第十三話 覚醒
約束しただろ。青蓮寺焔!!
だったら早く助けに行けよ!
今すぐ立ち上がって、綾香の所へ!!
だが、俺の意志に反して体はまったく言うことを聞かなかった。
どうした焔? 早く立ち上がれよ!!
頼むから言うこと聞いてくれよ!
早くしないと綾香が……動けよぉおおおおお!!!!
涙が溢れてきた。
助けに行きたい。助けに行かなければならないと分かっていながら、体が恐怖で震えて動こうとしない。
レッドアイに挑んだ奴らの末路を知っているから。
そのことを考えると、助けに行くことがあまりにも怖かった。
分かっていた。
どうせ俺が助けに行ったところで、綾香を救えないことを。
自分に力がないことを。
分かってる。
分かってはいるけど、何もできない自分に……言い訳して何もなそうとしない自分に……本当に腹が立って仕方なかった。
俺はただ綾香が無残にやられる様を見ることしかできないのか……
違うだろ。
今からでも遅くない。
少しでも綾香が逃げれる時間ぐらい俺でも作れるだろ。
だから頼むよ。
行けよ……行けよ……行けよぉおおおおお!!!
歯を強く食いしばり、全身に力を入れ立ち上がろうとする。
その時だった。
レッドアイは綾香に向かって、ゆっくりとナイフを振り上げようとしていた。
綾香は声にならない声を出しながら、恐怖で震えていた。
止めろぉおおおおお!!!
俺は必死に立ち上がろうとするが、全身が震えて、うまく立ち上がれない。
更に涙が流れてきた。
俺は情けない呻き声を上げながら、ただ綾香を見ていることしかできなかった。
なぜか綾香は俺の方に顔を向けた。
俺は綾香の顔を見て更に心が痛んだ。
綾香は涙で顔がぐちゃぐちゃになっていた。
だが、次の瞬間綾香は俺に向かって笑って見せた。
全身震えながら、涙を流しながら、頑張って笑顔を作っていた。
なんで綾香はこんな状況で笑ったのか。
最後に笑っている姿を俺に見せたかったのか。
約束のことを思い出して、俺に約束のことを忘れていいよと笑ってみせたのか。
その理由は分からない。
ただ一つ分かっていることがある。
それは今まで見た笑顔の中で一番きれいで、一番悲しい顔をしていた。
俺の中の何かが弾けた。
さっきまでの震えが嘘のように止まり、体がスッと軽くなった。
更に全身に力がみなぎってくるのがはっきりと分かった。
自然と体は動いていた。
一直線に。綾香の元へ。
レッドアイがナイフを振り下ろした瞬間。
「これ以上綾香に辛い思いさせるなぁあああああ!!!」
俺はレッドアイと自分自身に対して叫びながら、レッドアイの胸元に向かって、両足で飛び蹴りをぶちかましていた。