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校外学習と過去の因縁⑮




そして――――足をそこへ運ぶにつれ、見えてくる数人の人影。 話し声はあまり聞こえず、先程から鈍い音だけがこの場に響き渡っている。 
その中では見慣れた一人の少年――――夜月が、やられていた。
「ユイ! 俺たちがアイツらの中に入って止めてくる! その間に夜月を!」
「分かった、頼む!」
彼らの状況を見て夜月を結人に任せた方がいいと判断した未来は、自らそう言い放ち不良たちのいる方へ足を向かわせる。
その声を素直に聞き入れた結人は、先に仲間を行かせその後ろから付いていくようなポジションに、入れ替わろうとすると――――

―――・・・ッ、誰だ!

突然視界に入った、一人の人影。 それに恐ろしさを感じ、結人は思わず未来たちに制御する指示を出してしまう。
「二人共待て!」
「「え?」」 「「あ?」」
今出した声は大きかったため、未来たちだけでなく不良たちにまでも届いてしまった。 男らはそれが聞こえると同時に動きを止め、結人のことを軽く睨むようにして見据える。
未来たちもどうして止められたのか分からず、不思議そうな表情でリーダーのことを見つめた。 そして――――結人の声に、夜月も気付く。
「どうして・・・未来たちが」
夜月は腹を片手で抱えながら壁にもたれかかり、とても苦しそうな表情をしていた。 立っているだけで精一杯といったところだ。
本来なら彼は喧嘩に負けるわけもなく、こんな姿にはならないのだが――――
事情を何となく察知した未来は、ふと今の状況を思い出し夜月の方へ視線を戻して言葉を発した。
「・・・あ、夜月! 大丈夫か?」
「おい。 お前らはここへ何をしに来た」
「夜月を助けに来たに決まってんだろ!」
未来からそのような答えが返ってくると、不良は複雑そうな表情を浮かべながら――――自分たちの後ろにいる一人の青年に向かって、口を開く。

「おい琉樹! これはどういうことだよ」

「え・・・。 琉樹・・・?」

「何か今俺ら、コイツらにやられそうになったんだけど?」

彼の口から放たれた“琉樹”という名に、またもや反応を示す未来。 そして――――
「・・・何だよ。 お前らも来たのか」
ニヤリとした不気味な笑みを浮かべながら、ゆっくりとみんなの目の前に姿を現した青年――――琉樹。 結人は嫌な予想が的中し、その悔しさに思わず歯を食いしばった。
「琉樹、にぃ・・・」
「よぉ未来。 やっと思い出したか」
「どうして・・・ッ。 おい、夜月に何をした!」
未来は相変わらず上下関係を気にしない性格のため、琉樹が年上にもかかわらず強めの口調でそう言い放つ。 
だがそんな彼に対して何も違和感を持たない琉樹は、淡々とした口調で答えていった。
「別に何もしていないぜ? ただ、俺たちの遊びに付き合ってもらっていただけだ」
「遊び? これのどこがだよ。 こんなに夜月に怪我をさせておいて、これは完全にいじめだろ!」

「は? 何だよそれ。 夜月はそれなりの罪を犯したんだぞ」

「・・・」
未来はどうして夜月がこうなってしまっているのか原因が分からず、言い返すことができなくなり口を噤んでしまう。 
そんな彼を数秒見据えた後、琉樹はもう一人の少年の方へ目をやった。
「お前は・・・色折結人か?」
「ッ・・・。 どうして、俺の名前を」
突然名を当てられ、動揺を隠せず素直な態度を示す。 そんな結人に向かって、今度は笑いかけながら言葉を紡いだ。
「そりゃ憶えているさ。 一時期、お前には世話になったからな。 つーか・・・お前も、夜月を取り返しに来たのか?」
「あ・・・当たり前でしょう!」
なおも動揺しながらも力強く返したその発言に、相手も何食わぬ顔で続けていく。

「未来たちがここへ来たことに関しては何も思わなかったけど、まさかお前までも来るとはな。 いつの間にお前らは仲よくなったんだよ。
 昔はお前・・・夜月に、あんなに嫌われていたっていうのに」

「ッ・・・。 そんなこと、今は関係ないです」
「関係ない、か・・・。 そうか・・・。 お前は、俺にいじめられていた時のこと、憶えているよな?」
「・・・」
何も答えることができず頷くこともできない結人に、琉樹は躊躇いもせずある一言を放った。

