19 さよならのかわりにラブレターをもういちど
さよならさんかく
またきてしかく
しかくはとうふ
とうふはしろい
言葉遊びの歌がカナタの頭に響く。
あのあとすぐに馬車で村に戻ることになった。
揺られる馬車の中。
ミソノは疲れ果てて眠っている。
カナタも疲れて眠ろうとしていた。
いろんな事があった。
絶望するような出来ごとだらけ。
カナタは、瞼を閉じる。
すると声が聞こえる。
「こちら凄惨な事件があった枚方市都ヶ丘現場付近です」
テレビで聞いたことのある声だ。
そのときカナタは思った。
やっぱり今までの出来ごとは夢だったんだ。
異世界に転生とかたちの悪い夢なんだ。
そう思って瞼を開ける。
その世界は馬車の中だった。
隣でミソノが小さな寝息を立てている。
「そう都合よくないよね」
カナタがそっと呟いた。
カナタの目が赤く光る。
そのことにカナタは気づいていない。
「眠ろう」
カナタは再び目を閉じる。
「現場では被害者である水野彼方さんを惜しむ声と時折りすすり泣く声が聞こえます」
そこには懐かしいテレビの画面に懐かしいレポーターの顔。
そして懐かしいクラスメイトの顔が映し出される。
カナタはそれだけで泣きそうになった。
自分の遺影の姿も見えた。
そして不安なのは深雪の表情。
「怖い怖い怖い怖い」
深雪が泣いている。
なんでだ?どうしてこうなった?
「大丈夫よ、深雪ちゃん」
湊が深雪の体を抱きしめている。
深雪が泣きながらいう。
「怖いよ怖いよ湊お姉ちゃん。
私、6円にされちゃう」
カナタが彼方だった頃。
通り魔に殺された。
何もかも懐かしかった。
いろんな記録が頭の中に流れてくる。
母がショックで倒れたこと。
刑事の父は襲ってくる負の感情を押さえ仕事に向かっていること。
すべてが一瞬で変わったこと。
そして誠が後悔していること……
「兄さん見ているか?」
誠の声が聞こえる。
「なんだい誠?」
誠が答える。
「今、アンタが死んで大変なことになっているぞ?」
「そうなんだ?」
「家族はみんなバラバラ……」
「うん」
「本当にバラバラなんだ。
戻ってこいよ」
「戻れないよ」
カナタがそう答えたとき。
ふと思う。
会話が成立していない。
これは誠の心の声なんだと。
誠には届かない。
「さようなら」
カナタはそっと呟いた。
世界はちょっとだけ優しくなれた気がした。