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生い立ち2

 洞窟には12人が住んでいた。お婆が長老だ。話からすると70歳を超えたところでこの時代ではまさに化け猫だ。言葉はこの山に時々来る修験者に教えてもらってようだが、村人とは話できるものではない。唸り声に近い。あの赤子は山の中を走れるようになっている。お婆は狗と呼んでいる。鴉、蛇、狼と動物の名前ばかりだ。狗は一番下で今年で3歳、その次は15歳の鴉がいる。
「狗来い!」
 お婆が獣道をかけていく。お婆は狗を連れて森の中を走り回る。これが日常だ。スピードが上がってくるとお婆も狗も四足になる。これはここでは不思議なことではない。森は深い。獣道も至る所で分かれている。だが間違うことはない。
「ここで生まれた」
 お婆が低く唸る。話に聞いていた地蔵小屋だ。誰かが新しい板を壁に張っている。お婆はそっと小屋の下に潜る。狗はピッタリと引っ付いている。中に人の気配がする。床の隙間から覗いている。
「よく見ろや」
 小屋の中には若い女がまたを拡げて唸っている。真正面に女のものが見えている。すると血に濡れた頭が現れる。もうすっかり日が暮れている。女は立ち上がると布に赤子を包むともう走りだしている。お婆は小屋に入ると赤子を抱える。布の間からお守りが落ちる。狗がそれを受け取る。
「女か男かや?」
 狗と違って割れ目がある。お婆は洞窟ではすべて男の扱いだ。女が化粧することもない。だが子を産むときだけは男と女の役割が与えられる。今の洞窟にはここの女が産んだ子が1人いる。後は死産だった。
「この子はお前が面倒見れ」
 この日から狗はこの子を連れて回ることになる。お婆は自分の付けられた狐を付けた。狗は一日中を走り回ってキノコを採ったり薪を集めたりする。最近は鴉に狩りを教えられている。5歳からは中年の獅子から剣を教わる。獅子は25年前に夫婦で逃げてきた抜け忍だ。妻は途中で殺されている。崖から落ちていた獅子を見つけたのはお婆だ。
「狗の剣は見所がある」
 獅子はみんなとは別に狗に自分の剣を教え込もうとしている。獅子は死ぬまで洞窟で一生を終えるのには反対している。それで時々伊賀の村に出かけている。剣やその他の武器を手に入れて帰ってくる。

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