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#1 就活生 異世界へ

『この度は弊社新卒採用にエントリーいただき誠にありがとうございました。
 慎重に選考を進めた結果、誠に残念ながら…』

俺はそこまで読むとスマホをベッドになげつけた。

「残念と思ってんなら採用しろよ、くそっ」

これが通算30社目の<お祈りメール>だった。

「あー、いったいあと何社受ければいいんだよ…」

俺、冴原(さえはら)冴登(さえと)はごく普通の家に生まれ、ごく普通に過ごし、ごく普通の大学に進学した。名前ほど冴えた人生ではなかったがそれでも今の時代だとそれほど苦労せずに就職できると思っていた。

しかし結果はこのざま……

「ちょっと散歩でもいくか…」

俺は家の周りを当てもなく散歩し始めた。

家にいても、妹や母に就活のことをうるさく言われるだけだったし、とにかく動いてないと気が落ち着かない。

「(だいぶ精神にきてんのかな…)」

夕暮れの町を力なく歩く。


「シュッシュ!シュ~」

「な、なんだ?」

聞いたことのない鳴き声が聞こえる。

「たしかこっちの方から………うわっ!!」

草むらからいきなりなにかが飛びついてきて思わず尻もちをついてしまった。

「いてて…ってなんだよこいつ!?」

俺の胸に飛びついてきた白い物体の首を持ちあげよく観察する。
見たことのない生き物だ。

「ハムスター?にしてはでかいし、それにこの背中から生えてるのは…羽?」

「シュ~~~~~」

白い生き物は持ち上げられ嫌そうにうなっている。

それにしても触り心地がフワフワで気持ちいい。

「お前背中ケガしてるな。それにしてもこの触り心地は…」

「シュア~!」

「イテッ!!おいちょっと待て」

つい気持ちよさそうなので頬ずりしようと顔に近づけたらひっかかれ、手を放してしまった。

俺は逃げていくその白い生き物を追いかける。

「はぁ…はぁ…、ここはどこだ?」

探しているうちに辺りも暗くなり見たことのないところまで追いかけてきてしまった。

「全然知らないとこまで来たな。――あぶねっ!!」

目の前に急な崖が現れ、あと一歩で落ちてしまうところだった。

「って、急に崖っておかしいだろ……。いったいどこまで追いかけて来たんだよ…。あー
、もう帰ろ。」
白い生き物を追いかけるのをあきらめ崖に背を向け歩き出そうとした

――そのとき。

ガサガサ

草むらが揺れている。

なにかいるのか?

俺は恐る恐るその揺れてる草むらに近づく。

「シュシュッ!!」

あの白い生き物が俺の胸めがけてとびついてきた。

「うわっ!」

俺はつい無意識にその白い生き物を避けてしまった。

「しまった!」

白い生き物はそのままの勢いで崖から空中へと飛び出す。

(くそっ!まにあえ!!)

俺は崖から飛び出したその白い生き物に目一杯手を伸ばす。

が、ぎりぎり届かない。

――あっ、やばっ。

俺はバランスを崩し、その生き物を追いかけるように崖を飛び出す。

(あっ、これは死んだわ)

死を悟り、崖を落ちながら上を見ると白い生き物は羽を広げ飛んでいる。

(なんだよ、お前飛べたのかよ…。てことは俺は無駄死にってことか…。こんな死に方するなら就活なんてしてないでもっと遊んでればよかった…かな?)

俺はそこで意識をうしなった。



※       ※         ※           ※ 

――頭の中を声がよぎる

【さぁ、キミはどんな未来を私に見せてくれるのかな?】

その声はとてもうれしそうで…

それでいて、とても悲しそうだった…

※         ※          ※             ※

――そしてまた声が聞こえる。

「…うや、ぼうや、大丈夫?」

目を開けると女の人が心配そうに俺を見つめている。

――きれいな人だ。

「ほらほら、もう大丈夫でちゅからねー。」

俺はその人に持ち上げられる。



………持ち上げられる!?

なんだこの巨大な女の人は…。
軽々と俺を持ち上げるなんて。

――ぽよんっ

この感触は!!

「…っん、ごめんねー、お姉さんはまだおっぱいはでないのよ。うーん、そうよね、お腹すいてるわよね。」

ちょっと待ってね、と言いながら俺を床に下ろしお姉さんは走っていった。

ここはいったい…

(あぁ、そっか!俺は死んだのか。でもよかった。あんなきれいな人がいるってことはきっと天国にこれたんだな!あー、就活で苦しむ人生があまりにもかわいそうだからって神様が同情して天国に送ってくれたんだな、きっと。)

そんなことを考えながら俺は周り見渡す。

(それにしても天国って殺風景なところなんだなー。それになんで物がこんなにでかいんだ?)

家にある家具すべて異様に大きい。

それに体が重くて動きにくい。
俺は這いつくばりながら家の中を見て回る。

(なんてでかさの鏡だよ。………………え?あれ?)

