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おさらば

 改めて人事異動があった。頭取が取締役ではない相談役になった。支店長は常務取締役が外れて高知支店長に、次長は本店の総務課長、代理は和歌山の営業係長。頭取には大株主の家系の会長が兼務し、専務取締役に大蔵省官僚が天下りしてきた。検査部長は常務取締役になっている。それに私も検査課長の発令が出ている。
 急に周りが声をかけて来るが、私は今日でおさらばだ。大した荷物もないが鞄に引き出しのものを入れて、定時に通用口の用務員の人に頭を下げてビルを出る。
「検査に戻られるようで」
「いえ銀行員からもおさらばです」
「経理主任はよくそっと裏口を出て支店長の車に乗っていましたよ」
「頭取ですね」
「その頃は私は運転手で歳を取ってから用務員に回していただきました。見ざる言わざるですわ」
 いつものようにドアを押す。
 珍しく先生が若い女性を隣に座らせている。
「彼女は先生の生徒だった子。今年幾つになった?」
 ぽろんが親しそうに話す。
「22歳です」
「先生の元カノ。今はA高校の体育の先生。色々あってここで別れたのよ。別れた記念日でここに二人で来る」
「どうして?」
「またあほなことをしない記念日です。ママは何か今日はいいことある?」
「いえ」
「カレンダーに赤〇をつける日の話覚えていますよ。初赤〇ですよね?」
 珍しくぽろんが照れている。どうも先生にビデオを借りたようです。体育の先生もビデオに指をさしている。

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