「夜月のせいで、お前は俺からいじめられていたんだぜ」

「え・・・」

―――それは・・・どういうことだよ?
いきなり言われた衝撃的な発言に、より何も言えなくなってしまう。
「あの時はマジで悪かったな。 今思えば何の罪もないお前に手を出しちまって、反省はしているさ。 
 でもお前は・・・自分がいじめられていた原因が夜月だと分かった今、それでも夜月を助けようとすんのか?」
「・・・あぁ」
結人は思わず、その一言を返してしまった。 だが後悔はしていない。 そんな結人を見て、琉樹は小さく笑った。
「へぇ、そうか。 お前も昔から何も変わっていないな。 常に素直で仲間を大切にする人思いな奴・・・。 あぁ、変わっていないぜ。 
 でも少しくらい、夜月のことを恨んでもいいんじゃないか?」
「いや・・・。 俺は別に、そんなこと・・・」
その問いにおどおどとした口調で答えていると――――彼はふと何かを思い出したかのように、こう口を開く。
「あぁ、話が脱線したな。 お前らは、夜月を取り返しに来たんだっけか」
その言葉に、結人も本来の目的を思い出し返事をした。
「・・・あぁ、そうです。 俺たちは今、校外学習中だっていうことは・・・未来たちから聞きましたよね?」
「・・・あ! そうだったな、忘れていたわ」

―――ちッ・・・忘れていたのかよ。

「とっくに集合時間は過ぎているんですよ。 だから俺たち、先生に怒られるのはもう確定なんです。 そろそろ夜月を返してくれませんか。
 もし返してくれないなら、先生たちを今ここに呼んで」
「あぁ、いいぜ。 返してやる」
「・・・」
―――あれ・・・やけに素直だな。
「おい待てよ琉樹!」
勝手に話を終わらせた琉樹に、不良たちが止めに入る。 そんな青年たちに向かって、彼は言葉を返した。
「今日はもういいだろ。 今日の残りの分の埋め合わせは、また夜月を使ってやってやるからさ。 あぁ、そうだ。 お前ら、このことは先生たちにはチクんなよ?」

―――・・・これはきっと、夜月と琉樹さんだけの問題ではない。
―――夜月のせいで俺はいじめられていたっていうのなら・・・きっと俺も関係しているはずだ。
―――・・・だったら学校には、あまり言わない方がいいか。

そう判断した結人は、その頼みに頷く。
「いいっすよ。 分かりました」
「ふッ。 相変わらず、聞き分けがいい奴だな」
鼻で笑いながらそう言い放った琉樹に――――彼のことを睨み付けながら、言葉を返した。
「でも俺は、アンタのことは許していません」
「あ?」
突然挑発的な態度を取ってきた結人に、琉樹も睨み返す。
「小学生の頃、俺をいじめていたことに関しては恨んだりしていません。 それに怒ってもいません。 
 ・・・だけど、大切な仲間である夜月のことを傷付けたことに関しては、許していません」
「何が言いたい」
そう尋ねられると、なおも鋭い目付きで睨んだまま――――言葉を、放ち続けた。
「二人の間で、何があったのかは知りませんが・・・。 今まで夜月に苦しい目を遭わせてきた分、その仕返しをいつかさせていただきます」
「そんなことができると思ってんのかよ。 ・・・まぁ、今はいい。 これ以上怪我人を出しても、面倒になるだけだしな。 でも俺たちの間に、無理矢理入ってこない方がいいぞ」
「仲間を放っておけるわけがないでしょう」
そう即答した結人に、琉樹は面倒くさそうに溜め息をつき、呆れた口調で返していく。
「あぁ・・・鬱陶しい。 もう勝手にしろ。 昔みたいに俺に手を出されたくなかったら、今も素直に俺の言うことを聞いていればいいのによ。 それじゃあ夜月、またな」
そう言って――――彼は仲間である不良たちを連れて、この場から去っていった。


「夜月!」
彼らが去った後、未来と悠斗はすぐさま夜月のもとへと駆け寄った。 そんな二人につられ、結人もゆっくりと仲間の方へ足を進める。
「・・・ユイ」
どこか複雑そうな表情を見せる夜月に、優しく笑って言葉を紡いだ。
「いいよ、夜月。 何も言わなくて。 俺は大丈夫だよ。 夜月に対して、怒ってなんかいない。 悠斗、夜月に手当てをしてやって」

そして――――悠斗に手当てをされながらも、夜月は結人に理由を尋ね続ける。
「ユイ・・・どうして」
その発言に対しても、笑って言葉を返した。
「・・・夜月に嫌われて、俺から離れていってほしくないからかな。 つーか・・・このことを夜月の前で言う俺って、何かズルいか。 やっぱり俺、夜月の言った通り偽善者かもな」
「・・・」
それを聞いて、夜月は気まずそうに視線をそらす。 続いて結人も視線をそらし、真剣な表情になった。

―――確かに俺は、琉樹さんを許してはいない。
―――二人の間に首を突っ込んではいけないって分かってはいるけど、大事な仲間である夜月を見捨てるわけにはいかない。
―――次琉樹さんと会うとしたら・・・夏休み。
―――そこからが勝負だ。

夜月の手当てが終わり、ホテルに戻った彼らは――――先生に酷く叱られたということは、言うまでもないだろう。


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