巨大な鏡を見ると異変に気付いた。

そこには俺は映っておらず、代わりに見たことのない赤ん坊が鏡を見つめている。

(まさかな………)

俺は自分の手を見る。
とても小っちゃくてかわいい手だ。

(おいおい、うそだろ。これは俺なのか?あっ、もしかして俺って生まれ変わってまた1から人生をやり直してるのか?漫画では転生して異世界へ行くのとか読んだことあるけど、あれってほんとにあったんだなー)

俺は考えるのをやめてそう納得することにした。

だが、それが間違いだとすぐに気づく。

(あれ?でも、この赤ん坊…なんか見たことある気がする…)

よくよく見てみると、その赤ん坊はどこかで見たことがあった。



……俺だ!

家のアルバムに写っていた赤ん坊のころの俺にそっくりだった。

(どういうことだよ。俺は生まれ変わったんじゃなくて、ただ赤ん坊にもどったのか?転生じゃなくて、若返ったってことか…。えっ、それじゃここは日本…?)

俺は訳が分からず、ゴロゴロと小さい体で転がる。

「こらこら、まだおとなしくしてなきゃだめよ。一応ミルク温めてみたんだけど飲めるかしら。」

お姉さんがこちらに近づいてくる。

「ばぶばぶぶ!ばぶぶばぶばぶっ!!(違うんです!俺は大人ですっ!!)」

「はいはい、わかったわかった。お腹すいてるのねー。今飲ませてあげるからねー」

だめだ、なにも伝わらなかった………。


お姉さんにミルクを飲ませてもらい、俺は今の状況を整理しようと思い周りを見渡す。

部屋自体はあまり大きくなく、どちらかというと山小屋みたいな雰囲気だ。お姉さんは俺より少し年上に見えるが…それにしてもきれいだ…。

おっと、つい関係ないことをかんがえてしまった。。

(そもそも俺は白い生き物を追いかけて崖から落ちたんだったよな………)


そういえば俺の言葉はお姉さんには通じなかったけど、お姉さんの言葉は普通に理解できた。
だが明らかにお姉さんは日本人ではなく外人に見えるんだけど…。

そんなことを考えていたらミルク瓶を洗い終えたお姉さんが俺に近づいてきた。

「うーん、この子どうしよう…。やっぱり教会に届けたほうがいいわよね……。でもそのためには街に下りないといけないわね…。」

お姉さんは俺を見てつぶやく。

「そういえば名前もわからないわね、なんて呼べばいいのかしら…。」

そのときだった。

ドンドンッ!!

外から誰かが来たようだ。

「お嬢さん、居るんだろ?金の用意はできたか?」

そう言って扉をこじ開けて入ってきたのは、いかついマッチョとチビ男だ。

「センドさん…。ごめんなさい、まだ用意できてなくて…。」

「あぁん?いっつもそればっかりじゃねぇか!こっちもお前のおやじさんの借金払ってもらわないと生活がきつきつなんだよ!まぁ、お金が用意できねぇなら、それならそれで他の物で支払わないとなぁ!」

そういうと、チビ男はお姉さんに迫る。

「い、いや、やめてっ!!」

(やばい、なんだかわからないけどお姉さんがピンチだ)

俺はなにかないか辺りを見渡す。

「ばぶばぶばぶぶ!!(お姉さんから離れろ!!)」

おれはチビ男に向かって近くにあった本を適当に投げつけた。

ゴンッッ!!!!!

運よくそれはチビ男の頭にクリーンヒットしチビ男は気絶してぶっ倒れた。

(あれ?赤ん坊なのになんでこんな腕力が?)

「あ、アニキっ!?こ、このガキ、覚えてろよ!!」

いかついマッチョはチビ男を持ち上げ小屋から出て行った。


「ぼ、ぼうやっ!大丈夫?ケガしてない?」

お姉さんが近づいてきて俺を抱きしめる。


「ほんとにありがとうね。――あっ、そうだわ!!いまあなたの名前を思いついたわ!あなたの名前は『アーロン』でどうかしら?」

「ばーぶ?(アーロン?)」

「そう、アーロンはね、『使者』って意味があるの。あなたは私を助けてくれた。あなたは私にとって幸せを届けてくれる『使者』なの!」


幸せを届ける使者か…

アーロン…

――悪くないな。

「ばぶっ!!」

俺は大きく頷いた。


「あっ、それはそうとあの子はどうなったかしら?」

そういうとお姉さんはテーブルの上に置いてある箱から何かを持ち上げた。

「ばぶっ!?ばぶばぶ!!(あっ!?そいつは!!)」

「あら、アーロンちゃんこの子しってるの?この子はあなたの入ってた箱の横にこうして眠っていたのよ。」

そういうとお姉さんは白い生き物を持ち上げた。

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