10.ゴブリン退治
疎らに建ってる家々は木造で砂埃に塗れていた。
窓にはガラスなど無く、屋根の修理跡も多く見受けられる。
その周囲にある畑も乾いた土ばかりで肥沃な土地とは言い難い。
散見される村の住人らの服も綿製の地味なもの。
怜央達が来た村は決して裕福でないことが一目でわかる状況だった。
「よし! それじゃあ早速、ゴブリン退治に行きますかねー。情報によるとこの村に隣接する森の中にいるらしいけど――」
「あっちよ」
コバートがスマホで位置を確認していると、テミスはまるで知っていたかのように、何も見ずにそう答えた。
「ん……? あ、ほんとだ。流石テミス嬢だぜ!」
「――まあね」
実際、コバートが確認した情報と合致していた。
テミスの怪しげな微笑みには含みがあると感じた怜央だったが、かといって何か、言うわけでも無かった。
「よし、それじゃ改めて出発!」
コバートは楽しそうに、勇み足で先へと進む。
それにテミス、怜央と続き、最後にアリータが続いた。
◆◇◆
森の中へ入って数分、怜央はずっと、ある事が気がかりだった。
「なあ、これから戦闘になると思うんだけど、俺らはお互いをよく知らないよな。せめて事前にどう動くか確認したり、お互いの能力を確認しとかないか?」
依頼には武装ゴブリンの討伐と書いてあった。
相手が素手でさえ怪我を負う危険があるというのに、無策で突っ込むのは愚かとしか言えない。
慎重な性格の怜央はどうしても、具申せざるを得なかった。
「あら怜央、さっきパーティーを組んだ時気づかなかったの?」
「何に?」
「テミスが言ってるのは組んだ仲間の情報は見れるってことよ。仲間のアイコンをタップすれば使える魔法とかスキルとか、装備品は見れるのよ」
怜央は自分のスマホを取り出し言われた通りやってみる。
試しに、コバートを表す2頭身のデフォルメコバートをタップすると別ウィンドウが表示された。
――――――
【コバート】
専門/アーチャー
階級/ホワイトダイアモンド
種族/エルフ
ステータス
筋力/C
魔力/C
敏捷/B
体力/C
幸運/D
装備
武器/オスロ族の短弓
/メルシの短刀
頭/
首/
服/オスロ族の伝統衣装
手/オスロ族の革手袋
腰/皮のベルト
足/オスロ族の革靴
指/七宝リング(ホワイト)
その他/DWPSの腕輪
能力
・マジックアロー(M)
・ファイアアロー(M)
・トラッキングアロー(M)
・ヒール(M)
・カーブショット(T)
・――
――――――
「うわっ、めっちゃ詳しい。でもこれじゃ知られたくないことも知られちゃうんじゃ?」
「その点は大丈夫だ。見せたくないのがあれば設定で隠せるからな」
「そうか、よかった」
怜央は安堵した様子でほっとした。
「でもこの話を知らなかったってことは今も設定出来てないのよね」
怜央とテミスの視線は自然に重なり一瞬の沈黙に包まれる。
時が止まったかのような錯覚に陥るも、それはテミスの下卑た笑みによって再び動き出した。
未設定という事実に気づいたテミスは嫌がらせの如く速攻でスマホを弄り出したのだ。
「あっ、ちょっと!」
怜央はさせまいとテミスの妨害に走った。
しかし、テミスは一瞥もくれず怜央のあの手この手を華麗に躱す。
まるでどうくるか、分かっているかのような動きだった。
そうこうしているうちに、怜央の抵抗虚しく、プロフィールは覗かれてしまった。
そこにはこう記されていた。
――――――
【夏目怜央】
専門/
階級/ホワイトダイアモンド
種族/人間
ステータス
筋力/D
魔力/e
敏捷/C
体力/D
幸運/C
装備
武器/
頭/
首/
服/学生服
手/
腰/
足/運動靴
指/七宝リング(ホワイト)
/七宝リング(七宝)
その他/
能力
・魔力統制(S)
――――――
「ふんふん? なるほどねー。ベルちゃんも見る?」
テミスはアリータにスマホを投げると怜央がそっちに行かないよう羽交い締めにしてきた。
