バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

第十話 昔話終わり

 あの出来事が起こったのは、小学4年生の時だった。
 

 俺たちはその日、公園でチャンバラをしていた。
 小学1年生の頃からやっていたから、けっこう様になった動きをするようになってきた。
 その日は夏休みだったから暑く、綾香は近くの屋根付きの休憩所で俺たちが遊んでいるのを見ていた。
 
 
 そこに他校の小学生がやってきた。
 背は俺たちよりだいぶでかかったから、おそらく6年生だろう。
 人数は3人だ。
 

 俺たちは特に気にすることなく、そのまま遊んでいた。
 だが、他校のやつらは、俺たちの方を見て何かひそひそ話しながらニヤニヤと笑っていた。


 話し終わると、俺たちの方へ近づいてきた。
 そして、そこのリーダー格であろう男が俺たちに話しかけてきた。


「なあ、君たち俺らと君らが今やっている遊びでチーム戦しないか?」


 当然、俺は疑問に思い言い返した。


「チーム戦って何ですか?」


「チーム戦っていうのは簡単に言えば、チームを組んでその木の棒で戦うこと。今ちょうど君らは3人で俺らも3人いるからチームはこれでいいだろ」


「それは良いけど、ルールはあるんですか?」


「ルールは相手の木の棒を叩き落すか、相手に木の棒を手から離れさせる。すると、相手はもうその木を拾って戦うことはできない。そして、手から離れさせる方法は体に直接攻撃を当てればいい。ただし、顔はなしだ。もちろん、君たちはガキじゃないからわかると思うけど、木の棒は当たると痛い。だから、『めちゃくちゃ』本気で殴らないこと。ルールはこれで終わりだ。早くやろうぜ」


 俺たちはこのルールに承諾し、チーム戦を始めた。
 だが、このときまだこの男が説明したルールの違和感に気づいてはいなかった。


 3人とも向かい合った状態でチーム戦はスタートした。
 俺が一番左で、冬馬が真ん中、龍二が一番右だ。
 

 スタートするや否やあちら側はすぐさまこちら側に走ってきた。
 当然俺たちは向かい合ったやつと戦うと思っていた。
 しかし、やつらは急に方向を変え、龍二に向かって3人が棒を振りかざした。
 あまりの恐怖だったんだろう。
 龍二はすぐに木を投げ捨てた。
 

 さすがは上級生だ。
 こんな戦法もあったのか。
 冬馬と2人で3人を相手にするのはきついなあ。
 

 そんなことを思いながら、改めて気を引き締めようとしたとき、わけのわからない光景が目の前に飛び込んできて、思考が停止した。


 3人が龍二を袋叩きにし始めた。
 かなり強い力で。
 

 龍二は地面に突っ伏し、体を丸めていた。
 その光景を俺と冬馬、そして綾香はただ茫然と見ていた。


 そのあとすぐに我に返り、3人に向かって叫んだ。


「何やってんだよお前ら! もう勝負はついてんだろ! 龍二を攻撃する必要ないだろ! もう止めろ!!」


 俺が叫んだあと、リーダー格の男がこっちを向いて、ニヤッと笑い答える。


「はあああ? 何で止めなきゃなんねーんだよ。ルールでは木を離したやつはもう戦えないとは言ったが、木を落としたやつは攻撃しちゃいけねーなんてルールはねーんだよ。それにこの戦いに勝敗なんて初めからないんだよ。そして、お前らはこのルールを承諾したんだから文句言えねーよな」


 言い終わると、大笑いしてまた叩き始めた。


 俺と冬馬も恐怖のあまり龍二を助けることができなかった。
 

 1分ほど経過して、やっと龍二への攻撃を止めた。
 龍二は傷だらけになっていた。


 そして3人は俺たちの方を向き、笑いながら近づいてくる。


「次はどっちにしようかな」


 冬馬はこの恐怖に耐えられず、泣きながら公園の外へ逃げて行った。
 そして、必然的に次のターゲットは俺になった。
 俺は恐怖で足がすくんで、その場から動けなくなっていた。
 俺は目を閉じ、歯を食いしばっていた。
 
 
 そして、まさに3人が俺に木の棒を振りかざしたとき、綾香が今まで聞いたことのないような大きな声で叫んだ。


「もう止めて!!!!」


 3人の手が止まった。
 そして、綾香の方に顔を向ける。


「お願いだから、もう止めてください」


 すすり泣くような声だった。
 だが、こいつらは綾香の願いを嘲笑った。


「女の子いたのかよー。女子の方がリアクション良いんだよなー。やっぱこっちで遊ぼうぜ」
「そうだな」
「さっきのガキもリアクション薄くて全然面白くなかったしな」


 そう言うと、綾香の方に3人は走りだそうとした。


 だが、俺はもう限界だった。
 龍二が傷ついた姿見て、綾香が傷つけられる姿を想像して、そしてあいつらがそれを楽しそうにやっている姿を想像して。


 そしたら、もうどうでもよくなった。
 俺の体がどうなろうと。
 あいつらの体がどうなろうと。
 もうどうでも……


 そのあとの記憶はない。
 気が付いたら、あの3人は倒れていた。
 綾香は無事で、龍二も起き上がっていた。
 

 その後、冬馬が先生を連れてきて、龍二たちを病院に連れて行った。
 後から知ったが、あの3人組は有名ないじめっ子だったそうだ。
 そいつらが通っている小学校ではよく暴力沙汰を起こしていたらしい。
 今、何をしているかは知らないし、顔もよく覚えてない。


 この出来事がきっかけで、もう木の棒で遊ぶことは禁止された。


 俺は記憶がなかったが、龍二と綾香は俺があいつらを倒すところをみていたらしく、どうやって倒したのか聞いたら、なんと3人の攻撃を同時にさばきながら、一人ずつ確実に倒していったみたいだ。
 速すぎて動きがあんまりわからなかったらしい。


 この出来事のせいで、龍二と綾香は俺のことを過大評価している。
 昔の俺はあいつらにとって英雄みたいなもんだったが、今の俺は……


 はい、昔話終わり。

しおり