「やめなさい! わ、私が一緒に行けば良いんでしょう?」
「ふむ。僕はそれで構わないよ」
「じゃ、じゃあ……」
ディアーナは一度下を見たあと、まっすぐにヒカルを見つめた。
「じゃあ行くわよ」
デュランの方に振り返ったディアーナの瞳から涙がこぼれた。