コバートは若干呆れている様子であったが馴れ合い程度の行いとでも思ったのか、別に止めることも無かった。
「『ベルちゃん』呼ぶな! ったく。なんでこう皆して普通に呼べないのかしらね」
一言文句を言ってスマホに目を通したアリータは、その内容が可笑しかったのか、笑いを堪え切れなかったという風に笑った。
「ぷっ、あっはは。ちょっと地味男、いくら何でもこれは酷いんじゃない?」
怜央はテミスの羽交い締めに抗う事を止め、恥ずかしそうに顔を覆った。
「だから見せたくなかったんだよ。まったく、邪魔しやがってテミスめ〜」
テミスは怜央を解放し、アリータはコバートにもスマホを渡した。
「まあ、俺はもうさっき知ってたんだけどな。確かに……微妙ではあるよな。この魔力統制ってのは見たことないけど、多分あれだろ? 魔力操作の上位互換とか」
「魔法を使う基礎の基礎、魔力操作なんて誰でも使えるものよね。それがわざわざ能力に表示されてるってことは、それ以外なんの取り柄も無いからじゃない? 魔法が使えないのに魔力操作だけできてもなんの意味もないのにね」
「あら? 怜央ってまさか要らない子?」
「うっ……」
皆の視線が妙に刺さる怜央は冷や汗が滲み出る。
頭をフル回転させてなんとか自分の存在意義を示そうと試みた怜央。
「確かに……確かに俺はあまり強くない! だが、そこまで言うんなら、君たちはさぞかし強いんだろうな!? これで俺と同じくらいだったけちょんけちょんに
怜央はスマホからアリータとテミスの情報を開いた。
――――――
【アリータ・フォン・ベルナロッテ】
専門/
階級/ホワイトダイアモンド
種族/吸血鬼
ステータス
筋力/A
魔力/B
敏捷/B
体力/B
幸運/D
装備
武器/
頭/
首/金のロケット
服/高級ドレス(黒)
手/絹のグローブ(黒)
腰/
足/高級革靴(黒)
指/七宝リング(ホワイト)
その他/ベレヌスのランプ
能力
・光子操作(M)
・光子拡散(M)
・光子収束(M)
・光子光線(M)
――――――
――――――
【テミス】
専門/正義の執行者
階級/ホワイトダイアモンド
種族/――
ステータス
筋力/――
魔力/――
敏捷/――
体力/――
幸運/――
装備
武器/
頭/――
首/――
服/――
手/――
腰/――
足/――
指/七宝リング(ホワイト)
その他/――
能力
・武器庫(S)
・――
――
それらを見た怜央は絶句した。
それはもう、地面に膝を付けるくらい絶句した。
「な、なんだこれは……!アリータお前っ、そんなナリして身体能力高すぎだろ。テミス、お前は隠しすぎてよくわからん! だが確かに、このパーティーで1番使えないのは――俺かもしれん……」
怜央はあまりのショックに地面に両手をついた。
それは申し訳なさからくる土下座に近いものかもしれない。
だが、このパーティーは腐ったものじゃない。
「おいおい!そんな気にすんなよ! 俺らパーティーだろ? これから強くなりゃいいのさ!」
「今は
「コバート……! テミス……!」
テミスの一言に棘はあったものの、フォローの部類ではあった。
怜央の目には輝きが戻り、この流れならばとアリータにその円な瞳を向ける。
「うっ……。ま、まあ、このパーティーも強制期間だけのつもりだし、少しの間くらいなら我慢してあげるわよ。 ――少しだけね!」
思ってたより心優しいパーティーメンバーに、怜央はちょっとだけ涙を零しそうになった。
「皆……ありがとう! 俺……攻撃手段ないけど、こう見えて防衛――」
そう言いかけた時、近くの薮がガサッと揺れ、怜央目掛けてあるものが飛んできた。
それは怜央の顔スレスレを通り、横に生えてた木に刺さって止まった。
その物体の正体は、刃渡り50cm程のグラディウス。
「えっ――」
怜央が間抜けな声を出して、飛んできた方向に目を向けると、間髪入れずにもう1つ飛んできたものがある。
それは、殺気を