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カーネーション

 3日ぶりにドアを開ける。どうしても彼女が言ったミルクの味は思い出せない。あれは一つのジョークだったのか。今日は氷雨の降らない暖かい夜だ。まだ9時を過ぎた時間だ。
 カウンターに2人が座っている。作業服を着た近くの工場の人?もう一人は背広にネクタイの年配の人。彼女はあの日の記憶がないようにカラオケをセットしている。でも無言でビールの小瓶を抜く。私は落ち着いた雰囲気になって鞄からファイルを出して目を通す。
 7億の金が消えている。これが私が所属していた検査部の結論だった。だが難しい社内体制で強硬な検査を行えない。上席の検査部長は平取りで中間派、この支店は歴代の頭取派の支店長が取り仕切っている。それで課長代理補だった私が人事に移って派遣されることになった。
「今日は焼きそばが残ってるけど食べる?」
 カウンターに千円札が2枚、どうやら作業服の人が出て行ったようだ。それに合わせて音楽に切り替える。
「それでミルクの味忘れてしまったの?」
「記憶に無いなあ」
「でも今日はだめよ」
「彼女はねえ、その気がある時はポールウインナーのガラスコップにカーネーションを挿すんだよ」
「先生はA高校の国語の先生」
「今日はカーネーションがあんな棚の上にある」
「こんな堅物だけどぽろんの常連よ」
 先生が生徒のおっぱいを吸うの思い浮かべて、つい親しさを覚えて話し込んでしまった。

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