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今回の珍客もアホ!【2】



「なっ! だ、騙されているだと! 俺が!?」
「あったり前でしょうが!」
「っ!」

 なんか『ブチィ!』とか聞こえた気がするけど気のせいかな?
 ……気のせいであってほしいなぁ。
 スカートで見えないがドッスンドッスンとガニ股で歩いてきているのはなんとなく……察した。
 そのご令嬢らしからぬ動き。
 なんか見てはいけないものを見た気持ちになる形相。
 いや、怖……なにあれ怖……。

「なんで! わたくしがあんな頭お花畑娘のために! そこまでの労力を使わなくてはいけませんの!」

 おお、令嬢モード切れ気味バージョン。
 これは怖い。
 尻もちつきっぱなしのカーズも顔がポカンとなってる。
 俺なら怯えて土下座しちゃうな〜。

「なにがどうしてそんな話になるのか! 毒殺するなら先月『緑竜セルジジオス』に遊学に遅刻して来た時にやっていますわ! あーんなアホ王子と頭お花畑娘を暗殺するのなんかたやすかったですから! でもそんな事しませんわよ! わたくしになーーーんの利もありませんし、一銭にもならないのですから!」

 ……一銭になるならやったみたいな言い方しちゃダメです、ラナさん……。

「なにより、あんなダブルでアホなバカップルにはもう二度と関わりたくありませんわ! せっかく悠々自適な平民生活をしていたのに、台なしになってしまいます。それでなくともこうして森に迷子を探しに来ただけで貴方のような野蛮で馬鹿な男に襲われて……! 案の定スターレットに騙されてこんな事をしたのですわね」
「だろうねー」
「くっ、なにを根拠に! 証拠はあるのか!」
「「…………」」

 頭痛。
 ラナも顔が令嬢としてアウトなレベルで歪んでしまっている。
 とはいえ、冷静に対処しなければ売り言葉に買い言葉でアホには伝わらなくなってしまう。
 お怒りごもっともだが、ここは冷静に詰める方がいいだろう。

「ラナ、とりあえず俺に任せてくれる?」
「チッ! いいですわ。わたくしだと怒りに任せて話になりませんもの」

 そこは冷静に分かってくれるのか。
 …………。
 え? もしかして四大公爵家で一番まともなのラナなんじゃないの?
 アレファルドとラナの婚約は、四大公爵家の中でアレファルドと歳が同じだったのがラナだけだったから、陛下が仲を取り持って決まったと聞いていたけど……。
 兄貴たちがこうも馬鹿では、他の公爵家の妹たちではダメだった理由が……い、いや、やめよう、今考えても仕方ないし。

「さて、じゃあお前の言う根拠ね」
「そ、そうだ! その女がリファナを狙っていないという根拠を、出せるものなら出してやがれ!」
「根拠はお前の言う『ラナがリファナ嬢を狙っているという情報に根拠がない』事。あと『その情報提供者がスターレット』ってとこ。信憑性ゼロすぎて笑える」
「——なっ!」
「一応聞くけどその情報、自分の部下にも調べさせて証拠を掴んだりしてる? 情報の裏づけもせずに勢いだけで来てないよね? 当たり前だよね? だってここ『青竜アルセジオス』じゃないよ? 『緑竜セルジジオス』だよ? 侵略行為は国家間条約で禁止されてるのはさすがに知ってるでしょう? 俺もラナも……いや、エラーナ嬢も先月『緑竜セルジジオス』の国民として認められている。そんなエラーナ嬢を害したらどうなるか、アホのカーズにも分かるよね? 分からない? 嘘でしょ、仕方ないなぁ、教えてあげようか? 他国民をなんの証拠もなく殺害したら国際問題になるんだよ」
「…………、……ウッ」

 とりあえずまくし立てるように言ってみた。
 一気に顔色が悪くなるカーズ。
 もう大丈夫そうなので、目を閉じて『竜爪』をしまう。
 まあ、さすがにナイフは取り出せるようにしておくけど。

「ついでに言うと、俺は陛下に頼まれてエラーナ嬢の護衛をやってる」
「!? はっ!?」
「アレファルドと宰相様の仲をこれ以上敵対させるのを避ける目的が一番大きい。陛下としてはアレファルドがまだ若いから、支えは多い方がいいと思ってるんだ。それなのにアレファルドはエラーナ嬢をろくに取り調べもせず国外追放してしまうし、更にお前がエラーナ嬢を殺害なんてしたらそれこそ宰相様は『青竜アルセジオス』を見限るだろう。アレファルドを支えるのが経験不足しまくりのお前たちでは、国を任せるのが不安すぎて泣けるって話ね」

 もちろんガチで悲しみの方の涙である。
 いや不安かな?
 ……陛下、胃痛大丈夫かな。

「それと、スターレットの情報の信憑性がゼロってところの理由も教えてあげよう。あいつは陛下肝いりで作られた『ダガンの村』が『竜の遠吠え』で崩壊の事を『異常なし』と報告した」
「!?」
「その様子じゃマジで知らなかったんだな? でも俺のところにダージスが『ダガンの村』の生き残りを三十人以上連れて逃げてきたよ。今は近くで保護してる。彼らが証言すればその報告が嘘だと分かるだろう。そんで、お前が言ってた『村の人を操って連れて来た』っていうのも嘘だと分かる」
「……、な、なんでそんな嘘をスターレットが吐く必要が——」
「え? 嘘でしょう?」

 と、俺よりも早く聞き返したのはラナである。
 その表情は驚愕。
 隣のファーラは小難しい話にラナと俺を交互に見比べている。
 あ、というか……そろそろ日も暮れてくるしファーラを早く家の中に入れないと。
 夕飯の準備もあるし、おじ様たちどうしただろう?
 おじ様たちもご飯食べてくなら用意しなきゃ。
 おう、カーズなんかに構ってる場合じゃなかったな。

「ラナ、夕飯の準備もあるし先に帰っていいよ」
「こ、このタイミングでそれを言うの? 貴方本当に変わってるわね?」
「え?」

 なぜ?
 だってこいつの相手なんかしてる必要ないじゃん?
 それで夕飯食いっぱぐれる方が嫌じゃない?

「だってご飯……」
「うっ……わ、分かったわよ、仕方ないわね……なにか食べたいものある?」
「えー、スクランブルエッグ?」
「スクランブルエッグ好きね? いいわよ。じゃあ先に帰って作ってるから……えーと、その、は、早く帰ってきてね……」

 ……早く……帰って……。
 お、おおぉ……?
『竜の爪』を使ったら怖がられて嫌われると思ってた。
 ちゃんと近くまで歩いてきて、目は、合わせてくれなかったけど、どこか照れ気味で可愛い……。
 俺の事が怖くないのかな。
『竜の爪』の事は知ってたみたいだし……それでも実際見たら怖がると思ってた。
 あ、ヤバイ……。

 ——好きだ。

「ん、うん。ルーシィ、二人をお願い」
「ヒィン!」

 二人をルーシィに頼んで、見送る。
 ラナははにかむような笑顔で手を振って、ファーラをルーシィに乗せると自分は歩いて自宅へ戻っていく。
 子どもを優先させるなんて、やっぱり優しいな。
 はぁ、なんか胸がいっぱいになってドキドキするや。
 これはちょっと森を散歩してからじゃないと、顔が緩んでダメかもしれな……。

「お、おい! お前、ユ、ユーフラン! 俺の存在忘れてるんじゃあないだろうな!」

 あ、ガチで忘れてた。
 えーと、なんだっけ、誰だっけ。
 ……カーズだった。

「忘れてた」
「ふ、ふざけんな!」
「なんの話だっけ」
「スターレットが俺に嘘を吐く必要だ!」

 ああ、あれか。
 ちょっと考えれば分かる事だろうに。
 ……あー、そのちょっと考える事さえしないのか、こいつは。
 仮にも王太子の側近候補がこれでは困るな。
 脳筋と括るとクーロウさんところの若い人たちに失礼だから、ただの馬鹿として再認定するとして……だとしても、これから一国を守っていく騎士団の長になるのならもっと頭の使い方を学んでほしいものだなぁ。
 相手がスターレット……次期宰相なら尚更だよ。

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